2024年02月22日

海外投資家地域別売買動向(24年1月)~市場を動かす欧州投資家~

金融研究部 研究員 森下 千鶴

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東京証券取引所は、毎月20日前後に「北米」「欧州」「アジア」「その他地域」の4つの地域別の海外投資家の現物取引の売買動向を公表している。1月のデータによると、特に「欧州」が大幅に買い越していた。

海外投資家の存在感がどの時点から顕著になったのか確認したところ、特に2013年以降に売買代金が増加し、市場全体に占める海外投資家の割合は2010年代後半以降60%台へと上昇した。さらに、海外投資家全体における売買代金の地域別シェアをみると、2023年は「欧州」のシェアが海外投資家全体のほぼ8割に達していることを確認した。

■欧州投資家が大幅な買い越し

■欧州投資家が大幅な買い越し

東京証券取引所が、2024年2月20日に公表した1月の海外投資家地域別売買動向によると、「北米」「欧州」「アジア」の各地域からの投資家が買い越しとなり、「その他地域」では売り越しが観測された。特に「欧州」の買い越しは1兆8,581億円に達し、地域別で最大の買い越し額だった。
図表1 地域別売買動向の推移
図表2から、過去3年間の海外投資家による地域別売買動向の累積をみると、特に「欧州」の影響力が際立っている。2023年4~6月にかけての3カ月間で「欧州」は4兆6,789億円もの現物を買い越し、この期間に日経平均株価は約5,000円上昇した。2023年後半には一時的に売りが優勢になる場面もあったが、2024年1月まで総じて買いが継続している。

この売買データは、東京及び名古屋の証券取引所で株式の売買を行う資本金30億円以上の証券会社51社のデータに基づいて計算している。投資資金の経由は様々であるため、実際の資金の出所は特定できないものの、2023年4月以降の買い越しは、東証の要請による企業改革への期待、米著名投資家による日本株への強気な姿勢、緩和的な金融環境に対する安心感などを背景に、欧州の中長期投資家や欧州経由での中東のオイルマネー、さらに先行き不透明感が懸念されている中国から逃避した資金が日本に流入している可能性が考えられる。
図表2 「欧州」の日本株買い越しが突出
では、海外投資家の存在感はどの時点から顕著になったのだろうか。

まずは、海外投資家全体の日本株市場における売買代金の割合の推移を確認してみる。1999年以降の海外投資家による現物取引の売買代金の合計を年次でみると(図表3)、特に2013年以降に売買代金が増加している。この増加は、2012年12月に発足した第2次安倍政権下で展開された「アベノミクス」という経済対策が契機となっている。アベノミクスによる日本企業の変革への期待や日銀による大規模金融緩和が、海外投資家による株式の買いを促したと推測される。結果として、市場全体に占める海外投資家の割合は2000年代の30%台から、2010年代後半以降には60%台へと大きく跳ね上がり、日本市場における海外投資家の影響力が増大した。
図表3 アベノミクスをきっかけに海外投資家の売買代金が増加
図表4は、1999年以降の海外投資家全体における売買代金の地域別シェアの推移をまとめたものである。2000年時点では、「北米」が39%、「欧州」が38%、「アジア」が19%と、「北米」と「欧州」のシェアは拮抗していた。しかし、2000年代後半に入ると、「北米」のシェアは20%台へと低下したが、「欧州」のシェアは40~60%台へと上昇した。アベノミクスが導入された2013年以降も「北米」のシェアは減少した一方で、「欧州」のシェアは着実に増加しており、2023年には「北米」7%、「欧州」76%と、「欧州」の売買代金が海外投資家全体のほぼ8割を占めている。また、「アジア」のシェアは10%台で推移し、2023年には16%と、「欧州」に次ぐ売買シェアが確認されている。
図表4 地域別売買シェアの推移
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
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金融研究部   研究員

森下 千鶴 (もりした ちづる)

研究・専門分野
株式市場・資産運用

経歴
  • 【職歴】
     2006年 資産運用会社にトレーダーとして入社
     2015年 ニッセイ基礎研究所入社
     2020年4月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員
     ・早稲田大学大学院経営管理研究科修了(MBA、ファイナンス専修)

(2024年02月22日「基礎研レター」)

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