2023年09月08日

2023・2024年度経済見通し-23年4-6月期GDP2次速報後改定

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1. 2023年4-6月期の実質GDPは前期比年率4.8%へ下方修正

9/8に内閣府が公表した2023年4-6月期の実質GDP(2次速報値)は前期比1.2%(年率4.8%)となり、1次速報の前期比1.5%(年率6.0%)から下方修正された。

2023年4-6月期の法人企業統計の結果が反映され、設備投資が1次速報の前期比0.0%から同▲1.0%へと下方修正されたことに加え、1次速報後に公表された基礎統計の結果を受けて、民間消費(前期比▲0.5%→同▲0.6%)、公的固定資本形成(前期比1.2%→同0.2%)が下方修正されたことが成長率の下振れにつながった。

2023年4-6月期の成長率は下方修正されたが、民間消費、設備投資を中心として内需が減少する一方、外需の大幅な押し上げを主因として高成長となったことは1次速報と変わらない。輸出の増加は1-3月期の反動による部分が大きく、輸入の大幅減少は内需の低迷を反映したものと捉えることができる。成長率が示すほど景気の実勢は強くない。
名目GDPと実質GDPの推 2023年4-6月期の実質GDPの水準はコロナ禍前のピーク(2019年7-9月期)を0.2%上回った。また、名目GDPは2022年10-12月期(前期比年率5.0%)、2023年1-3月期(同9.0%)、4-6月期(同11.4%)と3四半期連続で実質の伸びを大きく上回り、2023年4-6月期はコロナ禍前のピーク(2019年7-9月期)を5.0%上回った。
(経常利益は過去最高水準を更新)
財務省が9月8日に公表した法人企業統計によると、2023年4-6月期の全産業(金融業、保険業を除く、以下同じ)の経常利益は前年比11.6%(1-3月期:同4.3%)と2四半期連続の増益となり、増益率は前期から高まった。製造業が前年比0.4%(1-3月期:同▲15.7%)と小幅ながら3四半期ぶりの増益となったことに加え、非製造業が前年比19.0%(1-3月期:同17.2%)と10四半期連続の増益となり、前期から伸びを高めたことが全体の収益を押し上げた。
経常利益(季節調整値)の推移 季節調整済の経常利益は前期比9.5%(1-3月期:同7.4%)と2四半期連続で増加した。製造業が前期比12.5%(1-3月期:同6.2%)、非製造業が前期比8.0%(1-3月期:同8.0%)となった。

2023年4-6月期の経常利益(季節調整値)は26.9兆円となり、2四半期連続で過去最高水準を更新した。製造業は過去最高となった2022年7-9月期を▲8.5%下回っているが、非製造業が2023年1-3月期に続き過去最高を更新した。

2023年4-6月期の企業収益は製造業、非製造業ともに改善したが、均してみれば、輸出、生産活動の低迷を主因として製造業が伸び悩む一方、経済正常化に伴う個人消費を中心とした国内需要の底堅さを背景に非製造業が大きく改善している。

2. 実質成長率は2023年度1.5%、2024年度1.4%を予想

2. 実質成長率は2023年度1.5%、2024年度1.4%を予想

2023年4-6月期のGDP2次速報を受けて、8/16に発表した経済見通しを改定した。実質GDP成長率は2023年度が1.5%、2024年度が1.4%と予想する。2023年4-6月期の実績値が下振れたことを受けて、2023年度の成長率見通しを▲0.1%下方修正した。
(国内需要中心の成長が続く)
2023年4-6月期は外需が成長率を大きく押し上げたが、輸出の高い伸びは1-3月期の落ち込みの反動による部分も大きい。7-9月期以降はインバウンド需要を中心にサービス輸出の増加が続くものの、海外経済の減速を背景に財輸出は低迷する可能性が高い。輸出が景気の牽引役となることは当面期待できないだろう。一方、民間消費は社会経済活動の正常化を受けて、対面型サービスを中心に回復し、設備投資は高水準の企業収益を背景に増加傾向が続くだろう。日本経済は内需中心の成長が続くことが予想される。

2023年7-9月期は、輸出が低い伸びにとどまる中で、輸入が4-6月期の落ち込み(前期比▲4.4%)の反動で大幅増加となり、外需が成長率を大きく押し下げることから、実質GDPは前期比年率▲0.8%と4四半期ぶりのマイナスになると予想する。民間消費などの内需は底堅さを維持するものの、外需の落ち込みが大きいため、マイナス成長は避けられないだろう。

米国が小幅ながらマイナス成長となる2024年1-3月期は、輸出の減少を主因として年率ゼロ%台の低成長となるが、海外経済の持ち直しが見込まれる2024年度入り後は輸出の回復を主因として成長率が高まるだろう。
実質GDP成長率の推移(年度)/実質GDP成長率の推移(四半期)
(2023年度の名目GDP成長率は32年ぶりの高水準へ)
名目GDPは実質GDPを上回る高い伸びが続いている。輸入物価の上昇を国内に価格転嫁する動きが広がり、国内需要デフレーターが上昇するもとで、GDPの控除項目である輸入デフレーターが低下しているため、GDPデフレーターが大幅に上昇している。GDPデフレーターは2023年4-6月期の前年比3.5%から7-9月期に同4.5%まで伸びを高めた後、ピークアウトする公算が大きいが、2023年度のGDPデフレーターは前年比3.2%となり、2022年度の同0.7%から大きく加速するだろう。この結果、2023年度の名目GDP成長率は4.7%となり、1991年度1(5.3%)以来、32年ぶりの高さとなることが予想される。
GDPデフレーターの要因分解と予測/名目・実質GDP成長率の推移
 
1 GDP統計の簡易遡及系列による
(物価の見通し)
消費者物価(生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)は、2023年1月に前年比4.2%と1981年9月以来41年4ヵ月ぶりの高い伸びとなった後、政府による電気・都市ガス代の負担緩和策の影響で2月以降は3%台前半で推移している。しかし、コアコアCPI(生鮮食品及びエネルギーを除く総合)は4%台前半まで伸びを高めており、基調的な物価上昇圧力は一段と高まっている。

足もとの消費者物価は、政府の物価高対策(ガソリン・灯油、電気・都市ガス代)によって押し下げられている。ガソリン、灯油等に対する燃料油価格激変緩和措置(ガソリン補助金)は6月以降、補助率が段階的に引き下げられ、9月末には同措置が終了する予定となっていた。しかし、円安・原油高の進行によってガソリン店頭価格が過去最高値を更新する中で、政府はガソリン補助金を年末まで延長することを決定した。また、2023年1月使用分(2月請求分)から実施されている電気・都市ガス代の激変緩和措置については、9月使用分(10月請求分)から12月使用分(1月請求分)まで補助を半減した上で継続する方針となった。

今回の見通しでは、ガソリン補助金については、2024年1月以降も補助率を引き下げた上で2024年度末まで継続、電気・都市ガス代の激変緩和措置についても、2024年1月から2024年度末まで負担軽減策が継続することを前提とした。
 
物価高の主因となっていた輸入物価の上昇には歯止めがかかっており、2023年7月の輸入物価は前年比▲14.1%の大幅マイナスとなった。このため、今後は原材料コストを価格転嫁する動きが徐々に弱まり、財価格の上昇率は鈍化することが見込まれる。

一方、サービス価格は2023年7月に前年比2.0%まで伸びが高まり、2023年のベースアップと同程度の伸びとなった。サービス価格は、長期にわたって価格が据え置かれてきたこともあり、上昇ペースがさらに加速する可能性が高い。
財・サービス別の消費者物価(生鮮食品を除く)/サービス価格と賃金(ベースアップ)
コアCPI上昇率は足もとの3%台から2023年秋に2%台後半まで鈍化するが、日銀が物価安定の目標としている2%を割り込むのは、輸入物価下落の影響が波及することにより財価格の上昇ペース鈍化が明確となる2024年度入り後となるだろう。
消費者物価(生鮮食品を除く総合)の予測 財・サービス別には、2022年度は物価上昇のほとんどがエネルギー、食料(除く生鮮食品、外食)を中心とした財の上昇によるものだったが、2023年度から2024年度にかけては、物価上昇の中心が財からサービスへ徐々にシフトしていくだろう。

コアCPIは、2022年度の前年比3.0%の後、2023年度が同2.8%、2024年度が1.6%、コアコアCPIは2022年度の前年比2.2%の後、2023年度が同3.8%、2024年度が同1.5%と予想する。
日本経済の見通し(2023年4-6月期2次QE(9/8 発表)反映後)
 
 

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2023年09月08日「Weekly エコノミスト・レター」)

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