2023年08月28日

シングル高齢者の増加とその経済状況~未婚男性と離別女性が最も厳しい

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子

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1――はじめに

未婚率の上昇や離婚件数の増加などによって、65歳以上で配偶者がいないシングルの高齢者が増加している。多くの高齢者が子や孫と暮らしていた時代には、家族で支え合って生活していれば、配偶者に先立たれて「シングル」となっても経済的な問題はなかったであろうが、現在は、二世帯や三世帯といった家族形態は減った。シングルで高齢になり、家計上または生活上、支え合う家族が家の中にいないと、困難が生じることもある。また、未婚のまま老親と同居しているというような二世帯家族の場合でも、本人の就労による収入や年金が少ないと、親が死去して親の年金が無くなったら、途端に困窮するリスクがある。もちろんシングルであっても、自立して生活し、友人知人との交流が盛んな高齢者も大勢いるが、そうでない人もいるだろう。増え行くシングル高齢者の経済状況や暮らしぶり、意識などは、まだ十分分かっていないように思う。

そこで、本稿から続く基礎研レポートシリーズでは、国内でのシングル高齢者のボリュームや暮らし、意識等について、政府統計や、公益財団法人「生命保険文化センター」(以下、文化センター)が2020年に実施した「ライフマネジメントに関する高齢者の意識調査」の高齢者調査1のデータを用いて、分析する。因みに、筆者の既出レポート「増加する単独高齢女性とその暮らし~平均年収は男性より約70万円低く、3割が年収150万円未満」では、高齢単独世帯の状況について報告したが、当シリーズではより幅広く、親や子と同居している場合も含めて、配偶者がいない「シングル」を分析対象とする。手始めに本稿では、国内のシングル高齢者の増加状況と、経済面などの概況をまとめる。
 
1 全国の60歳から90歳以上の男女個人を対象に、留置聴取法にて実施。回収は2,083。本稿の分析では、その中から65歳から90歳以上までの回答結果を使用した(有効回答数は1,730)。

2――シングル高齢者の増加

2――シングル高齢者の増加

まず、シングル高齢者の割合から確認したい。2020年と1985年の国勢調査より、中高年の配偶関係について、5歳ごとに、それぞれが人口に占める割合を見ると(図表1)、男女いずれも、過去15年で未婚や離別といったシングルが増えたことが分かる。

まず男性についてみると、1985年時点では、50歳から70歳までは10人中9人が「有配偶」で、年齢が上がるにつれて「死別」のみ増えていくという状況だったが、2020年時点では、未婚と離婚が増加し(特に未婚が大幅増)、例えば65歳男性だと10人中1人が未婚、8人が有配偶、1人が離別または死別、という状況になった。

次に女性をみると、1985年時点には、いずれの年齢でも「未婚」や「離婚」は5%未満で、死別を除けば、シングルであることは、社会の中の少数派に過ぎなかったことが分かる。しかし、男性同様に、未婚と離別が次第に増加し、2020年時点では、65歳女性のうち、大雑把に言うと10人中1人が未婚、7人が有配偶、1人が離別、1人が死別という状況になった。死別が過半数となる85歳以上を除けば、有配偶が多数派であることには変わりないが、もはやシングルは異例ではなくなったのである。なお、女性の方が男性よりも死別が多いのは、女性の方が、平均寿命が長いためである。
図表1 性・年齢別にみた配偶関係別構成割合の変化<男性>
図表1 性・年齢別にみた配偶関係別構成割合の変化<女性>

3――シングル高齢者の現在または過去の雇用形態

3――シングル高齢者の現在または過去の雇用形態

このように増加を遂げているシングル高齢者は、どのような経済基盤で生活しているのだろうか。雇用形態や働き方には、配偶関係によって差があるのだろうか。まず、現在または現役時代の雇用形態等について、配偶関係別にみていきたい。ここからは公益財団法人「生命保険文化センター」(以下、文化センター)が2020年10~11月に実施した「ライフマネジメントに関する高齢者の意識調査」の高齢者調査のデータを用いて、筆者が分析した結果を報告する。なお、当調査では、配偶関係の選択肢は「未婚」「配偶者あり」、「離別・死別」の3種類である。

図表2に示したように、まず男性では、配偶関係別に決定的な差はないものの、「未婚」だと、雇用形態のうち「派遣社員・契約社員」と「パート・アルバイト」を合わせた非正規雇用の割合が1割を超え、「全体」や「配偶者あり」、「離別・死別」よりも高い。「非正規雇用に就き、経済的基盤を築けていないために、家庭を形成しづらく、未婚が多い」と考えられる。

次に女性は、「未婚」だと、雇用形態の中でも「正社員」が約4割に上り、他の配偶関係に比べて2倍の大きさとなっている。未婚だと、結婚・出産・育児というライフイベントを機に退職することが殆どないため、比較的労働条件が厳しい正社員の仕事でも継続しやすいと考えられる。次に、離婚した女性は、経済的状況が比較的厳しく、安定雇用が必要だと考えられるが、「離別・死別」でも「正社員」や「公務員」といった常用労働者は合わせて約2割にとどまり、経済的状況がより安定している「配偶者あり」と殆ど差がなかった。「離別・死別」の最大ボリュームは「パート・アルバイト」(約4割)で、この割合も「配偶者あり」と同程度だった。離婚時点の年齢が高かったために、正社員に就きたくてもチャンスに恵まれず、非正規雇用でつないできた、という離別女性も多いのではないだろうか。

また、男女間で同じ配偶関係同士を比較すると、男性の方が女性よりも「正社員」の割合が大きく、「パート・アルバイト」の割合が小さいなど、女性の方が、より雇用が不安定な人が多かった。
図表2 配偶関係別にみた雇用形態等(現在または現役時代)

4――シングル高齢者の就業状況

4――シングル高齢者の就業状況

次に、中高年シングルの現在の就業状況について、総務省の「就業構造基本調査」(2022年)から確認する。同調査でも、「未婚」、「有配偶」、「死別・離別」という三つの配偶関係ごとの集計がある。

まず男性では(図表3)、有業率の数値自体は、年齢階級の上昇に伴って下降していくが、比率の順位には特徴があった。50歳代から70歳代までは、比率が最も高いのは「有配偶」で、次に「死別・離別」、最も低いのが「未婚」という順序が続いていた。例えば「65~69歳」だと、「有配偶」では有業率が約6割に上り、「死別・離別」では約5割、「未婚」では約4割となっている。「有配偶」と「未婚」には約25ポイントの差がある。未婚で有業率が低いという特徴は、3で指摘した「経済的基盤を築けていない男性は、家庭を形成しづらく、未婚が多い」という仮説に沿っているだろう。

女性の場合も、年齢階級の上昇に伴っていずれの配偶関係でも有業率は下降していくが、その順序は、85歳以上を除くほぼ全ての年齢階級で「死別・離別」が最も高かった。例えば「65~69歳」だと、「死別・離別」の有業率は約5割であり、「有配偶」と「未婚」では約4割だった。

同調査では「死別」と「離別」は同じカテゴリーになっているが、女性の場合、この二つでは本来、経済状況は大きく異なるだろう。死別の場合は、残された妻は、一定の条件を満たせば遺族年金を受給することができるため、夫が生前に一定水準の年金や給与を得ていれば、新たに働き出さなくても、最低限の生活を送ることはできる。これと違って、離別の場合は、制度的に、夫に扶養されていた妻の生活を保障するものが乏しいため2、自ら働く女性が多いと考えられる。70歳前半でも有業率は3割に上る。従って、高齢になっても仕事をしいないと家計が厳しいということも考えられる。

なお、女性では「有配偶」と「未婚」には、概ね、有業率に大きな差はなかった。
図表3 性・年齢階級別にみた有業率
 
2 離婚した場合の年金分割制度もあるが、厚生労働省によると、例えば2021年度の離婚件数約18万件に対し、年金分割を実施したのは約3万件に過ぎない。
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生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子 (ぼう みおこ)

研究・専門分野
中高年女性の雇用と暮らし、高齢者の移動サービス、ジェロントロジー

経歴
  • 【職歴】
     2002年 読売新聞大阪本社入社
     2017年 ニッセイ基礎研究所入社

    【委員活動】
     2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
     2023年度  日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員

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