2023年08月16日

「新築マンション価格指数」でみる関西圏のマンション市場動向(1)~関西圏の新築マンション価格は過去10年で59%上昇。大阪都心は82%上昇し、東京都心と同水準の伸び。

金融研究部 主任研究員 吉田 資

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3. 「新築マンション価格指数」の作成

続いて、関西圏の新築マンションの販売データ(2005年~2022年)を用いて、品質調整をした「新築マンション価格指数」を作成し7、その動向を把握する。
 
7 新築マンション価格指数の作成方法は、「新築マンション価格指数」でみる東京23区の市場動向(1)』 3章を参考にされたい。
3-1. 「新築マンション価格指数」の算出結果(関西圏)
図表-12に、関西圏の「新築マンション価格指数」(年次)の算出結果を示した。2005年以降の価格動向をみると、次の3つのフェーズに分類することができる。1つ目は、「2005年~2008年:リーマンショック前までの価格上昇局面(不動産ファンドバブル期)」、2つ目は「2009年~2012年:リーマンショック後の価格下落局面(東日本大震災を含む)」、3つ目は「2013年~2022年:アベノミクス以降の価格上昇局面」である。直近2022年の価格指数(2005年=100)は「175.3」となり、アベノミクスがスタートして以降の過去10年間で+59%上昇した。

人手不足に伴う建築コストの上昇やマンション用地価格の高止まりを背景8に、マンションデベロッパーが慎重な供給姿勢を維持するなか、関西圏の新築マンションの新規供給は減少傾向にある。一方、マンション居住の意向が高まり、主なマンション購入層である「夫婦のみの世帯」と「未就学児がいる共働き世帯」の増加が続くなか、低金利環境がマンション購入を後押している。この結果、関西圏の新築マンション市場は良好な需給環境が継続しており、リーマンショック後の価格下落局面(2009年~2012年)を除いて、長期にわたり価格上昇が続いていると考えられる。
図表-12 関西圏 「新築マンション価格指数」 (2005年=100、年次)
3-2. 「新築マンション価格指数」の算出結果(大阪市)
図表-13に、対象エリアを大阪市に限定した「新築マンション価格指数」(年次)の算出結果を示した。算出結果をみると、「大阪圏」と同じく、「上昇フェーズI」→「下落フェーズII」→「上昇フェーズIII」のトレンドで推移している。2022年の価格指数(2005年=100)は「186.0」となり、関西圏(175.4)を上回る結果となった。
図表-13 大阪市 「新築マンション価格指数」 (2005年=100、年次)
大阪市と関西圏の各フェーズ(I~III)における価格変動率を比較すると(図表-14)、「上昇フェーズI」(大阪市21%・関西圏18%)と「下落フェーズII」(大阪市▲9%・関西圏▲7%)では、大きな違いはみられなかった。しかし、「上昇フェーズIII」では、大阪市(+69%)の上昇率が関西圏(+59%)を上回った。特に、2018年以降、その格差が拡大している。

また、大阪市と東京23区の価格変動率を比較すると、「上昇フェーズI」では、大阪市(+21%)の上昇率は東京23区(+30%)を下回ったが、「上昇フェーズIII」では同水準の上昇率(+69%)となっている。
図表-14 「新築マンション価格指数」の変動率(大阪市・関西圏・東京23区)
3-3. 「新築マンション価格指数」の算出結果(大阪市エリア別)
以下では、大阪市を、「大阪都心」(中央区・西区・北区・天王寺区・浪速区・福島区)と「大阪郊外」(「大阪都心」を除く18区)の2つのエリアに分類し、「エリア別価格指数」を算出した。算出結果をみると、両エリアが、「大阪市」と同じく、「上昇フェーズI」→「下落フェーズII」→「上昇フェーズIII」のトレンドで推移している。2022年の価格指数(2005年=100)は、「大阪都心」が「201.7」、「大阪郊外」が「169.4」となった(図表-15)。
図表-15 大阪市エリア別 「新築マンション価格指数」 (2005年=100、年次)
各フェーズ(I~III)における価格変動率をみると(図表-16)、「上昇フェーズI」では、「大阪都心」の上昇率(+26%)が「大阪郊外」(+15%)を上回った。次に、「下落フェーズII」では、エリアで大きな違いはみられなかった(大阪都心▲12%・大阪郊外▲10%)。

最後に、「上昇フェーズIII」では、「大阪都心」(+82%)が「大阪郊外」(+63%)を大幅に上回った。「大阪都心」の上昇率は、東京23区で最も価格が上昇した「東京都心」9(+83%)と同水準に達している。
図表-16 「新築マンション価格指数」の変動率(大阪都心・大阪郊外・大阪市・東京都心)
次回以降のレポートでは、「新築マンション価格指数」について、関西圏エリア別の動向や「タワーマンション価格」の動向を解説する。あわせて、新築マンション価格の決定構造が約20年間でどのように変化してきたについて確認したい。
(補論)関西圏「新築マンション価格指数」と「平均価格・m2単価」(不動産経済研究所公表)の比較
「新築マンション価格指数」と不動産経済研究所が公表する「平均価格」を比較すると(図表-17)、2014年以降、両者のかい離が広がっている。不動産経済研究所によれば、関西圏の新築マンションの平均面積は、2005年の74m2から2022年の60m2となり、15年間で▲19%縮小した。アベノミクス以降の価格上昇局面において、面積を狭くし価格(総額)を抑える動きが進み、両者のかい離が拡大したと推察される。
図表-17 「新築マンション価格指数」vs.「平均価格」
また、「新築マンション価格指数」と「m2単価」を比較すると(図表-18)、両者の長期トレンドは概ね一致しているものの、2015年以降、「m2単価」の方が大きく上昇している傾向がみてとれる。関西圏の新築マンション新規供給において、価格水準の高い「大阪市」の割合が拡大していることが一因と考えられる(図表-4)。
図表-18 「新築マンション価格指数」vs.「㎡単価」
 
 

(ご注意)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

(2023年08月16日「不動産投資レポート」)

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