2023年07月25日

コロナ禍前後の精神的負担感の変化~「国民生活基礎調査」2019年と2022年の結果より

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子

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1――はじめに

1|コロナ禍においては、精神的な健康状態が懸念されている
新型コロナウイルス感染症の流行拡大にともない、日本においては2020年3月からの臨時休校、外出自粛、テレワークの推進など、生活を大きく変更せざるを得なかった。この間は、これまでの日常生活を送れないことで精神的な負担も大きかったと思われる。

そこで、本稿では、精神的な健康状態として「K6」の、コロナ禍前後の変化を、厚生労働省による「国民生活基礎調査」の結果の推移に基づき紹介する。
2|調査の概要と使用した質問
全国的な調査として、保健、医療、福祉、年金、所得等国民生活の基礎的事項を調査する目的で、「国民生活基礎調査」が毎年実施されている1。この調査は、3年おきに大規模調査として、日本国内に住む人の健康に関する調査も行う。新型コロナウイルス感染症の流行前後似行われた調査としては、2019年6月と、3年後の2022年6月に大規模調査が行われている。

精神的な健康状態として、「K6(うつ病・不安障害等の精神疾患のスクリーニングを目的として、Kesslerらによって開発された尺度)」を使用している。国民生活基礎調査では、過去1か月間について、「神経過敏に感じた」「絶望的に感じた」「気分が沈み込んで、何が起こっても気が晴れないように感じた」「何をするにも骨折りだと感じた」「自分は価値のない人間だと感じた」といった6項目について、「いつも」「たいてい」「ときどき」「少しだけ」「まったくない」の5段階で頻度を尋ね、順に4~0点を配点し、その合計点をK6得点とする。K6得点が高いほど、精神的な不調を感じていることを表す。9点以上が気分・不安障害の可能性、13点以上が重症精神障害の可能性とされることもあるが、本稿では、厚生労働省の公表資料による集計単位である0~4点、5~9点、10~14点、15点以上の4区分を使う。なお、国では、健康日本21(第二次)において、「気分障害・不安障害に相当する心理的苦痛を感じている者の割合の減少」を目標に掲げており、国民生活基礎調査のK6得点が10点以上だった者の割合で評価している。
 
1  新型コロナウイルス感染症拡大を理由に令和2年(2020年)調査は中止された。

2――2010年以降の推移

2――2010年以降の推移

まず、国全体におけるK6得点の推移を図表1に示す。

2022年調査では、「0~4点」が74.0%でもっとも高く、「5~9点」が16.4%、「10点以上」が9.6%だった。2010年からの推移をみると、「0~4点」の割合が2013年以降上昇しているが、2019年から2022年にかけて2.2ポイントとこれまでの推移と比べてやや大きく上昇していた。「5~9点」「10点以上」は2019年から2022年にかけて、それぞれ1.8ポイント、0.4ポイント低下していた。
図表1 K6得点の推移
続いて、性、年齢群、仕事の有無別の推移を図表2に示す。その結果、2019年から2022年の変化に着目すると、12~49歳の男性、12~74歳の女性、および仕事ありの男女で2022年の「0~4点」が2019年の「0~4点」を上回る傾向があった。75歳以上、または仕事なしでは、2019年と2022年に大きな差はない。
図表2 性、年齢群、仕事の有無別のK6得点の推移

3――おわりに

3――おわりに

以上のとおり、国民生活基礎調査によるK6得点の推移を2010年から紹介した。2022年6月に実施した調査では、2019年6月に実施した調査と比べて、比較的若い世代、および仕事をしている人で、どちらかと言えばK6が0~4点の比較的良好な状態の人の割合が高かった。

2022年6月は、新型コロナウイルスの新規陽性者数がおさまっていた時期であり、外国人観光客の受け入れの議論が始まるなど、コロナ禍前の生活を取り戻しつつある時期であったことから、コロナ禍で生活が大きくかわった就学・就労世代で気持ちが前向きになっていたこと等が考えられる。また、コロナ禍からの立ち直りに対する考え方が年齢や生活環境による差があった可能性が考えられる。
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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

村松 容子 (むらまつ ようこ)

研究・専門分野
健康・医療、生保市場調査

経歴
  • 【職歴】
     2003年 ニッセイ基礎研究所入社

(2023年07月25日「保険・年金フォーカス」)

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