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少子化でも堅調、ランドセル市場-「ラン活」浸透で購入時期の前倒し、平均価格の上昇
生活研究部 上席研究員 久我 尚子
1――ランドセル市場の動向~小学1年生人口は減少するも平均価格が上昇、2022年をピークに縮小か?
2022年度の小学1年生、すなわち2015年度生まれ(2015年4~12月と2016年1~3月生まれ)の出生数は100.33万人(前年の2014年度生まれ100.95万人より▲0.62万人、▲0.61%)だが、2023年度の小学1年生(2016年度生まれ)では96.63万人(2015年度生まれより▲3.70万人、▲3.68%)へと比較的大きく減少している。なお、過去10年間の小学1年生にあたる出生数の減少状況が最も大きかったのは2010年度生まれ(106.7万人で2009年度107.0万人より▲1.93万人、▲1.81%)だが、来年度の小学1年生である2016年度生まれでは減少幅も減少率も2010年度生まれの2倍程度を示す。
2――ランドセル市場拡大の背景~祖父母の購入で価格上昇と購入時期の前倒し、「ラン活」が助長
また、近年、ランドセルの購入時期が早まっている。総務省「家計調査」によると、二人以上世帯の通学用かばん(ランドセルを含む)の支出額は2005~2007年平均では入学直前の冬(1・2月)にピークがあったが、2015~2017年平均では前年の夏(7・8月)に、2021・2022年平均1では5月と8月の2つのピークへと変化している。つまり、5月の大型連休や夏休みの帰省時に祖父母と一緒にランドセルを選ぶ家庭が増えたということなのだろう。なお、先の調査では、2022年度の小学1年生のランドセル購入の検討開始時期は2021年4月(入学1年前)と前年の12月にピークがあり、購入する数か月前から検討が開始されている様子がうかがえる。
このような中で、近年、子育て世帯では「ラン活」という言葉が浸透しつつある。これは「就活」や「保活」などと同様に、ランドセル購入に向けた一連の活動を略したもので、人気メーカーなどのランドセルを購入するためには早期から獲得に向けた活動(展示会に足を運ぶ、早期に予約をするなど)が必要であることを意味する。なお、「ラン活」という言葉は、記事検索によれば2016年頃から新聞記事などで登場するようになっており、図1を見ると、ランドセルの平均価格が5万円に、市場規模は500億円に近づき、ランドセル市場の成長が目立ってきた頃だ。ランドセル市場は「ラン活」という言葉が登場する前から拡大傾向にあったが、この言葉が登場したことで、ランドセル獲得競争が一層過熱し、平均価格の上昇や購入時期の前倒しを助長させたとも見られる。
1 2020年は新型コロナ禍で緊急事態宣言が発出され、特に4・5月は物流などに多大な影響が生じたため除いている。
3――変貌するランドセルの色~男児は黒が6割、女児は多様化、薄紫が人気、サブスクサービスも登場
2022年度の小学1年生の男児のランドセルは圧倒的に黒(58.4%)が多いものの、減少傾向にあり、紺(17.6%)や青(9.6%)、緑(4.9%)、こげ茶(1.9%)などの他の色が約4割を占めるようになっている(図3)。一方、女児では圧倒的に選好される色はなく、最多は紫/薄紫(24.1%)であるものの、僅差で桃(21.0%)が続き、以下、赤(17.0%)、水色(15.7%)、うす茶(6.6%)と続く。なお、女児では2019年や2020年では赤が最多で約4分の1を占めていたが、2021年に紫/薄紫が並び、足元で逆転しており、女児のランドセルは赤という常識は過去のものとなっているようだ。
ところで、大半の児童は小学校の6年間、同じランドセルを使用しているが、最近ではランドセルのサブスクリプションサービスが登場しており2、ランドセル購入時期が前倒しされる中で入学時には好みが変わってしまうケースや小学生生活の途中で切り替えたいという需要にも柔軟に対応できる。
2 「ランドセルも「サブスク」 好み変わっても、定額で交換」(朝日新聞夕刊7面、2023/2/25)
4――小学生の親世代の経済状況の厳しさ~非正規雇用率の上昇、正規雇用者の賃金カーブ平坦化
足元では物価高が進行する中で、政府はエネルギー価格や食料価格の抑制対策や賃上げ支援、低所得世帯への給付といった物価高対策を実施しており、負担感の大きな子育て世帯に向けた給付等を行う自治体もある。生活困窮世帯を中心に即時的な家計支援策の実行が求められる一方で、中長期的には安心して働き続けられる就業環境の整備を進めることは究極の家計支援策と言える。
また、将来を担う世代の経済基盤の安定化が図られることで、ランドセル市場の縮小の後ろ倒しも期待できるのかもしれない。
03-3512-1878
- プロフィール
【職歴】
2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
2021年7月より現職
・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)
【加入団体等】
日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society
(2023年03月07日「基礎研レター」)
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