2023年02月07日

韓国の出生率が0.81まで低下-OECD加盟国の中で1を下回るのは韓国が唯一

基礎研REPORT(冊子版)2月号[vol.311]

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中

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1―2021年の韓国の出生率が過去最低を更新

韓国の合計特殊出生率(以下、出生率)の低下が止まらない。韓国の統計庁が2022年8月24日に発表した「2021年の出生統計」によると、韓国の2021年の出生率は0.81で、2020年の0.84を下回り、過去最低を更新した。韓国の出生率はOECD平均1.59(2020年)を大きく下回り、OECD加盟国の中でも最も低く、1を下回るのは韓国が唯一である。
[図表1]韓国における合計特殊出生率
[図表1]OECD加盟国の合計特殊出生率
韓国で2021年に生まれた子どもの数は26万562人と前年比1万1,775人減少し、2年連続で30万人を下回った。2020年の大学の入学定員が約47.3万人であることを考えると(4年制大学:約31.0万人、短大:約16.3万人)、生まれた子どもの数がいかに少ないかが分かる。このままだと今後多くの大学が廃校に追い込まれる可能性が高い(韓国の2021年の大学進学率は73.7%に至る)。

そこで、韓国教育部は、学齢人口の減少に対応するために、大学自らが構造調整を行うように助成金を提示し、計96大学が2025年までに入学定員を減らすことを決めている。入学定員の削減規模は計1万6197人だ。地域別では非首都圏が74大学で全体削減規模の88%に当たる1万4244人を減らすことになっている。

地域別(第一級行政区画)の出生率はソウルが0.63で最も低く、釡山(0.73)、大邱(0.78)、仁川(0.78)のような大都市の出生率が全国平均を下回っている。一方、韓国で出生率が最も高い世宗市の出生率は2020年と同じく1.28を維持し、光州市の出生率は少し改善されたものの、その他の地域の出生率はすべて2020年を下回った。
[図表3]韓国における地域別合計特殊出生率(2020年と2021年)

2―韓国の出生率が低い理由は?

韓国における少子化の原因は、子育て世帯の経済的負担の問題だけではなく、未婚化や晩婚化の影響も受けている。しかしながら、今までの韓国政府の少子化対策は、出産奨励金や保育費の支援、児童手当の導入や教育インフラの構築など、主に子育て世帯に対する所得支援政策に偏っている。2020年12月に確定された「第4次少子・高齢社会基本計画」も子育て世帯に対する支援策が大部分を占めている。

また、韓国ではまだ儒教的な考えが根強く残っており、結婚してから出産するケースが多い。しかしながら、多くの若者は安定的な仕事を得ておらず、結婚という「贅沢」を選択できない立場に置かれている。2021年5月現在の20歳~29歳の若者の失業率は9.3%で全体失業率の4.0%より2倍以上高く、大卒者の正規職就業率も低い(参考2015年は52.5%、韓国職業能力開発院)。

高い不動産価格も未婚化・晩婚化の一因になっている。韓国では結婚前に男性側が家を用意する慣習があるものの、近年の不動産価格の高騰は男性にとって結婚のハードルを高め、婚姻件数の減少にもつながっている。最近、韓国銀行(中央銀行)の急速な利上げにより、金利の上昇等にともない全国のマンション価格が下落しているものの、住宅ローンの金利負担も増えており、若者にとってマイホームの夢は実現が難しいままである。

今後、韓国が少子化問題を解決し、出生率を引き上げるためには子育て世帯に対する対策だけではなく、未婚率や晩婚率を改善するための対策により力を入れるべきであり、そのためには何よりも安定的な雇用を提供する必要がある。また、若者が結婚して安心して子育てができるように、負担が少ない公共住宅の供給拡大も欠かせない。さらに、多様な家族形態を認めて社会保障制度の恩恵が受けられる社会をより早く構築する必要があると考えられる。
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生活研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
    独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職

    ・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
    ・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
    ・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
    ・2021年~ 専修大学非常勤講師
    ・2021年~ 日本大学非常勤講師
    ・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
    ・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
    ・2024年~ 関東学院大学非常勤講師

    ・2019年  労働政策研究会議準備委員会準備委員
           東アジア経済経営学会理事
    ・2021年  第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員

    【加入団体等】
    ・日本経済学会
    ・日本労務学会
    ・社会政策学会
    ・日本労使関係研究協会
    ・東アジア経済経営学会
    ・現代韓国朝鮮学会
    ・韓国人事管理学会
    ・博士(慶應義塾大学、商学)

(2023年02月07日「基礎研マンスリー」)

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