2023年02月03日

現在の景況感は良好だが、先行きに関して悲観的な見方が強まる~価格のピークは今年が最多。期待はホテル。リスク要因として、国内金利、建築コスト、地政学リスクへの関心が高まる~第19回不動産市況アンケート結果

金融研究部 主任研究員 吉田 資

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アンケートの概要

株式会社ニッセイ基礎研究所では、不動産市況の現状および今後の方向性を把握すべく、2004年より不動産分野の実務家・専門家を対象に「不動産市況アンケート」を実施している。本アンケートは、今回で19回目となり116名から回答を得た。
 

- 調査対象;不動産・建設、商社、金融・保険、不動産仲介、不動産管理、不動産鑑定、
  不動産ファンド運用、不動産投資顧問・コンサルタント、不動産調査・研究・出版、
  不動産に関連する格付、などに携わる実務家および専門家。
- アンケート送付数;200名
- 回答者数;116名(回収率;58.0%)
- 調査時期;2023年1月24日から1月31日
- 調査方法;Eメールによる調査票の送付・回収

アンケート回答者の属性(所属先内訳)は、「不動産仲介・管理・鑑定」(22%)が最も多く、次いで、「不動産・建設・商社」(21%)、「その他不動産関連サービス(不動産調査・研究・出版、不動産に関する格付など)」(20%)、「不動産ファンド運用・不動産投資顧問」(19%)、「金融・保険」(19%)であった。回答者の属性に大きな偏りは見られず、本アンケートは不動産市況の実態に関して、属性による偏りを概ね排除していると考えられる。
[アンケート回答者の属性(所属先内訳)]

アンケートの結果

アンケートの結果

1. 不動産投資市場の景況感
(1) 現在の景況感
「不動産投資市場全体(物件売買、新規開発、ファンド組成)の現在の景況感」について質問したところ、プラスの回答(「良い」と「やや良い」の合計)が約6割、「平常・普通」が約3割、マイナスの回答(「悪い」と「やや悪い」の合計)が約1割となった(図表-1)。前回調査(2022年初)から大きな変化はなく、プラスの回答(「良い」と「やや良い」の合計)が半数以上を占める結果となった。
図表-1 不動産投資市場全体の現在の景況感
(2) 6ヵ月後の景況見通し
「不動産投資市場全体の6ヵ月後の景況見通し」について質問したところ、「変わらない」との回答が約5割、悪化との回答(「悪くなる」と「やや悪くなる」の合計)が約4割、好転との回答(「良くなる」と「やや良くなる」の合計)が約1割を占めた(図表-2)。

前回調査では、「変わらない」との回答が約6割、好転との回答(「良くなる」と「やや良くなる」の合計)が2割強、悪化との回答(「悪くなる」と「やや悪くなる」の合計)が1割強を占めたが、今回は「悪化」との回答が大幅に増加した。
図表-2 不動産投資市場全体の6ヶ月後の景況見通し
この結果、「景況見通しDI1」は、前年調査のプラス(+8.3%)からマイナス(▲29.3%)に転じ、悲観的な見方が強まった(図表-3)。
図表-3 「景況見通しDI」(6ヶ月後)
 
1 「景況見通しDI」の算出式;(「やや良くなる」+「良くなる」)-(「やや悪くなる」+「悪くなる」)[単位は回答割合(%)]
2. 投資セクター選好
(1) 概況
「今後、価格上昇や市場拡大が期待できる投資セクター(証券化商品含む)」について質問したところ、「ホテル」(45%)との回答が最も多く、次いで、「賃貸マンション」(39%)、「物流施設」(38%)、「産業関係施設(データセンターなど)」(36%)との回答が多かった(図表-4)。

「ホテル」に関して、宿泊旅行統計調査によると、政府の旅行支援再開を受けて日本人の宿泊者数は10月以降3カ月連続で2019年同月の水準を上回った。外国人の宿泊者数についても水際制限の解除によって急速に回復しており、ホテルへの関心が高まっている。

「賃貸マンション」に関して、安定したキャッシュフローが期待できるセクターとして海外資金を中心に投資需要が強い。ニッセイ基礎研究所と価値総合研究所の調査によれば、「賃貸住宅」の「収益不動産」は約72.0兆円で、市場規模の観点からも投資対象としての優位性は高いと言える2

一方、「アウトレットモール」(2%)、「郊外型ショッピングセンター」(1%)を期待する回答は、下位に留まった。
図表-4 今後、価格上昇や市場拡大が期待できるセクター(上位3つまで回答)
 
2 吉田資・室 剛朗『わが国の不動産投資市場規模(2022年)』(ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2022年9月9日)
(2) 前回調査との比較 [期待が高まった(後退した)投資セクター]
前回調査から回答割合が10%以上増加した投資セクター(期待が高まった投資セクター)は、「ホテル」(13%→45%)、「賃貸マンション」(29%→39%)であった。一方、前回調査から回答割合が10%以上減少した投資セクター(期待が後退した投資セクター)は、「物流施設」(67%→38%)、「産業関係施設(データセンターなど)」(59%→36%)、「エネルギー関連施設(太陽光発電施設など)」(28%→17%)であった(図表-5)。

「物流施設」に関して、首都圏では空室率が上昇基調で推移している3。EC事業者を中心にテナント需要は底堅いものの新規供給の増加によりリーシングの進捗ペースが鈍化している。引き続き、投資家の期待が高いセクターではあるが、前回調査から順位を下げる結果となった。
図表-5 今後、価格上昇や市場拡大が期待できるセクター(前回調査との比較)
 
3 シービーアールイー(CBRE)によると、首都圏の大型マルチテナント型物流施設の空室率(2022 年9 月末)は前期比+0.8%の5.2%となった。
3. 投資エリア選好
「今後、価格上昇や市場拡大が期待できる投資エリア」について質問したところ、「東京都心5区(千代田区、中央区、港区、渋谷区、新宿区)」(53%)との回答が最も多く、次いで「福岡市」(16%)、「東京都区部(都心5区を除く)」(13%)との回答が多かった(図表-6)。

ニッセイ基礎研究所と価値総合研究所の調査によれば、日本の「収益不動産(約275.5兆円)」の約4割が東京都に集積しており、投資エリアとしての優位性は引き続き高い。

一方、地方都市では、「福岡市」(13%→16%)と「札幌市」(5%→9%)の回答が増加した。これらの市では、容積率緩和等で築年数が経過したオフィスビルの建て替えを促す施策4を背景に、複数の大規模開発が進行中であり、期待が高まっているものと考えられる。
図表-6 今後、価格上昇や市場拡大が期待できるエリア(回答は1つ)
 
4 福岡市では、天神地区では「天神ビックバン」プロジェクト、博多駅前では「博多コネティッドボーナス」が進行中である。また、札幌市は、都心部を対象地域とした「都心における開発誘導方針」や「オフィスビル建設促進補助金」を策定し、容積緩和やビルの建て替えに関する補助制度を整備している。
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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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