2022年09月27日

パンデミックにより、世界の消費者はどう変わったのか-メンタルヘルス悪化、今の保障への不安、デジタルの急速な普及-

保険研究部 上席研究員 兼 気候変動リサーチセンター 気候変動調査部長 有村 寛

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1――はじめに

スイス再保険は、2022年1月から2月にかけて行った新型コロナウイルス感染症に関する消費者調査の結果(Swiss Re Institute “Swiss Re global COVID-19 consumer survey 2022 Digital touchpoints build physical and mental health resilience”)を2022年6月1日付で公表した1

当調査報告は、昨年、一昨年度に続くものである。昨年までの調査は、アジア太平洋地域を対象としていたが、今回は対象を世界の20市場に広げている2

今回の調査報告書では、調査対象を広げたことに伴い、新興国と先進国を対比するデータが多く見られるようになった他、メンタルヘルスへの影響を大きく取り上げている。

ここでは、当調査報告の概要について紹介したい。なお、当レポートで紹介しているデータは、特に断らない限り、同調査報告に基づくものである。
 
1 当調査報告書のURLは、以下の通り。
june2022-expertise-publication-swiss-re-global-covid-19-consumer-survey2022-en.pdf (swissre.com)
2 昨年度の調査対象は、オーストラリア、中国、香港、インド、インドネシア、日本、マレーシア、タイ、シンガポール、ベトナム、ニュージーランド、韓国のアジア太平洋地域の12市場だった。今回は、それに加えて、米国、ブラジル、メキシコ、英国、ドイツ、フランス、ポーランド、南アフリカの8市場を調査対象としたものである。なお、昨年の調査結果については、小著「パンデミックがアジア太平洋の消費者に与えた影響」『保険・年金フォーカス』(2021年11月5日)において、紹介している。

2――メンタルヘルスの悪化

2――メンタルヘルスの悪化

今回の調査では、全回答者の3分の1が、過去12カ月でメンタルヘルスが悪化した、と回答しており、身体状況が悪化したと回答した人より多い(図表1、図表2)3

上記に伴い、ほとんどの市場でメンタルヘルスに対する意識は高まりを見せている。

健康に関して最も重視することについて、新興国では、26%がメンタルヘルスと回答しており、バランスの取れた食事(22%)がそれに続いている。ただし、中国とメキシコは、バランスの取れた食事を最優先する人が多かった(中国31%、メキシコ30%)。

一方、先進国では、メンタルヘルスと十分な睡眠の二つが最優先事項となっている。日本は例外で、十分な睡眠が最優先との回答が34%で、メンタルヘルスは12%となっている。

なお、新興国では、回答者の64%が、過去24カ月でメンタルヘルス保護のために何等かの対策を講じており、先進国(38%)よりも多い。

対策の内容としては、新興国は「健康関係のアプリのダウンロード」が半数以上を占める一方、先進国は「かかりつけ医への相談」が半分以上を占める。
【図表1】過去12か月における健康状態(メンタルヘルス)
【図表2】過去12か月における健康状態(身体状況)
 
3 なお、新型コロナウイルスは、人々の健康に対する意識そのものも高めた。一般的に保険の普及率が低い新興国では、回答者の60%がパンデミックの結果として自分の健康についてより心配するようになった、と回答しており、先進国よりも20%高い。

3――現在の保障に対する不安の高まり

3――現在の保障に対する不安の高まり

回答者の4割は、現在の保障では不安を感じており、新興国では南アフリカとブラジルが、先進国では日本、英国が特に不安を感じている(南アフリカ53%、ブラジル47%、日本55%、英国49%)。

過去6カ月以内に生命保険・医療保険への「加入を検討」または「加入した」人は、新興市場では、両者合計で8割を超え、先進国市場(同4割弱)より、著しく高い(図表3)。中でも、中国、インドでは平均40%の人が新規に保険加入した、と回答している。

年齢別では、18歳-39歳でニーズは高く、加入を検討した人は50%強(54%)、
実際に加入した人は30%弱となっている。

また、新興国では、52%が今後6カ月以内に生命保険・医療保険に加入する意思がある、と回答しており、特に、インド(73%)、中国(60%)が高い。一方、先進国では、同18%であった(図表4)。
【図表3】過去6か月における保険に関するアクション
【図表4】過去6か月以内における保険加入意思の有無

4――デジタルの急速な普及

4――デジタルの急速な普及

過去6カ月以内での保険加入(生命保険・医療保険)におけるチャネルは、全体では、オンライン経由がメインチャネルであった。

先進国では、オンライン経由での保険加入は41%であり、中でもイギリス(49%)、オーストラリア(46%)が高い。なお、日本は39%、米国は38%である。

一方、新興国では、中国・インドのオンライン加入が5割を超えており、著しく高いが、この2国を除けば、新興国ではエージェント・ブローカーがメインチャネルである。

スイス再保険の昨年度調査報告書によれば、2019年時点では、デジタルチャネルを経由した保険加入は5%に満たなかった(保険料ベース)ことからすると、急激に普及が進んだといえよう。

また、全回答者の約50%が、今後、医療関係でオンラインでの打ち合わせを考えている等、デジタル利用は引き続き急速に広がっている。なお、現状ではオンラインでの打ち合わせは20%である。

健康関係のアプリ利用も広く普及しており、回答者の3分の1は既に利用しており、3分の2が今後、利用したいと回答している。

なお、人気があるアプリは、市場によって異なっており、米国・メキシコでは「身体の健康づくり」、ドイツ・日本は「体重管理」、英国・オーストラリア・ブラジル・南アフリカでは「メンタルヘルス改善」のためのアプリが人気を集めている。また、年齢別に見ると、18-29歳では、「メンタルヘルス改善」、40以降では「身体の健康づくり」が人気だ。

5――保険加入決定に際しての重要ポイント

5――保険加入決定に際しての重要ポイント

全回答者の80%が、保険加入の際の最も重要な決定要素は価格だと回答している。新興国では、価格に加え、保障の柔軟性、上乗せ保障、サービスも重視されている。

また、オンラインでの手続き可否は、大半の新興国(平均67%)の他、英国(57%)でも重視されているが、特に中国は76%と高く、価格と同程度重要視されている。

エージェントからのアドバイスは、新興国では52%が重視しているが、先進国では同32%となっている。

6――おわりに

6――おわりに

以上、今年6月に公表されたスイス再保険の新型コロナウイルスに関する消費者調査報告の概要について、紹介してきた。

先述の通り、先進国と新興国とでの対比や、メンタルヘルス関連のデータ等、これまでの調査報告では見られなかったデータも多く、示唆に富むものである。

なお、当報告書では、過去半年間で、「保険について調べた人のうち、加入した人」の割合は48%、特に低所得者は38%(高所得者は56%)となっていることを取り上げ、消費者ニーズと保険商品がマッチしているのか、検討する必要性がある、との提言も見られ、非常に興味深い。

新型コロナウイルスもオミクロン型以降、感染力は非常に強い一方、重症化率は低いと言われる等、変容を遂げている。引き続き、新型コロナウイルスが保険業界に与える影響について、注視していきたい。
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保険研究部   上席研究員 兼 気候変動リサーチセンター 気候変動調査部長

有村 寛 (ありむら ひろし)

研究・専門分野
保険商品・制度

経歴
  • 【職歴】
    1989年 日本生命入社
    1990年 ニッセイ基礎研究所 総合研究部
    1995年以降、日本生命にて商品開発部、法人営業企画部(商品開発担当)、米国日本生命(出向)、企業保険数理室、ジャパン・アフィニティ・マーケティング(出向)、企業年金G等を経て、2021年 ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月より現職

(2022年09月27日「保険・年金フォーカス」)

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