2022年06月15日

英国雇用関連統計(22年5月)-失業率は再び小幅上昇、賃金も減速

経済研究部 主任研究員 高山 武士

文字サイズ

1.結果の概要:失業率は再び小幅上昇

6月14日、英国国家統計局(ONS)は雇用関連統計を公表し、結果は以下の通りとなった。
 

【5月】
失業保険申請件数1前月(160.39万件)から1.97万件減の158.42万件となった(図表1)。
申請件数の雇用者数に対する割合は4.0%となり、前月(同4.1%)から低下した
給与所得者数2前月(2955.5万人)から9.0万人増の2964.5万人となった。
増減数は前月(+10.7万人)から減少したが、市場予想3(+7.0万人)は上回った。

【4月(22年2-4月の3か月平均)】
失業率は3.8%で前月(3.7%)から上昇、市場予想(3.6%)も上回った(図表1)。
就業者は3270.7万人で3か月前の3253.0万人から17.7万人の増加となった。
増減数は前月(+6.5万人)から増加し、市場予想(+10.6万人)も上回った。
週平均賃金は、前年同期比6.8%で前月(7.0%)から減速、市場予想(7.4%)も下回った(図表2)。

(図表1)英国の失業保険申請件数、失業率/(図表2)賃金・労働時間の推移
 
1 求職者手当(JSA:Jobseekerʼs Allowance)、国民保険給付(National Insurance credits)を受けている者に加えて、主に失業理由でユニバーサルクレジット(UC)を受給している者の推計数の合算。なお、UCはJSAより幅広い求職手当てであり、失業者数を示す統計としては過大評価している可能性がある。このため、ONSは失業保険等申請件数について公式統計とはしておらず実験統計という位置付けで公表している。ただし、公表日の前月のデータを入手できるため、速報性の高さという利点がある。
2 歳入関税庁(HRMC)の源泉徴収情報を利用した統計。直近データは利用可能な情報の85%ほどを集計して算出。
3 bloomberg集計の中央値。以下の予想値も同様。

2.結果の詳細:賃金上昇率も減速

まず、5月のデータとして公表されている求人数および給与所得者数を確認すると、求人数は22年3-5月の平均で130.0万件となった。増加ペースは減速しつつも調査開始後の最高記録の更新が続いている(図表4)。なお、5月単月の求人数も130.6万件と高水準だった4(なお、単月では4月の135.0万件が統計データ公表以来の最高値)。また、給与所得者データを見ると、給与所得者数の増加基調が継続している(図表4)。産業別には、増加傾向が続く事務・支援サービスの増加幅が大きい。ただし、5月は製造業で前月比マイナスとなった。月あたり給与額(中央値)については前年同月比5.4%となり、4月(6.1%)からやや減速している。
(図表3)求人数の変化(要因分解)/(図表4)給与取得者データの推移
次に4月までのデータ(労働力調査)を確認すると、22年2-4月期の失業率は3.8%となり、1-3月期の3.7%という歴史的な低水準5から若干悪化した。ただし、前月比で就業者は増加しており、非労働力人口が減少し、労働力人口が増えたことによる失業率の悪化だった。労働参加率は63.2%に改善しており、雇用環境は底堅いと言える(図表5)。なお、非労働力人口の減少は主に16-24才の若年層で、コロナ禍以降に増加した高齢層の非労働力人口はほとんど減少していない(図表6)。
(図表5)労働参加率の変化(要因分解)/(図表6)英国の非労働人口の増減(コロナ禍前比)
労働時間については、31.9時間(前年同期差+1.8時間)、フルタイム労働者で36.5時間(同+1.9時間)となり、回復はやや足踏みしている(前掲図表2)。コロナ禍前との比較では、フルタイム労働者の労働時間はコロナ禍前水準まで回復していない一方、パートライムを含む全労働時間はほぼコロナ禍前の水準まで回復している。また、週間総労働時間は、コロナ禍前ピーク(19年8-10月)から1.1%低い水準となっている。賃金については、名目平均賃金が22年2-4月の前年同期比で6.8%となり、ボーナスが伸びを押し上げた1-3月期(同7.0%)から伸び率は鈍化した(前掲図表2)。実質で見ると、前年比で0.4%と再びゼロ%台まで低下している。
 
4 3か月平均のデータは季節調整値だが、単月データは未季節調整値のため季節性が除去されていない点には留意が必要。
5 統計開始後の最低値は3.4%(73年10-12月期、74年1-3月期)、3.7%は74年10-12月期以来の低さで、3.8%はコロナ禍前の最低値と同水準
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
Xでシェアする Facebookでシェアする

経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2002年 東京工業大学入学(理学部)
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2022年06月15日「経済・金融フラッシュ」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【英国雇用関連統計(22年5月)-失業率は再び小幅上昇、賃金も減速】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

英国雇用関連統計(22年5月)-失業率は再び小幅上昇、賃金も減速のレポート Topへ