2021年05月18日

線状降水帯「顕著な大雨に関する情報」発表へ~災害・防災、ときどき保険(14)

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩

このレポートの関連カテゴリ

文字サイズ

1――線状降水帯とは?

大雨の危険が高い季節が近づいてきた。その中で「線状降水帯」という言葉を最近よく耳にするようになった。このところ毎年のように線状降水帯による大雨が発生し、甚大な被害が生じている。
 
線状降水帯とは、気象庁の予報用語としては

「次々と発生する発達した雨雲(積乱雲)が列をなした、組織化した積乱雲群によって、数時間にわたってほぼ同じ場所を通過または停滞することで作り出される、線状に伸びる長さ50~300㎞程度、幅20~50㎞程度の強い降水を伴う雨域」1

とされている。今のところ、まだ予報や注意報・警報の中では用いられておらず、予報の解説や報道発表資料に使われるという段階にある、比較的新しい用語である。
 
近年発生した例としては、以下のようなものがある。

・2014年8月 広島市での豪雨による土砂災害など。これは「平成26年8月豪雨」と命名されており、この時から「線状降水帯」という言葉が使われるようになったとされる。

・2015年9月 鬼怒川の決壊などに代表される大きな被害をもたらした「平成27年9月関東・東北豪雨」。

・2017年7月 九州北部豪雨

・2020年「令和2年7月豪雨」 この年7月3日から8日にかけて、線状降水帯が九州で多数発生し、顕著な大雨となり、球磨川が氾濫するなどの災害を引き起こした。この時は、特別警報級の大雨となることすら、前日の時点で予測することが困難であったとされ、今後の災害情報の伝え方に大きな課題を残すものとなった。  

2――情報の伝え方について

2――情報の伝え方について

こうした中、毎年のように起こる線状降水帯による大雨が、災害発生の危険度の高まりにつながるものとして社会に認識されつつあり、線状降水帯が発生している場合には、危機感を高めるために、それを知らせてほしいという要望が出てきている。
 
こうした状況を受けて、気象庁では、「防災気象情報の伝え方に関する検討会」において、線状降水帯に関する情報の伝え方等について検討がなされてきており2、 4月28日に最終的な報告書が公表された。今後は、新しい気象情報の出し方につき、自治体など関係機関への説明が行われ、2021年のまもなく来る出水時期から、実際に運用が開始される予定とされている。
 
変更・追加される新しい情報においては、線状降水帯により非常に激しい雨が降り続いている状況を、「線状降水帯」というキーワードを直接使って解説し、注意を喚起することになる。例えば
 
顕著な大雨に関する○○県気象情報
「○○地方では、線状降水帯による非常に激しい雨が同じ場所で降り続いています。命に危険が及ぶ土砂災害や洪水による災害発生の危険度が急激に高まっています」
 
といった表現がなされるようである。

この表現がなされるのは、比較的広い線状の地域で、激しい雨が降り、かつ、土砂災害や洪水の危険度が一定の基準を超える場合ということで、具体的な雨量や大雨の範囲の基準が示されているが、ここでは省略する。

仮に、大雨などによる危険度分布の提供を開始した2017.9からこれまでの約4年間に、その基準をあてはめてみた場合、71例が当てはまるものとされ、このことから年間10~20の事例が発表されるものと想定されている。
 
2 「防災気象情報の伝え方の改善策と推進すべき取組」(2021.4.28 防災気象情報の伝え方に関する検討会)
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/shingikai/kentoukai/tsutaekata/report3/tsutaekata_report3.pdf
あるいは 防災気象情報の伝え方に関する検討会第10回資料
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/shingikai/kentoukai/tsutaekata/part10/tsutaekata10_shiryou_2.pdf
 

3――今後の予測精度向上に向けて

3――今後の予測精度向上に向けて

また、線状降水帯に関する最新の研究の知見を取り入れて、その発生等の予測精度向上に資することを目的として、別途「線状降水帯予測精度向上ワーキンググループ」が設置された。(第1回会合 2021年2月4日3

この中では主に以下3点が重点課題とされている。
 
・観測の強化 
大気の状態を把握するための対応として、洋上では、船舶による観測の強化(2021~2022年度)、陸上などでは、気象レーダーの更新強化(~2027年度)やアメダスへの湿度計導入(~2024年度)。さらには宇宙空間からは、新規衛星(ひまわり10号)データ導入の強化(2029年度運用予定)などが見込まれている。
 
・予測の改善
上記のような観測データをも活用して、数値予報モデルのさらなる高度化を進めることとされている。これにはスーパーコンピュータ「富岳」の活用も予定されている。
 
・情報の改善
2021年の出水期の情報提供は、まずは線状降水帯の発生状況など実況ベースのものから始められる。その後は、特別警報級の大雨となる確率、線状降水帯の定義にあたる一定以上の雨量となる確率などの予測、それがそれぞれの地域の危険度に関する情報などへ、拡大されていく計画となっている。
 
3 線状降水帯予測精度向上ワーキンググループ(2021.2.4)資料
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/shingikai/kondankai/senjoukousuitai_WG/part1/part1-shiryo3.pdf
 

4――おわりに~今後の防災情報の整理・集約

4――おわりに~今後の防災情報の整理・集約

またひとつ気象災害における警戒情報が増えるということで、これが早期の避難などに資するものとなればよいが、一方で、以下のような懸念も、検討会などにおいて既に議論されている。
 
・情報が増えることに関する懸念  
これまでも各種注意報・警報があり、記録的短時間大雨情報もある中で、かえって情報の受け手が混乱しないか。

・顕著な大雨に関する情報、という名称  
要は「線状降水帯」というキーワードで危機感を高めたいのに、わざわざ顕著な云々というのはまわりくどくないか。(この言い回しは、気象学的な用語としての「線状降水帯」を、避難情報で使うことを、学問的に躊躇したことによるようだ。)

・台風情報などとの相違
台風で線状降水帯が発生した場合や、台風に伴う前線において生じた線状降水帯は、これまで通り台風情報として取り扱うのか、あらたに線状降水帯として情報提供するのか。

・情報提供のタイミングなど
線状降水帯は急激に衰退する場合もある、逆に線状降水帯の有無に関わらず甚大な被害が起こる可能性のある大雨となるケースもあることから、情報の発信には、常に慎重さが必要である。
 
特に、これまでにもある防災情報の整理・集約については、今後も改善がなされていくことになると思われる。
Xでシェアする Facebookでシェアする

このレポートの関連カテゴリ

保険研究部   主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任

安井 義浩 (やすい よしひろ)

研究・専門分野
保険会計・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1987年 日本生命保険相互会社入社
     ・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
     2012年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2021年05月18日「基礎研レター」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【線状降水帯「顕著な大雨に関する情報」発表へ~災害・防災、ときどき保険(14)】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

線状降水帯「顕著な大雨に関する情報」発表へ~災害・防災、ときどき保険(14)のレポート Topへ