2021年04月27日

セルフメディケーションが進む中鎮痛薬の利用が増加

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子

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1――鎮痛薬の利用は上昇。女性と、若年の利用が多い

図表1 市販医薬品の利用者割合 1|鎮痛薬の利用は上昇
国立精神・神経医療研究センターでは、1995年から隔年で「薬物使用に関する全国住民調査(飲酒・喫煙・くすりの使用についての全国調査)」を実施している。この調査は、薬物乱用の予防および薬物依存症患者の支援を推進するにあたり、違法薬物に加えて、酒やたばこ、市販医薬品の使用実態や依存状況と、その経年変化を把握することを目的として行われている。
図表2 鎮痛薬の利用者割合の推移 2019年調査によると、市販されている医薬品1の中で、過去1年間に1回でも利用した人の割合(利用者割合)がもっとも高かったのは解熱鎮痛薬でおよそ6割だった。次いで、風邪薬が5割強、胃腸薬、鼻炎薬(アレルギー薬)が3割と続いた(図表1)。

鎮痛薬について、利用者割合を時系列でみると、調査開始以降継続的に上昇していた(図表2)。鎮痛薬は、種類が多く、適正に利用しないと効きにくいだけでなく、薬物耐性・依存が起きる場合がある。一般に、適正な診断がないまま1か月あたり10日以上鎮痛薬を飲んでいる状態が続く場合は、多用・乱用による耐性や依存の可能性があると言われている。長期に過剰に服用することで、さらに頭痛が起きる「薬物乱用頭痛」が疑われるケースも指摘されている2

この調査において、週3回以上使用している割合をみると、1999年の1.6%から2019年の2.8%まで徐々に上昇しており、習慣的に利用しており耐性・依存の可能性がある人の割合も上昇していた(図表略)。
 
1 図表1に示す項目の中から複数回答で尋ねている
2 2021年4月20日日本経済新聞電子版「鎮痛薬使いすぎ注意 思わぬ副作用、頭痛や胃腸障害も」等
2|女性と20~40代の利用が多い
鎮痛薬の利用者割合を、男女別にみると、男性と比べて女性に多く、年齢別にみると20~40代に多い(図表3)。利用の目的は、「頭痛」が43.1%で最も高く、次いで「生理痛(13.0%)」、「歯痛(9.0%)」の順だった。

鎮痛薬の入手先は、中高年以降で「医院・病院」の割合が増えるが、鎮痛薬利用者割合が高い20~40代では「薬局・薬店」で市販薬を入手することが多くなっている(図表4)。
図表3 鎮痛薬の利用者割合/図表4 鎮痛薬入手先

2――頭痛は若年に多く、若年では時系列でみて改善していない

2――頭痛は若年に多く、若年では時系列でみて改善していない

図表5 鎮痛薬の利用者割合 厚生労働省による「国民生活基礎調査」で、「ここ数日に自覚している体の不具合」をみると、鎮痛薬の利用が多かった「頭痛」、「歯痛」、「月経不順・月経痛」をあげた割合は図表5のとおりで、男女別・年齢別にみると、圧倒的に若年女性の「頭痛」が多かった。次いで、若年では女性の「月経不順・月経痛」、男性の「頭痛」、男女の「歯痛」となっている。中高年以上では、男女とも「頭痛」は若年と比べると低く、「歯痛」が年齢とともに上昇する傾向があった。
頭痛(男女計)について年齢別に時系列でみると、中高年の頭痛や、全年齢の歯痛は改善がみられるのに対し、男女それぞれ不調を感じている人が多い若年の「頭痛」については改善が見られない(図表6、7)。薬局・薬店等、もっとも医療機関以外で入手することが多い世代だ。
図表6 頭痛がある人の割合(対人口1000人)/図表7 歯痛がある人(対人口1000人)

3――セルフメディケーション推進に向けて

3――セルフメディケーション推進に向けて、消費者が注意すべきこと

現在、安全性・有効性の視点だけでなく、国民の健康の維持・増進、医薬品産業の活性化なども含む広範な視点から医薬品のOTC化をはじめとするセルフメディケーション3の促進策がとられている。

OTC医薬品4は、自覚症状により自ら服薬の開始・中止等の判断が可能な症状であることや、医師の管理下で状態が安定しており、対処方法が確定していて自己管理が可能な症状であること、疾病の発生抑制や健康づくりの寄与が期待できること等が条件となっているが、鎮痛薬の場合、服用の開始・中止等の判断は難しいことがあり、乱用に陥るケースがある。

医療機関で処方される薬については、リアルタイムでこれまでの処方歴が確認できる電子処方箋の仕組みが2022年に本格稼働することになっているため、薬の重複投与や過剰投与を抑制することが可能となっていくと考えられている。一方で、例えばOTC医薬品については、市販されている風邪薬や鎮痛薬等の中でも常習性のある成分を多く含むものもあるという実態があることから、セルフメディケーションの推進においては、消費者のリテラシーの向上を推進することとあわせて議論されることが多い5。しかし、実際には、こういった薬剤情報については、薬局で購入すれば助言や説明を受けられることがあるが、インターネット等で購入する場合には、助言等を受ける機会はない。したがって、自分で調べたり助言を受けに行く以外には、リテラシー向上の機会はない。

鎮痛薬を服用しても治らない、あるいは服用回数が多いのではないかと感じる場合は、早めに医療機関や薬局に自発的に相談することで、自分の身体を自分で守る必要があるだろう。
 
3 世界保健機関(WHO)では、セルフメディケーションを、自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てすることと定義している。
4 OTC医薬品は、Over The Counterの略で、薬局のカウンター越しに販売される医薬品のことである。
5 参照元選別中例えば厚生労働省 第12回医療用から一般用への転用に関する評価検討会議資料「日本 OTC 医薬品協会発表資料」(2020年10月28日)
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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

村松 容子 (むらまつ ようこ)

研究・専門分野
健康・医療、生保市場調査

経歴
  • 【職歴】
     2003年 ニッセイ基礎研究所入社

(2021年04月27日「保険・年金フォーカス」)

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