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米大統領選 世論調査の改良- 前回の失敗を踏まえて、何を変えたのか?
保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
今年のアメリカ大統領選は、全世界から注目された。開票では民主・共和両党の候補者が大接戦を演じる州がいくつもあり、投票日後なかなか「当選確実」の判定が出ない異例の事態となった。
なかなか判定が出なかったのは、激戦州と呼ばれたいくつかの州で、郵便投票や期日前投票が多く、これらの開票に時間がかかったことが原因として挙げられている。選挙日当日に投票された票と、郵便投票等での票では、投票結果が大きく異なっていたようだ。
当初、トランプ大統領が優勢とされていた州でも、郵便投票等の開票が進むにつれて、バイデン候補が得票数を伸ばし、最終的には逆転して勝利するというドラマチックな展開がみられた。
当選確実がなかなか出なかった背景には、もう1つ原因がある。大手メディアは2016年の前回選挙で、世論調査と選挙結果が全く異なるという失敗を犯した。このことが各メディアのトラウマとなっていて、当選確実の判定を出すのに慎重になった、といわれている。
開票の当初は、トランプ大統領優勢の報とともに、「世論調査がまた外れた」との風評が巻き起った。たとえば、選挙人の数が29人と多く、重要州とみられていたフロリダ州をトランプ大統領が制したと報道された直後には、今回も選挙結果が世論調査と真逆になるのでは? との見方が広がった。
今回、世論調査はうまくいったのだろうか? アメリカ大統領選と世論調査についてみていこう。
◇ 世論調査はサンプルの取り方次第で歪んでしまう
また、標本調査は調査対象のサンプルの取り方に問題があれば、調査結果が歪んでしまう。例えば、特定の世代、地域、所得層などに偏った形でサンプルが選ばれれば、その結果には、それらの層の傾向が強く反映されることとなる。そうしたことが起こらないよう、サンプルをランダムに選んで、調査結果の偏りを排除することが必要となる。
日本では「層化二段無作為抽出法」といって、都道府県や市町村といった行政単位などで全国をいくつかのブロックに分類し、各ブロックに調査地点を人口に応じて比例配分したうえで、住民基本台帳等を利用して各地点に一定数のサンプルを抽出する──といったことが行われている。サンプルの取り方は世論調査の肝といえる。
今回の大統領選挙では、アメリカの大手メディアの世論調査でサンプルの取り方に工夫がみられた。それには、前回の選挙での失敗を反省として、生かそうとする考え方があったようだ。
◇ 前回の調査失敗は「学歴」を織り込まなかったから
そこには、いくつかの失敗の理由が記載されている。その理由の1つとして、学歴の要素を調査に織り込まなかったことが指摘されている。
世論調査では通常、大卒以上の人が調査に協力しやすい一方、高卒の人たちは調査に協力的でないことがあるとされる。このような学歴の要素を加味しないまま調査を行うと、集まった回答のデータに大卒以上の人の声ばかりが反映されてしまうというのだ。
実際に前回の選挙では、高卒の人の多くがトランプ氏に投票したことが判明しており、世論調査ではこの傾向が捉えられなかったという。
今回の選挙では学歴の要素を踏まえるよう、調査が改良されたといわれている。
◇ “隠れトランプ支持”を見分ける設問
逆に、トランプ大統領の支持者が多いとされる地域では、「隠れバイデン支持」の人もいたとされる。こうした「隠れ○○支持」がどれだけいたかは、現時点では分からないが、世論調査の結果に影響を及ぼした可能性はある。
この「隠れ○○支持」を把握すべく設問に工夫を加えた調査もあった。
例えば、「トランプ氏を支持するか」という質問に続けて、「あなたの近所に住む人の多くはトランプ氏を支持しているか」という質問を設ける。バイデン氏に関しても、同じような質問をする。そして、後者の質問に対して、バイデン氏に関するものに「はい」と答える割合が高い地域には、「隠れトランプ支持者」がいるだろうと判断するわけだ。
◇ メディア嫌いな人々の影響をどう把握するか
これらメディア嫌いの人々は、大手メディアが実施する世論調査に回答しない。すなわち、そうした人々の声が世論調査のサンプルから抜け落ちてしまう。回答しない人が多くなれば、世論調査を大きく歪めてしまう恐れがある。こうした問題は、1つのメディアだけではなかなか対処しきれないかもしれない。
こうしたこともあって、世論調査の結果をみるときには、複数のメディアや調査機関の結果を併せ読む必要があるとされる。メディア嫌いの人々の声をどう把握するか、今後さらなる工夫が必要といえるだろう。
◇ 法廷闘争でも選挙の大勢が覆る可能性は低い
ただし、開票作業そのものは、まだ完全に終了したわけではない。州によっては、まだ紆余曲折があることも予想される。しかし、選挙の大勢が覆る可能性は低い、との見方が多いようだ。
このように、前回の選挙で問題となった世論調査の結果と選挙結果の乖離という問題は生じておらず、世論調査の結果は概ね的中したといえるだろう。
ただ、今回の選挙では、これから法廷闘争を含めてどのような動きがあるか不透明だ。アメリカの憲法では、1月20日正午に新たな大統領の任期が始まると定められている。この日に首都ワシントンで大統領と副大統領の就任式が開かれる予定だ。
来年1月20日までどのような動きがあるのか、引き続き注目していく必要があると思われるが、いかがだろうか。
(2020年11月20日「研究員の眼」)
保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
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