2020年04月03日

Z世代の情報処理と消費行動(8)-「ウチら」と「わたし」の消費文化論(2) 

生活研究部 研究員 廣瀨 涼

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1――「ウチら」にとっての意味がブランドに求められる

これは、以前より筆者がZ世代に関するレポートを通して論じてきた通り、クラスタ(趣味や嗜好などによって繋がる人間関係)において世界観を共有することが、アイデンティティの形成に繋がるという特性から生じた側面である。例えばオタク活動をするうえで、クラスタ内でのトレンドや伝統を取り入れることが、自身のアイデンティティ形成に繋がる1。そのため、クラスタ内で受容されているブランドを取り入れることは、自身が同族であるという識別機能を持ち、他のクラスタメンバーとの接点となるのである。そして、その接点(仲間意識)は、自身がオタクであるというアイデンティティ形成に繋がるのである。また、自身の身近なコミュニティにおける「流行」を消費することも人間関係構築においては重要なことであり、前回のレポート2で論じた通り、ブランド消費はコミュニケーション目的で行われているといえる。
 
1 廣瀨涼(2020b)「Z世代の情報処理と消費行動(4)若者マーケティングに対する試論(2)」『基礎研レター(2020/02/20)』https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=61894?site=nli
2 廣瀨涼(2020c)「Z世代の情報処理と消費行動(5)若者の「ヲタ活」の実態」『基礎研レポート(2020/03/02)』https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=63828?site=nli
 

2――なにかをするから欲しくなる。

2――なにかをするから欲しくなる。それを用いて何をするのかが大事。

これは、Z世代はブランド品を持つことによる情緒的価値よりも、商品そのものから得られる機能的価値に重きを置くという傾向から生じた側面である。さらに、商品が持つ機能的価値においても、自分たちでその機能を確認して使いたいと思っており、企業がCMや広告などを通して提供する情緒的なイメージと、自分たちがその商品に対して抱く世界観や使用シーンの間にギャップがあると感じるものも少なくない。

また、これは廣瀨(2020a)3で論じた、若者が「トキ消費」や「コト消費」の一側面として動画撮り、編集し、投稿することで自分らしさを表現しているという点とも関係してくる。以前はいわゆる“インスタ映え”のように、写真として映えることや承認欲求を充足させることが商品に求められ、機能性よりもその見た目が選考されることも多かった。そのため、「物撮り」と呼ばれるような写真を撮ることを目的として購入されることも多く、ブランド物もその例外ではなかった。しかし、「トキ消費」や「コト消費」を、動画投稿を通じて行うZ世代は、その商品を消費することで自分ならどのようにその商品を消費し、表現することができるかという、「モノ消費に見えるコト消費」よって自分らしさを追求している。そのため、ただ商品を買い、所有することで欲求を充足していた世代とは異なり、購入した商品を使用したことによる結果から逆算して、消費の意思決定をしているようである。
図1 若者が製品に求める価値
また、Z世代の消費の特性として、収入は限られているのに、Z世代以前の世代と比べて膨大な情報が流れてくる事で消費(購買)したいと思う頻度や対象が増えたことや、一人当たりの興味関心(ヲタ活対象)が複数あり、支出を分配しなくてはいけないという点も挙げられる。そのため、「モノ消費に見えるコト消費」を中心とした他人のSNS投稿は、「疑似体験」としての機能を持ち、その消費をわざわざ自分がする必要があるのかという判断材料にもなっている。
 
3 廣瀨涼(2020a)「Z世代の情報処理と消費行動(2)-Z世代と4つの市場変化」『基礎研レター(2020/02/06)』https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=63607&pno=1&site=nli
 

3――ブランド消費は自己満足

3――ブランド消費は自己満足

これは、間々田(2007)4の言う「第三の消費文化」に符合する側面である。間々田の第三の消費文化論の視点から見ると、これまでブランド消費は、他人を顧みた顕示的消費に基づく「第二の消費文化」として捉える事ができた。この消費欲求の源泉は、他人からの承認欲求や差別化にあると言えた。しかし、近年の若者のブランド消費は、「憧れ消費」の要素を垣間見ることができる。「憧れ消費」には、「自身の憧れを実現することを目的とした消費」と芸能人やインフルエンサーといった「憧れる他人の行った消費」の2つの要素がある。後者に対しては、(4)で詳しく論じる。前者の「自身の憧れを実現することを目的とした消費」は、きっかけはどうあれ、その商品(もしくはブランド)を手にすることが憧れであり、購買結果が自身の精神的充足に繋がっているような消費行動を指す。承認欲求が消費欲求の源泉であるブランド消費(第二の消費文化)とは異なり、憧れ消費は、間々田の言う消費が自身の精神的充足に繋がる「第三の消費文化」として捉える事ができるのである。

ある女子大生へのインタビューでは以下のような話を聞けた。「高校生のころから、あるブランドのリップ(リップグロスのこと)に憧れていて、お小遣いを貯めて買った。大学に入ってからは、バイトしているから好きなものを買えるようになって、消費に対してワクワクすることが減ったけど、そのブランドのリップを買うときはいつもドキドキしている。」

彼女に限らず、特定ブランドに対して憧れを持っている若者は少なくない。これは、ブランドに対する個人的なイメージが、そのブランドに対するロイヤリティを築いており、自身にとって特別なものであるという感情を抱いているからであると考えられる。この消費結果を例によって、若者はSNSに投稿するわけだが、その投稿は購入したことで得られた満足そのものに帰するものであり、そのブランドの持つ社会的価値(ステータス)を評価してもらいたいわけではなく、手に入れたという経緯や満足している結果を認めてもらいたいと思っているようである。
表1  ブランド消費の分類
 
4 間々田孝夫(2007)『第三の消費文化論 モダンでもポストモダンでもなく』ミネルヴァ書房
 

4――ブランドに対する憧れの源泉がより身近な対象に

4――ブランドに対する憧れの源泉がより身近な対象に

この側面は、SNSや動画投稿の普及化により著名人との距離が近接化してきたことを意味する。前述した通り、ブランド品を購入する際に、芸能人やインフルエンサーといった「憧れる他人の行った消費」によって促されることもある。これはZ世代以前の世代の消費者においても存在していたが、憧れを抱く対象との距離に大きな差異がある。Z世代以前の世代の消費者の憧れの対象は、主に芸能人やスポーツ選手といったマスメディアを中心に影響力が発信される著名人であった。著名人に対する憧れやカリスマ性は文字通り、遠い存在(身近な存在ではない)であるという感覚的な距離を生み出していた。だからこそ、手の届かない遠い夜空の星である“スタア”と彼らを呼んでいた。そんな手の届かない存在と接点を持つ方法が、雑誌やテレビから彼らが消費したものを解読して、真似して消費するという消費を媒介とした間接的な繋がりであった。そのため、芸能人が消費したという事実そのものが消費動機となっており、その源泉は芸能人との距離を埋めるという点や同一化に寄与していたのである。

一方でZ世代の「憧れる他人の行った消費」は大きく性質が異なる。もちろん彼らも前述したような、他人に対する憧れを消費によって埋めたり、同一化を目的とした消費も行う。しかし、ブランドに対する憧れの源泉となる対象(影響を与える人)がより身近な対象となった。例えば一般消費者なのに影響力を持つインフルエンサー5が挙げられる。従来のインフルエンサーに対する認識は良き消費者にとってのアドバイザーという商品に対する「レビュー」の側面が強く求められていた。しかし、Z世代のインフルエンサーに対する認識は異なり、彼らはインフルエンサーの「生き方」から大きな影響を受けている。インフルエンサーやマイクロ・インフルエンサーは、本を正せば彼らのファンと同じ一般消費者であり、彼らの存在はファンや同世代の「憧れ」という位置づけのみならず、代弁者としての位置づけでもあるのである。そのため、Z世代は憧れの源泉となる対象に対して協調(応援)するという側面も持っている。
図2 SNSによって感覚的に縮まった著名人との距離
また、著名人との距離が、SNSによって感覚的に近くなっている。この「距離が近くなった」という感覚は2つの要因によるものであると筆者は考えている。まず、(1)インフルエンサーや芸能人が消費者に近づいているという点にある。従来の芸能人はマスメディアを中心に影響力を発信するため、手の届かない存在であったが、近年では芸能人もコミュニケーション目的にSNSを使用している。以前から芸能人はSNSを使用していたが、その多くはプロモーションとしての側面が強く、広告として芸能人から消費者(ファン)に一方通行な情報が送られるのみであった。しかし、Twitterにおけるリプライ(コメントへの返信)やライブ配信でのコメントの読み上げや質問にその場で答えるなど、ファンと相互的にコミュニケーションがとられるようになった。最近では俳優の佐藤健の公式ラインがファン心理を捉えたメッセージが返ってくると話題になり、併せて、電話型ライブ配信アプリ「SUGAR」を用いてファンが佐藤健本人と生電話できることが話題となっている。

次に(2)SNSのタイムライン(他人の投稿内容を時系列にしたもの)は、個人でデザインされるため、自身が必要としている情報のみで構成されているという点である。従来のマスメディアからの情報は、番組や雑誌の編成という他人の手を介して発信されるものであり、個人の意思で自由に情報を享受できるものではなかった。しかし、SNSにおける人間関係の境界線は、個人がデザイニングしており、繋がりたい人間関係の選択(情報)のイニシアチブは個人に委ねられている。そのため、SNSで著名人と繋がるという行動は、著名人の意思ではなく、各個人を起点とした主体的動作から生まれており、ファンの意思で著名人は各個人のコミュニティに属されるため、SNS上の著名人は各個人の身近なメディアの一部なのである。

以上のような点から、Z世代にとって憧れる(応援する)対象との距離が感覚的に近くなったことで、従来の消費が担ってきた「距離を縮める」という効果は機能しなくなった。その一方で、明確に欲しい商品(機能的価値)がある前提で、自身が信用を置く芸能人やインフルエンサーが実際に使用した体験をもとに消費の意思決定をしていると筆者は考える。これは、購買行動を失敗したくないという心理が働いている。
 
5 現在では、読者モデルのように一部の層からの支持を集める人がその影響力を利用し情報を発信したり、インフルエンサー自体のブランド化(ネームバリューを持つこと)により、芸能事務所に所属するものが現れた。また、マイクロ・インフルエンサー のような、より身近なオピニオンリーダーが登場するなど、その性質が変化してはいるものの、彼らの魅力は消費者にとって「身近である」という点にある。
 

5――ブランドよりテイスト

5――ブランドよりテイスト

これは、ブランドのネームバリューよりもテイストが選考されているという側面である。テイスト(Taste)とは、色合いや雰囲気、風合いを意味する俗語である。以前より筆者が使用している「世界観」と同じ意味として捉える事ができるかもしれない。意味からわかる通り、抽象的なイメージを指しており、言語化できる明確な何かを指しているわけではない。若者はこのテイストを無意識下で共有している。それは、まるで会話での空気を読むように、相手の性格、雰囲気、嗜好、行く場所から共有するテイストを読み合うのである。一緒に出掛ける人がどのような雰囲気のファッションで会いに来るか推測し、その人と同じテイストの服を選ぶか、もしくはその人のテイストを壊さないファッションをすることが求められる。また、出掛ける場所も大きく関係しており、文字通りTPOに合わせて洋服を選んでいるのである。この時、共有されるのは抽象的なイメージであるがゆえに「ブランド」が求められているわけではない。「ペアルック」は、同じブランドで統一したファッションで成立していたが、近年若者の間で主流である、「双子コーデ」6や「バウンドコーデ」7は、テイストが重視される。例えばSHIBUYA109 lab./CCCマーケティング株式会社が渋谷・原宿・新宿・池袋の女子大生に対して行った「消費実態およびファッションに対する意識調査」8では、「一番好きなファッションブランドは」という問いに対して「特になし」が最も多く、次いでGUやH&Mといった「ファストファッション」であったという。また、併せてSHIBUYA109 labが継続的に行っている109利用者インタビューにおいても、自分が着ている服をどこで(ブランド・場所)で買ったか覚えている消費者は少ないという。これは、決してファッションに興味がないというわけではない。服をブランドの社会的意味やロイヤリティといったブランド価値で購買しているわけではなく、機能的価値(ここでいうTPO)として必要な服を購買しているのである。
 
6 2人の人間がまるで双子のように、着る服の色や柄、身につけるアクセサリーなどを揃えることを意味する語
7 ディズニーキャラクターを連想させる私服のコーディネートのことである。 米国のディズニーファンがハロウィン時期以外でもディズニーパーク内でコスプレを楽しみたいとやりはじめたのが発祥とされる。
8 第4回 ミライ・マーケティング研究会報告内容より引用
 

6――まとめ

6――まとめ

以上のことから筆者は、特にZ世代は、(1)ブランドをアイデンティティ形成やコミュニケーション目的で消費する、(2)購買意思決定を情緒的価値ではなく使用価値に重きを置く、(3)ブランド消費は自己の精神的充足を満たす、(4)消費が憧れている存在との距離を縮めるという感覚が薄れた、(5)ネームバリューよりも雰囲気を選好する、といった新しい価値観の元、ブランドと向き合っていると考えている(図3)。
図3  Z世代のブランドに対する向き合い方
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生活研究部   研究員

廣瀨 涼 (ひろせ りょう)

研究・専門分野
消費文化、マーケティング、ブランド論、サブカルチャー、テーマパーク、ノスタルジア

経歴
  • 【経歴】
    2019年 大学院博士課程を経て、
         ニッセイ基礎研究所入社

    ・令和6年度 東京都生活文化スポーツ局都民安全推進部若年支援課広報関連審査委員

    【加入団体等】
    ・経済社会学会
    ・コンテンツ文化史学会
    ・余暇ツーリズム学会
    ・コンテンツ教育学会
    ・総合観光学会

(2020年04月03日「基礎研レター」)

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【Z世代の情報処理と消費行動(8)-「ウチら」と「わたし」の消費文化論(2) 】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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