2020年03月12日

生産緑地への農業法人参入の可能性

社会研究部 都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任   塩澤 誠一郎

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2|経営内容についての意向
<その他を除くすべての選択肢を複数選択>
生産緑地での農業経営について関心のある経営内容を複数回答する設問では、「加工品製造・販売」9件、「農家レストラン経営」8件、「市民農園・体験農園運営」7件の順で多くなっている。

前問で、加工も主たる事業内容とする農業法人が多かったことを反映して、これらの回答が多くなっているものと読み取れる。

以下、「その他」を除き、すべての選択肢に複数の回答があることから、生産緑地での多様な農業経営に関心を示していることが分かる結果となっている。
図表5 経営内容についての意向
実は、これらの選択肢は、前述の認定事業計画に基づく貸付けの認定基準のうち、「都市農業の有する機能の発揮に特に資する基準」10に該当するものである。「減農薬栽培などの環境保全農業」や「高付加価値農産物の研究開発」もそれぞれ6件、4件の回答があり、こうした取り組みも、生産緑地で実施する対象と考える農業法人が実際にいることが分かる。
 
10 都市農地の貸借の円滑化に関する法律施行規則(平成30年農林水産省令題54号)第3条。正確には、「都市農業の有する機能の発揮に特に資する事業の内容に関する基準」
3|生産緑地を営農対象にする理由
前問で、「既に貸借を検討している」、「今後貸借の可能性を検討する予定」と回答した24法人の所在都道府県と、生産緑地地区のある都道府県を比較した。生産緑地地区は、その制度の性格上三大都市圏に集中しており、一つもない道県もある。ところが、14の農業法人は、生産緑地地区がない道県に所在していた。(図表6)

この理由については、調査実施時期が、都市農地貸借法の施行からまだ間もなかったことから、制度をよく理解せずに回答している可能性が考えられる。
図表6 農業法人の所在地
この結果を踏まえ、24法人の内、アンケートの中で回答内容について、ヒアリング等に対応可、もしくは検討可と回答した法人にメールで、現在までの検討状況(2020年2月時点)と生産緑地を営農対象にする理由を確認したところ、6法人が回答に応じてくれた。

この中で、「アンケートの回答は間違い。生産緑地に興味はない」とするのは1件のみであった。「まだ検討に至っていない」が4件で、1件のみ「検討の結果貸借することにした」との回答があった。残念ながら、この1社にそれ以上詳細を聞くことはできなかったが、この法人は株式会社で、「生産、加工、販売」を事業としていることから、今後、農業法人が生産緑地で生産、加工、販売を行う事例が誕生するかもしれない。(図表7)
図表7現在の検討状況
「まだ検討に至っていない」と回答した4社の内、2社は法人が所在する都道府県内に生産緑地地区を有していない。この内、A社の生産緑地に関心がある理由は、「可能性があれば拒否しない」というもので、貸借する場合の条件を挙げてくれた。つまり、生産緑地でも、そうでない農地であっても条件に合えば検討対象になるというものだ。しかし、条件の中には生産工場から片道15分以内といったものがあり、生産工場ごと導入しない限り、現実的には県外に貸借する可能性は小さいものと思われる。(図表8)

もう1社から具体的な回答はないものの、この結果から、必ずしも制度を理解せず回答している法人ばかりではないことがうかがえた。

所在する都道府県内に生産緑地地区を有する2社のうち、B社は、事業規模拡大を図っているところで、条件が合えば生産緑地も検討するというものだった。条件というのは、拠点から30分以内でアクセス可能、3ヘクタール以上、大型機械が出入り可能などである。C社は既に生産緑地を所有していることから当然検討対象になるというものだ。

このように、A、B、C各社は、生産緑地だけを特に貸借の対象にしているわけではなく、経営方針の中で、農地を拡大する対象の一つとして、生産緑地を捉えており、条件さえ合えば他の農地と同じように対象とするというものだ。
図表8生産緑地地区を対象にする理由
以上は、メールでの回答であるが、これ以前に1社のみ電話でのヒアリングに応じてくれた11。この法人D社は生産緑地を有する府県に所在するものの、現状は市街化区域外で営農しており、事業内容としては「生産、加工、販売」である。興味深い回答なのでここで紹介したい。

生産緑地の貸借による営農を検討する理由について、まだ具体的ではないとしつつも次のように回答してくれた。「消費地の近くで生産することで、加工製品の認知を広げ、需要を高めることが期待できるかもしれない」

つまり、消費者の目にとまりやすい場所での営農が、自社加工製品のプロモーションにつながるという見方をしているのだ。それであれば消費者に近いことが重要で、そこでの生産量の多さ、つまり農地面積の大きさはさほど重要ではない。だから、生産緑地なのである。生産、加工の主はあくまで現在の市街化区域外の農地で行い、加工製品のプロモーションに生産緑地を活用するという経営戦略上の図式が浮かび上がる。
 
11 2019年2月
 

4――おわりに

4――おわりに

以上のように、今回の調査によって、主に次の点が理解できた。(1)生産緑地の貸借による営農に関心を持つ農業法人が実際に一定程度存在する。(2)生産緑地での経営内容を生産に限らず、研究開発や環境保全農業など多様に捉えている。(3)生産緑地を営農対象とする理由は2種類あり、一つは、貸借可能となったことで他の農地同様規模拡大の対象とするもの。もう一つは、消費者の近くに生産拠点を置くことの経営戦略上の優位さを評価するものである。

今後、生産緑地の貸借が増えていくと予想される中で、農業法人の参入も現実味を持って考えられる状況と言えるだろう。今回理解できた点を踏まえ、それが、どこで、どのような形で展開されていくのか注目していきたい。
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社会研究部   都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任

塩澤 誠一郎 (しおざわ せいいちろう)

研究・専門分野
都市・地域計画、土地・住宅政策、文化施設開発

(2020年03月12日「基礎研レポート」)

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