2019年11月25日

企業型DCの商品選び-効率的な資産形成に欠かせない投資信託の活用

金融研究部 企業年金調査室長 年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 梅内 俊樹

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4――目的に応じて選べる「バランス型」

「バランス型」には、「ターゲットデート型」と「リスクコントロール型」といった商品もあります(図表3)。ライフサイクル型とは違い、各資産の構成比率は一定ではなく、状況に応じて変動するところに特徴があります。
 
ターゲットデート型は、将来の特定の時期をターゲットに設定し、ターゲットに向けて、株式のような価格変動性が相対的に大きい資産の構成比率を引き下げ、債券や短期金融資産のように価格変動性が相対的に小さい資産の構成比率を引き上げることで、損失発生リスクの計画的な低減を目指す商品です。

金融資産が少額にとどまる若い時期であれば、仮に市場価格の急落によりに金融資産が半減したとしても、退職までの長い時間をかけて就労収入の一部を積み立てることで、損失をカバーすることができます。しかし、若い時期に比べ金融資産が積み上がるリタイア間近に金融資産が半減するとなれば、損失額が多額になる上、就労収入が得られる期間も限られることから、損失の完全な穴埋めは難しくなります。金融資産の目減りによって、老後の生活が圧迫されることにもなり兼ねません。加齢とともにリスクを抑制した資産構成にシフトするターゲットデート型には、こうした事態を回避しようとする狙いが込められています。

ターゲットは、5年や10年間隔で設定されるのが一般的で、ターゲットとして設定される年ごとに、別々の商品として提供されます。例えば、2025年、2030年、2035年、・・・、2060年といったような商品が同時に提供されます。複数ある商品のうち、60歳などの特定の年齢を迎える時期や定年退職する時期にターゲットが設定される商品を選ぶことによって、加齢にともなうリスク調整を自動化できるメリットがあります。こうしたリスク調整の考え方に賛同できる方にとって、とても便利な商品です。
図表5 金融危機時のバランス運用のリターン試算 リスクコントロール型は、市場環境に応じて資産構成比率を調整し、価格変動リスクを一定の範囲にコントロールしながら、運用収益の着実な積み上げを狙う商品です。値上がりや値下がりが一定期間継続しやすいといった特性に着目して、損失を抑制しながら利益の拡大を目指す商品や、債券と株式の値動きが反対になり易いといった傾向を捉えて、債券と株式の価格変動にともなう損益を相殺しながら、利息や配当をベースとする安定的な運用収益の獲得を目指す商品などがあります。

資産構成を見直す際の着眼点は商品によって異なりますが、市場環境に関わらず安定した運用収益の積み上げを期待できるところに共通の特長があります。世界的な金融危機に見舞われた2008年は、国内外の株式は40~50%下落しました。このとき、国内外の株式や債券に25%ずつ投資していたとすると、資産の約3割を失った計算になります(図表5)。しかし、市場に変化の兆しが見られた2007年中に、国内外の株式をすべて売却し、国内外の債券を50%ずつとする資産構成にシフトできていたとすると、損失は6%に抑制されていたことになります。やや極端な例ですが、ライフサイクル型は資産構成比率を一定に維持するが故に、市場急落時の影響を避けられませんが、何らかの前触れを捉えて資産構成比率を調整するリスクコントロール型であれば、市場急落時の損失が抑制される可能性があるのです。

リスクコントロール型という名称からも想像されるように、多くの商品では、国内外の株式への投資制限などによって、損失発生リスクが抑えられています。その上で、不安定な市場環境が続く場合にも、着実に運用収益が積み上げられるように運用されるわけです。期待とおりの運用成果が得られるかどうかは、資産構成比率の調節が機能するかどうか次第という面はありますが、個人では難しい機動的な投資判断を運用の専門家に任せて、安定的な運用収益の拡大を図りたい場合に検討したい商品です。
 

5――ご自身の企業型DCの資産運用状況の確認を!

5――ご自身の企業型DCの資産運用状況の確認を!

企業型DCは、勤め先の企業が福利厚生の一環で従業員に提供する退職給付制度の一つです。加入要件を満たす従業員は、自動的に企業型DCに加入することになり、掛け金は企業から支払われます。自分の意思で加入し、掛け金も自ら負担するイデコ(個人型DC)とは異なり、企業の案内に従って、受け身の姿勢で加入手続きが進められることもあり、企業型DCの運用は疎かにされがちです。

しかし、老後生活を取り巻く環境が大きく変わるなか、老後生活における資金源としての企業型DCの重要性は高まりつつあります。企業型DCの特長を活かした効率的な運用が、求められるようになっているのです。人生100年時代の到来を目前に控えるなか、企業型DCに加入する方は、今一度ご自身の企業型DCの運用が、長期の資産形成による老後の備えとして相応しい運用となっているのか再確認するとともに、投資信託の活用を前向きに検討する必要があると言えます。
 
 

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金融研究部   企業年金調査室長 年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

梅内 俊樹 (うめうち としき)

研究・専門分野
企業年金、年金運用、リスク管理

経歴
  • 【職歴】
     1988年 日本生命保険相互会社入社
     1995年 ニッセイアセットマネジメント(旧ニッセイ投信)出向
     2005年 一橋大学国際企業戦略研究科修了
     2009年 ニッセイ基礎研究所
     2011年 年金総合リサーチセンター 兼務
     2013年7月より現職
     2018年 ジェロントロジー推進室 兼務
     2021年 ESG推進室 兼務

(2019年11月25日「基礎研レポート」)

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