2019年07月09日

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1. はじめに

札幌市では、コールセンターやIT関連企業を中心とした新規開設および拡張移転が活発であり、まとまった面積の空室は減少している。こうした需給の逼迫を反映し、成約賃料の上昇ペースが加速している。本稿では、札幌のオフィス市況を概観した上で、2023年までの賃料予測を行う。
 

2. 札幌オフィス市場の現況

2. 札幌オフィス市場の現況

2-1. 空室率および賃料の動向
札幌のオフィス空室率は、全国主要都市と同様に低下傾向で推移している。三幸エステートによると、札幌市の空室率(2018年12月時点)は3.7%となり、2017年末の4.0%から更に低下した(図表1)。札幌では、過去5年間のオフィスの新規供給量は、年間3,500坪程度と限定的であった。一方、コールセンター1企業や、ソフト開発等のIT関連企業を中心とした新規開設および拡張移転等を背景に、オフィス需要は堅調であり、まとまった面積の空室は減少している。

札幌市の空室率を規模2別にみると、「大規模ビル」を除く全ての規模の空室率が過去最低水準まで低下した。大規模ビルの空室率は、2018年5月の「さっぽろ創世スクエア」の竣工等に伴い、2017年末の1.5%から2018年末には2.0%へ小幅に上昇したが、依然として、移転集約等を受け皿となる高スペックなビルは足りていない模様だ。(図表2)。
図表-1 主要都市のオフィス空室率/図表-2 札幌オフィスの規模別空室率
札幌市の成約賃料は、空室率の改善を背景に上昇基調で推移している。2018年下期の成約賃料は、ファンドバブル期のピークを上回った(図表3)。
図表-3 主要都市のオフィス成約賃料(オフィスレント・インデックス)
2018年の空室率と成約賃料の変化を主要都市で比較すると、札幌市では、空室率は小幅な改善に留まった一方で、賃料は大幅に上昇した(図表4)。

賃料と空室率の関係を表した札幌市の賃料サイクル3は、2013年下期を起点に「空室率低下・賃料上昇」局面が長期にわたり続いている。2017年には、賃料上昇ペースの鈍化が見られたものの、2018年は再び賃料上昇ペースが加速した(図表5)。
図表-4 2018年の主要都市のオフィス市況変化/図表-5 札幌オフィス市場の賃料サイクル
 
1 オペレーターが、電話やメール等の情報通信技術を用いて、販売商品やサービス等に関する問い合わせの対応や注文受付、勧誘等を行う事務所。
2 三幸エステートの定義による。大規模ビルは基準階面積200坪以上、大型は同100~200坪未満、中型は同50~100坪未満、小型は同20~50坪未満。
3 賃料サイクルとは、縦軸に賃料、横軸に空室率をプロットした循環図。通常、(1)空室率低下・賃料上昇→(2)空室率上昇・賃料上昇→(3)空室率上昇・賃料下落→(4)空室率低下・賃料下落、と時計周りに動く。
2-2. オフィス市場の需給動向
三鬼商事によると、札幌ビジネス地区では、総ストックを表す賃貸可能面積は、新規供給が限定的であったことに加え、築古ビルの取り壊し等が進んだことで、2009年末の49.3万坪から2018年末の51.2万坪へと10年間で1.9万坪の増加に留まった。一方、テナントによる賃貸面積は、2009年末の43.8万坪から2018年末の50.0万坪へと10年間で6.2万坪の大幅増加となった(図表6)。

この結果、札幌ビジネス地区の空室面積は、2010年末の5.7万坪をピークに減少し続けており、2018年末には1.2万坪と、ファンドバブル期のボトムである2007年末(3.9万坪)の3分の1以下の水準となった。
図表-6 札幌ビジネス地区の賃貸可能面積・賃貸面積・空室面積
過去6年間の月次の増減を確認すると、賃貸可能面積が増加したのは、大規模ビルが竣工した時期に限定される。一方、賃貸面積は、着実な増加を示しており、札幌のオフィス需要の底堅さが窺える(図表7)。
図表-7 札幌ビジネス地区の賃貸可能面積・賃貸面積・空室面積の増減
こうした底堅いオフィス需要を支えているのは、コールセンター企業やIT関連企業による新規拠点開設および拡張移転である。

札幌市は、「札幌市コールセンター・バックオフィス4等立地促進補助金」をはじめとして、コールセンター運営をサポートする様々な施策を講じている。こうした取り組みにより、2018年のコールセンター・バックオフィス企業の従業員数は約41,000人となり、2011年の約2倍にまで増加した(図表8)。
図表-8  札幌市のコールセンター・バックオフィス企業・従業員数の推移
また、札幌市では、1980年代により「札幌テクノパーク」(札幌市厚別区)を整備するなど、全国の主要都市に先駆けて、IT企業の誘致を積極的に行ってきた。JR札幌駅北口周辺では、IT企業の集積が進んでおり、「札幌駅北口ソフト回廊」と呼ばれている。近年も2016年に「さっぽろ未来創生プラン」を策定し、IT産業などの理系人材の雇用の受け皿となる産業の振興に力を入れている。一般社団法人北海道IT推進協会「北海道ITレポート」によれば、北海道における情報産業の売上高は、2012年以降着実に成長しており、2018年には約4,500億円(見込み)に達している(図表9)。

直近の移転事例をみると、2018年5月に竣工した「さっぽろ創世スクエア」にはコールセンター大手の「りらいあコミュニケーションズ」や「トランスコスモス」が、2019年3月に竣工した「創成イーストビル」にはIT大手の「富士ソフト」が入居する等、コールセンター企業やIT関連企業の移転が目立つ。
図表-9  北海道における情報産業総売上高の推移
 
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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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【「札幌オフィス市場」の現況と見通し(2019年)】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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