コラム
2019年03月28日

3方よしの観点で公共空間を見直すと

社会研究部 都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任 塩澤 誠一郎

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前回、好きなことをする人よし、それを見る人よし、その光景を眺める人よしの、3方よしを成立させる空間的条件を述べた。好きなことをする人の活動に道路や公園という公共空間から接することができ、そこに、いっとき複数の人が留まることができる広さがあって、周囲の人がその光景を眺められる見通しがあることだ。

この、3方よしの条件に照らして公共施設をチェックしてみよう。前々回の野球場の例のように、屋外施設であれば3方よしの空間条件を満たしやすい。しかし、そもそもそこを利用して好きな活動をする人がいなければ、3方よしどころか何も生まない。以前、「公共施設のシェア利用」を提案したが、この意味からも、予約がないからといって、空間を閉めきりにしておくのはもったいないことである。野球場に限らず、予約占有利用が前提で、しかもそれは事前に登録した団体しか認めないといった貸し出し方法を、施設の管理運営者は見直した方がよい。

全面的にシェア利用を取り入れなくても、一部を開放することで、3方よしを作り出しやすくすることも考えられる。例えば、周囲をスタンドが取り巻いている陸上競技場やサッカー場では、そこに入らなければ部外者が見学することは難しい。そこで、最初からスタンドはグランドと貸し出し区分を分けておき、グランドを利用する者がスタンドまで借りない場合は、原則シェア利用にしておく。そうすれば、サッカー好きの親子などが、気軽に練習風景やゲームを見学することができる。

そればかりか、サッカーはともかく芝生のスタンドに寝そべってのんびり本を読むといった利用もできる。小高くて広々としているから、陽気がよければ心地よいそよ風の中で一時を過ごすことができるだろう。グランドを利用していないときでもその空間が生かされる。
そう考えれば、本来の目的と異なっていても利用を認めるべきである。スタンド内なので、その光景を外から眺めることは難しいかもしれないが、そうした利用ができる場であれば、サッカーや陸上競技に興味がない地域住民にとっても、それがあることを好ましく思うだろう。地域よしである。

ここではスポーツ施設しか例に出さなかったが、同じように3方よしの観点から、一度地域の公共施設、公共空間をひととおり見直してみてはどうだろうか。そうすれば、これまで利用者の視点でしか管理運営の評価を行ってこなかった、管理運営側の姿勢を改める必要があるかもしれない。それも重要なことだと思うのである。
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社会研究部   都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任

塩澤 誠一郎 (しおざわ せいいちろう)

研究・専門分野
都市・地域計画、土地・住宅政策、文化施設開発

(2019年03月28日「研究員の眼」)

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