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韓国でも外国人労働者が増加傾向―外国人労働者増加のきっかけとなった雇用許可制の現状と課題を探る―
生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中
1――はじめに
韓国における外国人労働者の受入れ政策は大きく「優秀専門外国人労働者の誘致戦略」と「非専門外国人労働者の効率的活用」に区分することができる。優秀専門外国人労働者の誘致戦略としては、「電子ビザの発給」、「点数移民制の施行」、「留学生の誘致及び管理強化」、「投資移民の活性化」等が挙げられる。また、非専門外国人労働者の効率的活用と関連した代表的な政策としては、2004年8月に施行された雇用許可制がある。雇用許可制とは、国内で労働者を雇用できない韓国企業が政府(雇用労働部)から雇用許可書の発給を得て、合法的に外国人労働者を雇用する制度である。
日本における外国人労働者も2008年の48.6万人から2017年には128万人まで増加している。しかしながら、外国人労働者を在留資格別みると、留学生などの資格外活動(29.7万人)と技能実習(25.8万人)等、長期間にわたる就労を目的としていない在留資格で働く外国人労働者の割合は43.4%にも達している。さらに、最近は、技能実習制度の問題点が指摘され、それに対する対策も求められているところである。
今後、日本が長期的な労働力人口の減少に合わせて外国人労働者を受け入れるためには、技能実習生制度のみならず、韓国が導入している雇用許可制やドイツやシンガポール1など先進国の労働許可制の導入も含め、外国人労働者受け入れ政策の転換を考える必要があるだろう。本稿では、韓国における外国人雇用の現状と課題、そして雇用許可制の実態を分析することにより、今後の日本における外国人労働者受け入れ政策のあり方について考察する。
1 佐野孝治(2014)「韓国の経験に学ぶ:人手不足対策、外国人雇用強化制度とは、最終回」労働新聞2014年12月22日
2――在留外国人と外国人労働者の現状
就業者を国籍別にみると、韓国系中国人が44.1万人(45.8%)で最も多く、次いでベトナム人7.2万人(7.5%)、韓国系以外の中国人6.4万人(6.7%)、北米人4.5万人(4.7%)の順であった。在留資格別には、一般雇用許可制の非専門就業(E-9)が26.1万人、特例雇用許可制の訪問就業(H-2)が22.1万人、在外同胞(F-4)が19.9万人、永住(F-5)が8.8万人、結婚移民(F-2-1、F-6)が6.2万人、専門人材(E-1~E-7)が4.6万人、留学生(D-2、D-4-1、D-4-7)が1.3万人となっている。
産業別には、製造業(43.6万人)、 卸小売・宿泊・飲食店業(19.0万人)、事業・個 人・公共サービス(18.7万人)、建設業(8.5 万人)が上位4位を占めている。職種別には、技能員・機械操作及び組立従事者が39.5万人(39.0%)で最も多く、次いで単純労務従事者30.5万人(31.7%)、サービス・販売従事者12.1万人(12.6%)、管理者・専門家及び関連従事者10.4万人(10.8%)の順になっている。
3――外国人労働者増加の背景
では、なぜ韓国政府は雇用許可制を導入するなど、外国人労働者の受け入れに積極的な政策を実施することになっただろうか。その最も大きな理由としては、(1)出生率低下による将来の労働力人口の減少と成長率低下に対する懸念が増加したことと、(2)日本をモデルとした「外国人産業技術研修生制度」の問題点が深刻化したからである。
韓国の出生率は 1950 年代後半を頂点として急速に低下し、1983 年以降は、人口の置き換え水準である 2.1 を下回る状況が続いている。特に、2005年には出生率が1.08まで低下した。韓国政府は少子化の問題を解決するために、2006年から「セロマジプラン」という少子高齢化対策を実施し、10年間にわたり、莫大な予算を投入したものの、2016年の出生率は1.17であまり改善されていない。同期間における日本の出生率が1.32から1.44に改善されたことと比べると、韓国の出生率の改善度の低さが分かる。さらに、韓国統計庁が2019年2月27日に発表した「2018年出生・死亡統計(暫定)」では、2018年の合計特殊出生率(一人の女性が一生に産む子供の平均数、以下、出生率)が2017年の1.05を下回る0.98まで低下すると推計した。
一方、2016年における韓国の高齢化率は13.2%で、日本の27.3%に比べてかなり低い水準であるものの、高齢化率の上昇のスピードが速く、2060年には高齢化率が41.0% まで上昇することが予想されている。2017年に発表された日本の将来人口推計による2060年の日本の高齢化率38.1% を上回る数値である。出生率が低下し、高齢化率が高まると労働力人口の減少は避けられない。従って、将来の労働力人口の減少とそれによる成長率の低下を懸念した韓国政府は、既存の消極的な外国人労働者受け入れ政策を積極策に転換することになったのである。
4――外国人労働者受け入れ政策
韓国政府は1993年に外国人産業技術研修制度を導入することで単純機能の外国人労働者を合法的に受け入れ始めた。外国人産業技術研修制度を導入する前には、単純技能の外国人労働者の受け入れは原則的に禁止されていたものの、実際には違法な雇用が発生しており、その規模すら把握できない状況であった。韓国政府は開発途上国との経済協力を図り、1980年後半から急速に増加した人件費負担や3K業種への就職忌避現象などによる労働力不足の問題を解決するために、外国人産業技術研修制の導入を決めた。この制度は、産業研修生として入国した外国人が事業場で一定期間、研修を受けてから帰国する仕組みであった。しかしながら、労働力不足が深刻な事業場では、彼らが研修生の資格であるにもかかわらず、研修はおざなりにして、すぐに労働に従事させるなどの問題が発生した。また、外国人研修生が指定された事業場から離脱して不法滞在者になるケースも頻発した。さらに、外国人研修生の資格で働く場合の賃金や労働権、労働者の地位や保険、悪質な送出機関やブローカーの存在などが新しい問題として浮上した。
韓国政府は、外国人産業技術研修制と外国人労働者管理の問題点を解決するために、2000年から既存の外国人産業技術研修制を修正して「研修就業制」を実施した。 研修就業制は、外国人労働者が国内の事業場で技能を習得する産業研修生という身分で研修を受けてから、研修就業者という資格で制限的に労働者の地位を認め、決まった期間の間に合法的に就業を可能にした制度である。2000年から産業研修生は2年の研修を受けると1年間就業することが可能になった。また、2002年以降は1年の研修後、2年間就業ができるように就業期間を拡大した。そして、2002年には単純サービス分野の労働力不足を解消するために、韓国国籍ではない外国の同胞、特に中国同胞と旧ソ連地域の同胞が一部のサービス業種で働くことを許可する「就業管理制」が導入された。さらに、2003年には「外国人労働者の雇用などに関する法律」が制定・公布され、2004年からは単純技能の外国人労働者の導入を合法的に許可する雇用許可制が施行されることになった。その結果、既存の外国国籍の同胞を対象にした就業管理制は雇用許可制の特例制度として雇用許可制に統合されることになった。
他方、海外専門人材の導入の場合、関連政策は科学技術政策の一環として始まった。韓国政府は1968年から遅れていた韓国の科学技術の水準を向上させるため、「在外韓国人科学技術者誘致事業」を実施した。この事業は1990年代まで持続される。韓国政府は、1990年代以降、韓国の産業構造が急速に高度化すると、国家競争力において科学技術及び専門知識などの重要性を認識し、海外の優秀な外国人人材の誘致にも力を入れることになった。1993年には新経済5ヵ年計画により、科学技術分野でBrain Pool制度が設けられ、その結果、「海外高級科学頭脳招聘活用事業」が実施され、既存の関連事業もこの事業に吸収されることになった。その後、科学技術人材の誘致支援は人文社会系列の優秀人材分野にも拡大されて1999年からはBK21事業、2004年からはStudy Koreaプロジェクト、2008年からはWCU、そして1年後にはWCI事業が実施された。そして、BK21事業とWCU事業の後続事業として、2013年からはBK21プラス事業が、2015年からはKRF事業が実施されている。
(2019年03月27日「基礎研レポート」)
生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任
金 明中 (きむ みょんじゅん)
研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計
03-3512-1825
- プロフィール
【職歴】
独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職
・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
・2021年~ 専修大学非常勤講師
・2021年~ 日本大学非常勤講師
・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
・2024年~ 関東学院大学非常勤講師
・2019年 労働政策研究会議準備委員会準備委員
東アジア経済経営学会理事
・2021年 第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員
【加入団体等】
・日本経済学会
・日本労務学会
・社会政策学会
・日本労使関係研究協会
・東アジア経済経営学会
・現代韓国朝鮮学会
・韓国人事管理学会
・博士(慶應義塾大学、商学)
金 明中のレポート
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