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- 健康経営は株価に影響を与えるのか?-残余利益モデルに基づく評価
モデルを用いて、健康経営銘柄の資本コストを相対的に評価する。ここで、健康経営銘柄か否かの影響を定量的に確認するために、(ア)健康経営銘柄を仮定した場合の推定資本コスト、と、(イ)全ての分析企業が健康経営銘柄でないと仮定した場合の推定資本コスト、を全分析企業に対して算出し、その差分((ア)-(イ))の平均値を確認した。この結果、健康経営銘柄の資本コストは相対的に1.9%程度低いことがわかった。なお、期待成長率に対しても同様に、健康経営銘柄の影響度を算出すると、健康経営銘柄の期待成長率は、相対的に0.4%高かった。その際、健康経営銘柄か否かの影響を、資本コストに加味する代わりに、期待成長率に加えた。この結果はいずれも、利益率やレバレッジなどの属性が類似した企業と比べて、健康経営銘柄の株式価値が高いことを示す。しかし、いずれの場合も、統計的に有意性はなかった(有意水準10%)。
なお、今回の分析だけでは、投資家が健康経営に積極的な企業をどのように評価したかまでは判断ができない。健康経営に取り組んでいる企業は、今回分析対象とした健康経営銘柄だけではないからだ。今回の分析では、健康経営に積極的な企業を経済産業省選定の健康経営銘柄とし、そうでない銘柄と分けて評価した。健康経営銘柄以外に、健康経営に積極的であると評価される企業の数を多く分析すれば、統計的にもより的確な分析になると思われる。
健康経営度調査結果を用いた制度は、健康経営銘柄の他に、「健康経営優良法人6」がある。健康経営銘柄数は、健康経営度調査に回答した企業数に対して約4%であるのに対し、健康経営優良法人は40%程度と幅広く選ばれている。今後、健康経営優良法人を対象とした分析を検討したい。
1 健康経営はNPO法人健康経営研究会の登録商標
2 残余利益モデルによる 個別企業の資本コスト・ 期待利益の同時推定(日本銀行金融研究所、金融研究、2016 年10月)
3 資本コストおよび期待成長率は、計算の都合上、上下限を持つなめらかな関数として、各要素(xiおよびyi)の影響をパラメータ(aiおよびbi)で評価可能な以下の式で定義した上で、残余利益モデルにおける誤差を統計的に小さくするようなパラメータ(a0 、ai 、b0 、bi)を最尤推定法により決定する。
資本コスト:上限50%、下限0%とする
要素は、財務レバレッジ(負債総額÷株主資本簿価)、キャッシュフロー利回り(キャッシュフロー÷時価総額)、配当利回り(配当総額÷時価総額)、業種(日本銀行レポートに基づく19業種に区分)、時期(各時点における投資家のリスク回避度の影響)を用いた。健康経営銘柄か否かの影響は、健康経営銘柄を1、それ以外の銘柄を0とする変数を要素として加え、変数の有意性を評価する。
期待成長率:上下限±50%とする
要素は、予想利益成長率(2年先と1年先のアナリスト予想利益から算出)を用いた。ただし、健康経営銘柄の予想利益成長率の平均は、健康経営銘柄でない企業のものと大きく変わらないことを確認済み
4 分析企業数は全期3,549社であり、そのうち健康経営銘柄は147社であった。
5 先行研究における推計資本コストは、2015年で4%程度だった
6 健康経営度調査健康経営優良法人は、上場・非上場を問わず経済産業省の定める大規模法人の中から、健康経営度上位50%から認定される。一方、健康経営銘柄は、上場企業の健康経営度上位20%の中から、財務的な選考などを経て、各業種において顕著な健康経営度を示す30社前後に絞られる。
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水野 友理那
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(2019年03月15日「基礎研レター」)
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