2019年02月15日

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1. はじめに

東京都心部Aクラスビル1の需給改善は継続しており、2018年第4四半期の空室率は1%を下回り、2000年以降で過去最低水準となった。極めて逼迫した需給環境を反映し、成約賃料は上昇を続けており、40,000円/月・坪目前に達した。本稿では、東京都心部のAクラスビルのオフィス市況を概観した上で、2023年までの賃料と空室率の予測を行う。
 
1 本稿ではAクラスビルとして三幸エステートの定義を用いる。三幸エステートでは、エリア(都心5区主要オフィス地区とその他オフィス集積地域)から延床面積(1万坪以上)、基準階床面積(300坪以上)、築年数(15年以内)および設備などのガイドラインを満たすビルからAクラスビルを選定している。また、基準階床面積が200坪以上でAクラスビル以外のビルなどからガイドラインに従いBクラスビルを、同100坪以上200坪未満のビルからCクラスビルを設定している。詳細は三幸エステート「オフィスレントデータ2019」を参照のこと。なお、オフィスレント・インデックスは月坪当りの共益費を除く成約賃料。
 

2. 東京都心部Aクラスビル市場の現状

2. 東京都心部Aクラスビル市場の現状

2-1 空室率および成約賃料の動向
東京都心部のAクラスビルの空室率は、2017年1Q(3.9%)以降低下傾向に推移しており、2018年4Qには2000年以降で過去最低水準の0.8%にまで低下(改善)した。空室率の改善を受けて、成約賃料(オフィスレント・インデックス2)は2018年に入ってから急速に上昇しており、2018年4Qには39,468円/月・坪(前期比+1.2%、前年同期比+14.1%)と、リーマンショック後の最高値を更新した。(図表1)。
図表-1 都心部Aクラスビルの空室率と成約賃料
都心部ではAクラスビルだけなく、BクラスおよびCクラスビルでもまとまった空室を確保することは難しくなっている。2018年第4四半期のBクラスの空室率は0.7%、Cクラスでは0.6%と、ともに1%を下回った(図表2)。極めて逼迫した需給を反映し、Aクラスビルと同様に、B・Cクラスビルの成約賃料も上昇しており、リーマンショック後の最高値を更新した。2018年第4四半期のBクラスビルの成約賃料は21,429円(前年同期比+8.1%)、Cクラスビルの成約賃料は18,564円(前年同期比+16.2%)となった。Bクラスビルは、2001年以降の最高値(ファンドバブル期の成約賃料)の75%、Cクラスビルでは88%の水準まで上昇している。(図表3)。
図表-2 東京都心部の空室率/図表-3 東京都心部の成約賃料
賃料と空室率の関係を表した賃料サイクル3は、2012年を起点とした「空室率低下・賃料上昇」局面が続いている(図表5)。前述の通り、空室率は既に1%を切る水準まで低下しており、「空室率上昇・賃料上昇」あるいは「空室率上昇・賃料下落」局面に近づきつつある。
図表-4 東京都心部の成約賃料(前年同期比)/図表-5 東京都心部Aクラスビルの循環図
 
2 三幸エステートとニッセイ基礎研究所が共同で開発した成約賃料に基づくオフィスマーケット指標。
3 賃料サイクルとは、縦軸に賃料、横軸に空室率をプロットした循環図。通常、(1)空室率低下・賃料上昇→(2)空室率上昇・賃料上昇→(3)空室率上昇・賃料下落→(4)空室率低下・賃料下落、と時計周りに動く。
2-2 旺盛なオフィス需要を支える要因
2018年は20万坪を越える高水準の新規供給があったが、旺盛なオフィス需要が供給を上回り、東京都心部Aクラスビルの空室率は低下を続けている。旺盛なオフィス需要を支えている要因として、人手不足が深刻化するなか、優秀な人材を確保することを目的とした、(1)オフィス環境の改善に対する意識の高まりと、(2)ワークプレイスの多様化を挙げられることができる。

(1)オフィス環境の改善に対する意識の高まり
2018年の有効求人倍率は1.61と、1973年以来の高水準となり、労働市場は逼迫した状況が続いている。このような状況下で優秀な人材を確保すべく、企業のオフィス選定基準は、コスト削減から快適なオフィス環境の構築に力点がシフトしている。

森ビル「2018年 東京23区オフィスニーズに関する調査」(以下、「オフィスニーズ調査」)によれば、「オフィス環境づくりにおける課題」について、前回調査(2015年調査)から「効率的なレイアウトによるコストダウン」との回答が大幅で減少した一方、「社内コミュケーション強化」や「社員への健康配慮」との回答が増加した(図表6)。従業員の働きやすい環境を整備する目的で、リフレッシュルームなどの共用部や打ち合わせスペースが充実したオフィスへの移転を考える企業も増えている。
図表-6 オフィス環境づくりにおいての課題
また、従業者の通勤利便性や、企業ステイタスの向上を意図し、好立地のオフィスビルに移転する企業も増えている。オフィスニーズ調査では「新規賃借する理由」として、「立地のよいビルに移りたい」との回答は2年連続で増加し、「業容・人員拡大」に次いで2番目に多い回答となった(図表7)。一方、「賃料や価格の安いビルに移りたい」との回答は減少傾向にある。「新規賃借する場合に妥当だと考える月額賃料」に関しても、3.0万円以上と回答した企業は増加しており、2018年調査では約2割を占めた(図表8)。

オフィス環境の改善や、従業員の通勤利便性の向上などが実現できるなら、一定程度の賃料負担を許容する企業が増えている模様であり、築古の中小ビルから好立地で築浅の高機能ビルへの移転ニーズが強い状況にある。
図表-7  新規賃借する理由
図表-8 新規賃借する場合に妥当だと考える月額賃料(1坪当たり、共益費含む)
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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

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【東京都心部Aクラスビルのオフィス市況見通し(2019年)】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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