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医薬品の値段(薬価)は、どのように決められているの?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
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新薬が想定以上に売れたり、用法や用量に変更があったりした場合には、薬価の引き下げが行われることがあります。
(1) 市場拡大再算定
薬価の見直しは、薬価改定で行われることが原則です。しかし、販売後に、新薬が想定以上に売れると、特別に薬価の引下げが行われることがあります。これは、「市場拡大再算定」と呼ばれます12。想定以上に売上げが出た医薬品について、単価を引き下げても新薬メーカーの収益確保は可能と見られます。このことを踏まえて、医薬品費の引下げのために薬価を調整する目的でこの再算定が行われています。しかし、新薬メーカーの側は、売上げが増えると、薬価の切り下げにつながるため、イノベーションを阻害し、新薬開発の意欲が削がれるとして反対してきました。
12 類似薬効比較方式で薬価が算定された新薬は、年商150億円超かつ実際の売上高が想定の2倍以上となった場合に、最大で15%薬価が引き下げとなります。原価計算方式で薬価が算定された新薬は、年商150億円超かつ実際の売上高が想定の2倍以上 又は 年商100億円超かつ実際の売上高が想定の10倍以上となった場合に、最大25%薬価が引き下げとなります。
近年、一部の抗がん剤などで、服薬効果の高い、高額な医薬品が販売されました。医薬品の適用対象となるがんの病態の範囲が拡大され、対象の患者が増加したことにより、これらの医薬品の費用が医療費全体を押し上げて、医療財政を圧迫するとの懸念が生じてきました。
そこで、2016年に、「特例拡大再算定」と呼ばれる市場拡大再算定の巨額販売版13が導入されました。2017年2月には、この特例拡大再算定によって、緊急的に、抗がん剤のオプジーボ(小野薬品工業社)に限って薬価を半額に引き下げる対応がとられました。
13 年商1000億円超1500億円以下かつ実際の売上高が想定の1.5倍以上の場合は最大25%、年商1500億円超かつ実際の売上高が想定の1.3倍以上の場合は最大50%、薬価が引き下げとなります。
厚生労働大臣の承認を受けて、主たる効能または効果に関する用法と用量に変更がなされた医薬品は、薬価が再算定されます。2018年の薬価改定で、効能変更等に伴って用法と用量に大幅な変更がなされた医薬品については、市場規模が100 億円を超え、かつ、変更前に比べて10 倍以上となった場合に、薬価が再算定されることとなりました。オプジーボには、この再算定が適用されて、薬価がさらに引き下げられています14。
今後、年4回の見直し時期が設けられ、再算定の対応がとられることとなっています。
14 2018年度に、用法用量変化再算定と費用対効果の価格調整により、薬価はさらに23.8% ほど引き下げられています。
日本では、特許期間切れとなった医薬品(長期収載品15)が、ジェネリック医薬品ほど価格が下がらないまま使用され続けることが、医療費削減が進まない要因の1つとされてきました。
そこで、ジェネリック医薬品が発売されて5年経過した薬価改定以降で、特例引き下げが行われています。引き下げ幅は、ジェネリック医薬品への置き換えの進み具合に応じて、定められています。2018年の薬価改定では、置き換え率が40%未満の長期収載品は、改定後の薬価から2%を差し引くことなどとされています16。
また、ジェネリック医薬品が発売されて10年が経過した薬価改定以降は、長期収載品の薬価をジェネリック医薬品の薬価を基準に段階的に引き下げることとされています。
15 薬価基準に長期間収載されている品目であるため、このように呼ばれています。
16 置き換え率が40%以上60%未満の場合は1.75%、60%以上80%未満の場合は1.5%が差し引かれます。
医薬品について、費用対効果を分析して、その結果に基づいて薬価の改定を行う仕組みが検討されてきました。2018年の薬価改定では、革新性が高く市場規模の大きい7つの医薬品17について、費用対効果の評価結果に基づく価格調整が試行的に導入されています。
費用対効果の価格調整の大まかな考え方を、簡単に紹介します。
分析対象の新薬が、既存薬に比べて、どれだけ効果があり、どれだけ費用がかかるかを評価します。効果は、完全な健康状態に換算した場合の寿命(QALY (Quality-Adjusted Life Year, 質調整生存年))の伸びとします。一方、費用は、この価格調整を行う前の薬価をもとに計算する生涯公的医療費推計の増加分とします。
そして、費用を効果で割り算したものを、増分費用効果比(ICER (Incremental Cost-Effectiveness Ratio))と呼びます。ICERが高いほど、同じ効果を得るのに費用が多くかかることになります。
試行的に導入された価格調整では、ICERが500万円以下の場合、薬価の引き下げは行いません。500万円超1,000万円以下の場合、ICERが高いほど薬価の引き下げが大きくなります。ICERが1,000万円を超える場合、薬価のうち、価格調整対象部分の90%が引き下げとなります。
今後、将来の本格実施に向けた検討を進め、2018年度中に結論を得ることとされています18。
薬価については、今後も制度見直しに関する議論が続いていくものとみられます。引き続き、その動向に注目していく必要があると考えられます。
17 具体的には、C型慢性肝炎治療薬のソバルディ(ギリアド社)、ハーボニー(同)、ヴィキラックス(アッヴィ社)、ダクルインザ(ブリストル・マイヤーズ社)、スンベプラ(同)、抗がん剤のオプジーボ(小野薬品工業社)、カドサイラ(中外製薬社)です。なお、これとは別に6つの医療機器も費用対効果の試行的実施の対象とされています。
18 費用対効果評価の結果は、価格調整に用いることとし、保険償還の可否の判断には用いないこととされています。
(2018年04月06日「基礎研レター」)

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
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