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- EU離脱協議本格化へ-広がり始めた英国経済への影響
2017年08月28日
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イングランド銀行にもあらゆる事態を想定した対応が求められる
世界金融危機後、中央銀行のイングランド銀行(BOE)の権限は強化されており、様々な手段を通じて経済と金融システムの安定維持を試みている。
金融政策面では、経済にEU離脱の影響が確認できるようになり、離脱協議の着地点の不透明感が増しているものの、利上げバイアスを継続している。すでに国民投票後の16年8月に決めた追加緩和策のうち、国債購入は17年2月、社債購入は5月以降、新たな買入れは停止して残高を維持する段階に入っている。4年物資金調達スキーム(TFS)も18年2月に期限を迎える。
7月のCPIは前年同月比2.6%と離脱ショックによるポンド安の影響でインフレ目標を超えており、BOEは、この先も利上げがなければ目標の達成が困難と見ている。BOEは、3カ月に1度、「インフレ報告」として、金融政策委員会(MPC)の政策判断の叩き台となる実質GDP、CPIなどの見通しを公表する。メイン・シナリオの予測は、予測時点の「先物市場が織り込んでいる政策金利」を前提とする。8月の報告の場合、現在の0.25%から18年0.5%、19年0.7%と、ごく緩やかな利上げを前提にCPIは3年後も2%の目標を超える状態が続くと予測した(図表6)。
金融政策面では、経済にEU離脱の影響が確認できるようになり、離脱協議の着地点の不透明感が増しているものの、利上げバイアスを継続している。すでに国民投票後の16年8月に決めた追加緩和策のうち、国債購入は17年2月、社債購入は5月以降、新たな買入れは停止して残高を維持する段階に入っている。4年物資金調達スキーム(TFS)も18年2月に期限を迎える。
7月のCPIは前年同月比2.6%と離脱ショックによるポンド安の影響でインフレ目標を超えており、BOEは、この先も利上げがなければ目標の達成が困難と見ている。BOEは、3カ月に1度、「インフレ報告」として、金融政策委員会(MPC)の政策判断の叩き台となる実質GDP、CPIなどの見通しを公表する。メイン・シナリオの予測は、予測時点の「先物市場が織り込んでいる政策金利」を前提とする。8月の報告の場合、現在の0.25%から18年0.5%、19年0.7%と、ごく緩やかな利上げを前提にCPIは3年後も2%の目標を超える状態が続くと予測した(図表6)。
BOE内に設置され、マクロ・プルーデンス監督を担う金融安定政策委員会(FPC)は、景気悪化時への備えとして、6月21日の会合で、カウンターシクリカル資本バッファー(CCyB)の引き上げを決めた。現在のゼロから0.5%に引き上げ、11月の次回会合まで見通しに大きな変化がない場合には、さらに1.0%まで引き上げる。
BOEの子会社で、ミクロ・プルーデンスを担う健全性機構(PRA)は、協定なしの離脱のような最悪のシナリオでも金融サービスの継続性や金融システムの安定が損なわれないよう、金融機関にコンティンジェンシー・プラン(緊急時対応計画)の準備を促す。4月7日付の長官名による銀行、保険会社、投資会社などの経営者宛のレターで、7月14日までに計画を提出するよう求めた。PRA長官は、8月2日に議会下院の財政委員会議長からの質問に書面で回答し、期限までに401の金融機関から計画が提出され、現在、個別の金融機関の計画の精査や準備状況の点検と計画が広範な金融システムの安定を損なうリスクの点検作業を行なっていることを明らかにしている。
8月のMPCでは、こうしたマクロとミクロ両面のプルーデンス政策の動きも踏まえて、政策金利については据え置き票6対25bpの利上げ票2で据え置きを決めた上で、声明文に「景気が8月報告通りに推移する場合には、市場が織り込んでいる以上の引き締めが必要になる」可能性を明記、利上げバイアスを維持した。同時に、利上げのペースは緩やかで、限定的な幅となることでMPCは全員一致していることと、新たな情報を精査し続け、経済見通しの変化に対応する用意がある方針も示した。
離脱協議を巡る不透明感が一段と増す中、在英金融機関、企業ばかりでなく、金融政策と金融システムの安定の両面で責任を負うBOEにも、あらゆる事態を想定した対応が求められている。
BOEの子会社で、ミクロ・プルーデンスを担う健全性機構(PRA)は、協定なしの離脱のような最悪のシナリオでも金融サービスの継続性や金融システムの安定が損なわれないよう、金融機関にコンティンジェンシー・プラン(緊急時対応計画)の準備を促す。4月7日付の長官名による銀行、保険会社、投資会社などの経営者宛のレターで、7月14日までに計画を提出するよう求めた。PRA長官は、8月2日に議会下院の財政委員会議長からの質問に書面で回答し、期限までに401の金融機関から計画が提出され、現在、個別の金融機関の計画の精査や準備状況の点検と計画が広範な金融システムの安定を損なうリスクの点検作業を行なっていることを明らかにしている。
8月のMPCでは、こうしたマクロとミクロ両面のプルーデンス政策の動きも踏まえて、政策金利については据え置き票6対25bpの利上げ票2で据え置きを決めた上で、声明文に「景気が8月報告通りに推移する場合には、市場が織り込んでいる以上の引き締めが必要になる」可能性を明記、利上げバイアスを維持した。同時に、利上げのペースは緩やかで、限定的な幅となることでMPCは全員一致していることと、新たな情報を精査し続け、経済見通しの変化に対応する用意がある方針も示した。
離脱協議を巡る不透明感が一段と増す中、在英金融機関、企業ばかりでなく、金融政策と金融システムの安定の両面で責任を負うBOEにも、あらゆる事態を想定した対応が求められている。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2017年08月28日「Weekly エコノミスト・レター」)
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経歴
- ・ 1987年 日本興業銀行入行
・ 2001年 ニッセイ基礎研究所入社
・ 2023年7月から現職
・ 2015~2024年度 早稲田大学商学学術院非常勤講師
・ 2017年度~ 日本EU学会理事
・ 2017~2024年度 日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
・ 2020~2022年度 日本国際フォーラム「米中覇権競争とインド太平洋地経学」、
「欧州政策パネル」メンバー
・ 2022~2024年度 Discuss Japan編集委員
・ 2022年5月~ ジェトロ情報媒体に対する外部評価委員会委員
・ 2023年11月~ 経済産業省 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 委員
・ 2024年10月~ 雑誌『外交』編集委員
・ 2025年5月~ 経団連総合政策研究所特任研究主幹
伊藤 さゆりのレポート
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