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不安定な働き方、クラウドワーカーが急増-ワーキングプアの拡大を防ぐ対策を
基礎研REPORT(冊子版)9月号
生活研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中
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こうした働き方や働く人の名称は統一されておらず、クラウドソーシング、シェアリングエコノミー、ヒューマンクラウド、デジタルワーク、ギグ・エコノミー、フリーランスなどの言葉が混在して使用されている。
一般的な労使関係の場合、決まった労働時間に働き、その対価で賃金や有給休暇、そして公的社会保険制度や法定外福利厚生制度が提供される。しかしながら、仕事の継続性がなく、定期的に仕事をする義務がないクラウドワーカーには既存の労働者に提供される上記のような保障が提供されず、収入などが安定していないケースが多い。ある意味では不安定労働だとも言える。
海外におけるクラウドワーカーの現状
アメリカの非営利組織であるフリーランサーズ・ユニオンとクラウドソーシングサービスを運営しているアップワーク社による調査「Freelancing in America: 2016」によると、2016年時点のアメリカのフリーランス人口は5500万人にのぼる。働く人の35%がフリーランスで、2014年の調査と比べて200万人も増加した。また、調査では2020年には働く人の約50%がフリーランスとして働くと予想している。フリーランスと言えば、戦場カメラマンのような仕事を思い出す方が多いかも知れないが、近年は仕事の種類がブロガー、デザイナー、YouTuber、ITエンジニアなど、より多様な分野まで広がっている。また、最近のフリーランスは過去とは異なり、その多くがインターネット上のプラットフォームを通じて仕事を探している。つまり、フリーランスの増加はクラウドワーカーの増加にも繋がっていると言えるだろう。
さらに、クラウドワーカーの場合、業務にかかわる費用をすべて自費で負担しなければならず、手取りの所得水準はさらに低くなる可能性が高い。
日本におけるクラウドワーカーの現状
まず、ランサーズ株式会社の「フリーランス実態調査2017年版」によると日本におけるフリーランスの数は2017年現在1122万人で労働力人口の17%を占めていた。これは1年前の調査に比べて5%も増加した数値である。
フリーランスの働き方は、常時雇用がベースだが副業でフリーランスの仕事をこなす「①副業系すきまワーカー」、雇用形態に関係なく、複数の企業の仕事をこなす「②複業系パラレルワーカー」、特定の勤務先はないが、独立したプロフェショナルである「③自由業系フリーワーカー」、個人事業主または法人経営者で経営しているオーナーである「④自営業系独立オーナー」という4つのタイプに区分される。この中から副業系すきまワーカーは458万人で2016年の416万人と比べて32万人も増加しており、その増加が目立っている。政府は働き方改革の一環として正社員の副業や兼業を後押しする方針を打ち出し、年度内を目標に企業が就業規則を定める際に参考に使用できる厚生労働省の「モデル就業規則」の副業・兼業禁止規定をなくし「原則禁止」から「原則容認」に転換する方針を決めており、今後、副業系すきまワーカーはさらに増加すると予想されている。
2017年時点のフリーランスの平均年収は、収入が最も多い「自営業系独立オーナー」でさえ350万円で、雇用者の平均給与420万円(国税庁「平成27年分民間給与実態統計調査結果」)を下回っているなど、フリーランスの多くが収入が安定していない状態で労働市場に参加している[図表2]。
今後の課題や対応
クラウドワーカーの類型は多様であり、その範囲も膨大であるので、高度な仕事を求める専門的な業務が存在する一方、お使いのような単純な業務も存在する。クラウドワーカーという働き方で労働市場に参加している大多数の人は経済的に劣悪な立場におかれているのが現状である。現在、アメリカやヨーロッパではクラウドワーカーの社会的・経済的地位に関する議論が活発に行われるなど、クラウドワーカーの処遇水準を改善させるための動きが少しずつ広がっている。
日本では今後同一労働同一賃金が推進されることにより非正規労働者の処遇水準は今より改善されることが予想されるものの、増加するクラウドワーカーに対する対策はまだ行われていない。労働基準法などが適用されず法的に保護されない彼らをこのまま放置しておくと、新しいワーキングプアが生まれ、貧困や格差がより拡大する恐れがある。これを防ぐためにはまず、クラウドワーカーの実態を正確に把握する必要があり、それは政府の主導で行われるのが望ましい。また、非正規労働者のみならずクラウドワーカーの処遇水準の改善のための対策も同時に講じるべきである。現在、実施している家内労働者などに対する特例を拡大・適用することも一つの対案になるだろう。今後日本の政策立案者や研究者がアメリカやヨーロッパなどの事例を参考に、クラウドワーカーに対する対策により早く取り組むことを望みたい。
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(2017年09月07日「基礎研REPORT(冊子版)」)
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