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- 米国経済の見通し-経済への影響が大きいトランプ政権の経済政策は依然として視界不良
2017年03月09日
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(政府支出、財政収支)トランプ政権と議会共和党の政策協調は不透明
17年9月末までが会計年度となる17年度予算は、歳出法案の審議が滞っており、4月28日を期限とする暫定予算で凌ぐ状況となっている。既に、議会の焦点は10月から始まる18年度予算に移っており、17年度は暫定予算からの大幅な予算の組み替えはない見込みである。
一方、17年1月に議会予算局(CBO)は、現行の予算関連法に基づく(ベースライン)今後10年間の財政収支見通しを発表した。それによると、17年度の財政赤字は▲5,590億ドル(GDP比▲2.9%)と、16年度の▲5,870億ドル(同▲3.2%)から小幅縮小したようだ(図表14)。
長期見通しについては、財政赤字が18年度に縮小した後、10年後の27年度には1兆4,080億ドル(GDP比▲5.0%)まで拡大することを示した。これは、主に歳出が増加することによるもので、国防費を含む裁量的経費はGDP比で16年度の6.4%から27年度の5.3%に低下を見込む一方、社会保障費を含む義務的経費が13.2%から15.4%に増加するほか、利払い費も1.3%から2.7%に増加すると試算している。トランプ政権はオバマケアの代替案への変更や、大幅な税制改革などを目指しており、オバマ前政権からの大幅な財政政策の転換が見込まれている。このため、今後の財政収支は、CBO試算から大きく変動する見込みだ。
17年9月末までが会計年度となる17年度予算は、歳出法案の審議が滞っており、4月28日を期限とする暫定予算で凌ぐ状況となっている。既に、議会の焦点は10月から始まる18年度予算に移っており、17年度は暫定予算からの大幅な予算の組み替えはない見込みである。
一方、17年1月に議会予算局(CBO)は、現行の予算関連法に基づく(ベースライン)今後10年間の財政収支見通しを発表した。それによると、17年度の財政赤字は▲5,590億ドル(GDP比▲2.9%)と、16年度の▲5,870億ドル(同▲3.2%)から小幅縮小したようだ(図表14)。
長期見通しについては、財政赤字が18年度に縮小した後、10年後の27年度には1兆4,080億ドル(GDP比▲5.0%)まで拡大することを示した。これは、主に歳出が増加することによるもので、国防費を含む裁量的経費はGDP比で16年度の6.4%から27年度の5.3%に低下を見込む一方、社会保障費を含む義務的経費が13.2%から15.4%に増加するほか、利払い費も1.3%から2.7%に増加すると試算している。トランプ政権はオバマケアの代替案への変更や、大幅な税制改革などを目指しており、オバマ前政権からの大幅な財政政策の転換が見込まれている。このため、今後の財政収支は、CBO試算から大きく変動する見込みだ。
そこで注目される18年度予算だが、3月15日にトランプ大統領が議会に提出する予定の予算教書によって予算編成作業が本格化する。米国の予算編成は議会主導で行われるため、トランプ政権の政策公約実現のためには、議会共和党と政策協調が不可欠だ。しかしながら、現状では法人税制改革やインフラ投資でトランプ大統領と議会共和党が目指す政策の隔たりは大きい。議会共和党は、法人所得税について現在の仕組みを抜本的に変更し、消費地で課税される仕向地主義のキャッシュフロー課税を導入したい一方、トランプ氏は税率の引き下げでは合意しているものの、そこまで突っ込んだ改革を目指していないようだ。さらに、議会共和党案に含まれる国境調整の仕組みとしての国境調整税3について、は様々な物議を醸していることもあり、トランプ氏は今回の導入を見送るようだ。
一方、財源議論も予断を許さない。トランプ大統領の減税政策を実現すると債務残高(GDP比)は、16年度の77%から10年後に100%を超えるとみられる一方、ライアン下院議長を中心とする下院共和党がオバマ政権下で目指していたのは、主に歳出削減を行うことで10年後の債務残高を57%に低下させる案だ(図表15)。また、ライアン議長は減税を実施する場合には、そのための財源を確保し歳入中立で行うとの考え方を変えていないため、トランプ大統領が減税のための財源を提示できなければ、減税政策の公約実現は困難だろう。このようにみてくると、減税規模の縮小は不可避だろう。
さらに、6日発表された議会共和党によるオバマケアの代替案に対して、民主党議員が全員反対しているほか、一部共和党議員も反対の意向を示しており、代替案を成立されるためには内容の修正が不可避な情勢だ。オバマケアの見直しは財政収支にも影響するため、トランプ大統領はオバマケアの見直しで道筋がついてから税制改革を議論するとの意向も示している。このため、オバマケアの見直し議論が長期化すれば税制改革をはじめ、トランプ政権の経済政策実現の時期が後ずれする可能性もある。
3 国境調整税について詳しくは、Weeklyエコノミストレター(2017年2月20日)「法人税制議論が本格化―注目される国境調整税(BAT)の行方」http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=55098?site=nliを参照下さい。
一方、財源議論も予断を許さない。トランプ大統領の減税政策を実現すると債務残高(GDP比)は、16年度の77%から10年後に100%を超えるとみられる一方、ライアン下院議長を中心とする下院共和党がオバマ政権下で目指していたのは、主に歳出削減を行うことで10年後の債務残高を57%に低下させる案だ(図表15)。また、ライアン議長は減税を実施する場合には、そのための財源を確保し歳入中立で行うとの考え方を変えていないため、トランプ大統領が減税のための財源を提示できなければ、減税政策の公約実現は困難だろう。このようにみてくると、減税規模の縮小は不可避だろう。
さらに、6日発表された議会共和党によるオバマケアの代替案に対して、民主党議員が全員反対しているほか、一部共和党議員も反対の意向を示しており、代替案を成立されるためには内容の修正が不可避な情勢だ。オバマケアの見直しは財政収支にも影響するため、トランプ大統領はオバマケアの見直しで道筋がついてから税制改革を議論するとの意向も示している。このため、オバマケアの見直し議論が長期化すれば税制改革をはじめ、トランプ政権の経済政策実現の時期が後ずれする可能性もある。
3 国境調整税について詳しくは、Weeklyエコノミストレター(2017年2月20日)「法人税制議論が本格化―注目される国境調整税(BAT)の行方」http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=55098?site=nliを参照下さい。
(貿易)当面マイナス寄与が持続。今後の焦点は通商政策の行方
10-12月期の純輸出は、大幅な成長押下げとなったが輸出入を仔細にみると、輸入が前期比年率+8.5%(前期:+2.2%)と伸びが加速したことに加え、輸出が▲4.0%(前期:+10.0%)と減少しており、輸出入ともに赤字拡大の要因となったことが分かる。
輸入は、サービスが▲0.4%(前期:+9.8%)と減少したものの、財が+10.6%(前期:+0.5%)と前期から大幅に伸びが加速した。財輸入は広範な品目で増加しており、国内消費の強さを反映した結果とみられる。一方、輸出の減少は12月の当レポート4でも指摘した通り、7-9月期に米国産大豆の輸出が異常な伸びを示した後の反動減の影響だ。
10-12月期の純輸出は、大幅な成長押下げとなったが輸出入を仔細にみると、輸入が前期比年率+8.5%(前期:+2.2%)と伸びが加速したことに加え、輸出が▲4.0%(前期:+10.0%)と減少しており、輸出入ともに赤字拡大の要因となったことが分かる。
輸入は、サービスが▲0.4%(前期:+9.8%)と減少したものの、財が+10.6%(前期:+0.5%)と前期から大幅に伸びが加速した。財輸入は広範な品目で増加しており、国内消費の強さを反映した結果とみられる。一方、輸出の減少は12月の当レポート4でも指摘した通り、7-9月期に米国産大豆の輸出が異常な伸びを示した後の反動減の影響だ。

一方、先日発表された米通商代表部の年次報告書は、中国が00年にWTOに加盟した後でどの程度米国の雇用が喪失したか具体的に記述されるなど、中国に対する貿易戦争も辞さないような保護主義的なトーンが強い内容であった。施政方針演説では、中国を名指しで非難することを避けており、通商政策がモデレイトな印象を受けたが、年次報告書の内容を踏まえると、中国をはじめ貿易相手国に対して保護主義的な色彩の強い通商政策を打ち出してくる可能性は否定できない。今後の通商政策の動向次第では、貿易収支に大きな影響がでることから政策動向が注目される。
4 Weeklyエコノミストレター(2016年12月9日)「米国経済の見通し―来年度以降は、米国内政治動向が鍵。トランプ氏の政策公約が全て実現する可能性は低い。」http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=54523?site=nli
(2017年03月09日「Weekly エコノミスト・レター」)
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03-3512-1824
経歴
- 【職歴】
1991年 日本生命保険相互会社入社
1999年 NLI International Inc.(米国)
2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
2014年10月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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