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コラム
2017年02月16日

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1月20日のトランプ新大統領就任からもうすぐ1カ月。同氏の政策は、大規模な減税やインフラ投資、規制緩和による景気の押し上げ効果が見込まれる一方、過度な保護主義的な姿勢や排他的な移民政策は、マーケットやグローバル企業にとっては悩みの種だ。期待と不安が混在しているが、どちらも自国の利益を最優先とする米国第一主義(America First)に通じると本人は考えている。特に、保護主義的な対応をする背景には、貿易をゼロサムゲームと捉え、対米貿易黒字国に輸入品を買わされ、現地の雇用が奪われて負けているという意識がある。
そもそも、何のために国同士で貿易をするのだろうか。一番分かりやすいのは、自国にないモノ、作ることができないモノを交換するためである。例えば、天然資源に恵まれない日本は、資源国からエネルギーを輸入しないと経済が成り立たない。そして、輸入する資金を調達するために、得意なモノ(自動車やその部品)を輸出している。個人で考えてみても、分業化が進んだ現代で自給自足の生活は不可能だ。筆者も特定の分野に特化して社会に貢献(?)し、その対価で得た報酬で衣食住を賄っている。
英の経済学者であるデヴィッド・リカードは19世紀、お互いの国で作れるモノであっても、貿易することで双方に利益があることを比較優位という考え方を用いて説いた。
そもそも、何のために国同士で貿易をするのだろうか。一番分かりやすいのは、自国にないモノ、作ることができないモノを交換するためである。例えば、天然資源に恵まれない日本は、資源国からエネルギーを輸入しないと経済が成り立たない。そして、輸入する資金を調達するために、得意なモノ(自動車やその部品)を輸出している。個人で考えてみても、分業化が進んだ現代で自給自足の生活は不可能だ。筆者も特定の分野に特化して社会に貢献(?)し、その対価で得た報酬で衣食住を賄っている。
英の経済学者であるデヴィッド・リカードは19世紀、お互いの国で作れるモノであっても、貿易することで双方に利益があることを比較優位という考え方を用いて説いた。

各国が比較優位を持つモノに特化すると、中国は衣料を12着生産でき、米国は自動車を12台生産できる(図表3)。仮に、中国の衣料4着と米国の自動車4台を貿易することで、自給自足するよりも、中国は衣料を2着多く生産、消費することができ、米国も自動車を2台多く生産、消費することができる。
このように、全ての国が比較優位を持つモノが存在し、貿易による利益を享受できる。決して富を奪い合うゼロサムゲームではない。
リカード・モデルは生産要素が労働だけで、2カ国、2財しか存在しない単純なモデルである。また現実的には、中国で自動車を生産していた労働者が衣料の生産に従事できるとは限らない。ただ、このモデルが誕生して200年が経ち、その間、貿易理論は国単位から産業単位、企業単位へと現実に即したモデルに発展している。生産性の低い企業は淘汰されるが、それを上回る経済的利益が生じることが指摘されている。
トランプ大統領は雇用が奪われたと主張するが、比較劣位の産業から比較優位の産業へと労働者が移っていないともいえる。また、貿易より技術革新が雇用に与える影響が大きいとの指摘もある4。雇用が奪われた原因を外に求めるのではなく、それこそ内に求めれば、必要な政策も見えてくるのではないだろうか。
1 米国は衣料・自動車の生産に対して絶対優位を持つという。
2 ある行動を選択したことで失わなければならないもの。
3 中国は衣料1着作るために、4の労働量を必要とする。この労働量を自動車生産に投入すれば、自動車を4÷6台作ることができた。
4 アメリカでは、2000年から2010年の間に、製造業の失業者が564万人発生。その原因の87%が生産性向上によるもので、貿易は13%に過ぎない(Ball State University ,“The Myth and the Reality of Manufacturing in America” 2015/6)。
(2017年02月16日「研究員の眼」)
白波瀨 康雄
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