- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 経済 >
- 米国経済 >
- トランプ政権が舵を取る米国経済-議会との協調体制が、成功のカギか
2017年02月08日
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
1――足元の米国経済
(大統領・議会選挙の評価)
16年11月の大統領・議会選挙では、事前予想に反しトランプ氏が大統領選を制した。また、議会選挙も上下両院で共和党が過半数を維持し、オバマ大統領が誕生した09年以来となる安定政権となることが決まった。
大統領が法案提出権を持たない米国では、政策実現のために大統領と議会の協調が必要である。今回、安定政権となることで、トランプ氏が掲げる政策の実現可能性は高まったと言える。
(選挙後の経済状況)株式市場は好感、個人・企業のセンチメントも改善
トランプ氏の当選を受けた株式市場は、事前の予想に反して上昇した[図表2]。トランプ氏はオバマ政権からの大幅な政策転換を掲げていたため、政策の予見可能性低下がリスク回避的な投資行動に繋がるとみられていた。
しかしながら、市場はトランプ氏が掲げる個人や法人に対する減税などの経済政策への期待感が先行して上昇する結果となった。前記のように安定政権となったことも好感された要因だ。
この結果、消費者マインドは選挙後に顕著な回復がみられており、ミシガン大学の消費者センチメントは04年以来の水準に改善した。
また、企業センチメントも改善している。大企業の景況感を示すISM景況感指数は、製造業、非製造業ともに選挙後に景況感が回復していることを示している[図表3]。さらに中小企業の景況感指数も、12月の改善幅が80年以来の水準となるなど、トランプ氏の経済政策に対する期待は大きい。
もっとも、選挙後にドル高が進んでいるため、今後トランプ氏の経済政策に対する期待が剥落する局面では、製造業を中心に企業景況感に悪影響が出る可能性がある。さらに、長期金利が上昇していることも、民間設備投資や住宅市場に影響する可能性があり、今後の動向が注目される。
16年11月の大統領・議会選挙では、事前予想に反しトランプ氏が大統領選を制した。また、議会選挙も上下両院で共和党が過半数を維持し、オバマ大統領が誕生した09年以来となる安定政権となることが決まった。
大統領が法案提出権を持たない米国では、政策実現のために大統領と議会の協調が必要である。今回、安定政権となることで、トランプ氏が掲げる政策の実現可能性は高まったと言える。
(選挙後の経済状況)株式市場は好感、個人・企業のセンチメントも改善
トランプ氏の当選を受けた株式市場は、事前の予想に反して上昇した[図表2]。トランプ氏はオバマ政権からの大幅な政策転換を掲げていたため、政策の予見可能性低下がリスク回避的な投資行動に繋がるとみられていた。
しかしながら、市場はトランプ氏が掲げる個人や法人に対する減税などの経済政策への期待感が先行して上昇する結果となった。前記のように安定政権となったことも好感された要因だ。
この結果、消費者マインドは選挙後に顕著な回復がみられており、ミシガン大学の消費者センチメントは04年以来の水準に改善した。
また、企業センチメントも改善している。大企業の景況感を示すISM景況感指数は、製造業、非製造業ともに選挙後に景況感が回復していることを示している[図表3]。さらに中小企業の景況感指数も、12月の改善幅が80年以来の水準となるなど、トランプ氏の経済政策に対する期待は大きい。
もっとも、選挙後にドル高が進んでいるため、今後トランプ氏の経済政策に対する期待が剥落する局面では、製造業を中心に企業景況感に悪影響が出る可能性がある。さらに、長期金利が上昇していることも、民間設備投資や住宅市場に影響する可能性があり、今後の動向が注目される。
2――経済・金利見通し
(経済政策)玉石混交の経済政策
今後の米国経済は、トランプ政権の経済政策運営によって大きく左右される。トランプ氏が掲げる経済政策は大きくは、個人・法人に対する減税などの税制改革、インフラ投資拡大などの財政政策、金融、エネルギー関連の規制緩和策、中国、メキシコからの輸入品に高関税をかけるなどの保護主義的な通商政策、不法移民の強制退去や国境の壁建設といった移民政策などが挙げられる。
これらの経済政策のうち、税制改革、財政政策、規制緩和策などでは景気にプラスの効果が期待される一方、保護主義的な通商政策や不法移民政策は景気にマイナスとなることが見込まれる[図表4]。このため、米国経済への影響をみる上でトランプ氏の経済政策の見極めが非常に重要である。
しかしながら、トランプ氏の経済政策に関する発言は未だに二転三転しているほか、期待された減税やインフラ投資に関する具体的な政策は示されていないなど、経済政策運営の見通しは非常に不透明である。
現段階で経済関係の重要閣僚である大統領経済諮問委員会(CEA)の委員長が指名されていないことも気がかりだ。CEAは、大統領に経済関連のアドバイスをするエコノミスト集団であり、当代一流のエコノミストで構成される組織である。実際、歴代の委員長をみると、グリーンスパン氏、バーナンキ氏、イエレン氏などの連銀総裁や、マンキュー氏、ステイグリッツ氏などの著名なエコノミストが就いており、その重要性がうかがえる。
このようにみると、トランプ氏の経済政策について、経済学的な見地からしっかりした政策立案が行われているか、懐疑的に見ざるを得ない。
今後の米国経済は、トランプ政権の経済政策運営によって大きく左右される。トランプ氏が掲げる経済政策は大きくは、個人・法人に対する減税などの税制改革、インフラ投資拡大などの財政政策、金融、エネルギー関連の規制緩和策、中国、メキシコからの輸入品に高関税をかけるなどの保護主義的な通商政策、不法移民の強制退去や国境の壁建設といった移民政策などが挙げられる。
これらの経済政策のうち、税制改革、財政政策、規制緩和策などでは景気にプラスの効果が期待される一方、保護主義的な通商政策や不法移民政策は景気にマイナスとなることが見込まれる[図表4]。このため、米国経済への影響をみる上でトランプ氏の経済政策の見極めが非常に重要である。
しかしながら、トランプ氏の経済政策に関する発言は未だに二転三転しているほか、期待された減税やインフラ投資に関する具体的な政策は示されていないなど、経済政策運営の見通しは非常に不透明である。
現段階で経済関係の重要閣僚である大統領経済諮問委員会(CEA)の委員長が指名されていないことも気がかりだ。CEAは、大統領に経済関連のアドバイスをするエコノミスト集団であり、当代一流のエコノミストで構成される組織である。実際、歴代の委員長をみると、グリーンスパン氏、バーナンキ氏、イエレン氏などの連銀総裁や、マンキュー氏、ステイグリッツ氏などの著名なエコノミストが就いており、その重要性がうかがえる。
このようにみると、トランプ氏の経済政策について、経済学的な見地からしっかりした政策立案が行われているか、懐疑的に見ざるを得ない。
(成長率見通し)公約通りの政策実現は困難、景気浮揚効果は限定的
トランプ氏の大幅減税は、公約通りに実行されれば、81年に実施されたレーガン減税(GDP比1.4%)を大幅に上回るGDP比2%超の水準が見込まれている。さらに、インフラ投資も年間1,000億ドルと、足元の投資額の20%超の増額となることから、政策公約通りに実行されれば経済浮揚効果は大きい。OECDはこれらが公約通りに実現した場合の18年の成長率の押上げ効果を0.9%弱と試算している。
しかしながら、公約通りに経済政策が実現する可能性は低い。経済政策の実現には議会共和党と協調する必要があるが、議会とトランプ氏の政策には考え方に隔たりのあるものが少なくない。議会共和党は、減税ではトランプ氏と平仄があっているものの、歳出を大幅に削減することで均衡財政を目指している。
トランプ氏の大幅減税は今後10年間で財政赤字を5兆ドル以上増加させるとみられるほか、同氏が主張する大幅なインフラ投資の拡大をすれば、更に赤字が拡大することが見込まれ、均衡財政との整合性をとるのは難しい。このため、議会との関係でトランプ政権は、選挙公約から大幅に経済政策を見直さざるを得ないだろう。
実際、共和党の上院首脳は既にインフラ投資の拡大に消極的な発言を行っているほか、トランプ氏自身もインフラ投資の政策優先順位が高くないことを明言するなど、政策見直しの動きがみられている。
このため、当研究所では減税規模やインフラ投資額の縮小により、17年の景気浮揚効果はほとんどなく、18年でも0.3%ポイント程度の成長率押上げに留まると予想している。この結果、17年の成長率は前年比2.3%、18年は+2.4%に留まろう[図表5]。
トランプ氏の大幅減税は、公約通りに実行されれば、81年に実施されたレーガン減税(GDP比1.4%)を大幅に上回るGDP比2%超の水準が見込まれている。さらに、インフラ投資も年間1,000億ドルと、足元の投資額の20%超の増額となることから、政策公約通りに実行されれば経済浮揚効果は大きい。OECDはこれらが公約通りに実現した場合の18年の成長率の押上げ効果を0.9%弱と試算している。
しかしながら、公約通りに経済政策が実現する可能性は低い。経済政策の実現には議会共和党と協調する必要があるが、議会とトランプ氏の政策には考え方に隔たりのあるものが少なくない。議会共和党は、減税ではトランプ氏と平仄があっているものの、歳出を大幅に削減することで均衡財政を目指している。
トランプ氏の大幅減税は今後10年間で財政赤字を5兆ドル以上増加させるとみられるほか、同氏が主張する大幅なインフラ投資の拡大をすれば、更に赤字が拡大することが見込まれ、均衡財政との整合性をとるのは難しい。このため、議会との関係でトランプ政権は、選挙公約から大幅に経済政策を見直さざるを得ないだろう。
実際、共和党の上院首脳は既にインフラ投資の拡大に消極的な発言を行っているほか、トランプ氏自身もインフラ投資の政策優先順位が高くないことを明言するなど、政策見直しの動きがみられている。
このため、当研究所では減税規模やインフラ投資額の縮小により、17年の景気浮揚効果はほとんどなく、18年でも0.3%ポイント程度の成長率押上げに留まると予想している。この結果、17年の成長率は前年比2.3%、18年は+2.4%に留まろう[図表5]。
(2017年02月08日「基礎研マンスリー」)

03-3512-1824
経歴
- 【職歴】
1991年 日本生命保険相互会社入社
1999年 NLI International Inc.(米国)
2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
2014年10月より現職
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
窪谷 浩のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/03/21 | 米FOMC(25年3月)-市場予想通り、政策金利を2会合連続で据え置き。4月から量的引締めのペースを緩和 | 窪谷 浩 | 経済・金融フラッシュ |
2025/03/19 | 米住宅着工・許可件数(25年2月)-着工件数(前月比)は悪天候から回復し、前月から大幅増加、市場予想も上回る | 窪谷 浩 | 経済・金融フラッシュ |
2025/03/10 | 米国経済の見通し-25年初から関税政策をはじめ、経済政策は混沌の極み。景気後退回避を予想もリスクは上昇 | 窪谷 浩 | Weekly エコノミスト・レター |
2025/03/10 | 米雇用統計(25年2月)-非農業部門雇用者数が市場予想を下回ったほか、失業率は横這い予想に反して上昇 | 窪谷 浩 | 経済・金融フラッシュ |
新着記事
-
2025年03月25日
ますます拡大する日本の死亡保障不足-「2024(令和6)年度 生命保険に関する全国実態調査<速報版>」より- -
2025年03月25日
米国で広がる“出社義務化”の動きと日本企業の針路~人的資本経営の視点から~ -
2025年03月25日
産業クラスターを通じた脱炭素化-クラスターは温室効果ガス排出削減の潜在力を有している -
2025年03月25日
「大阪オフィス市場」の現況と見通し(2025年) -
2025年03月25日
ヘルスケアサービスのエビデンスに基づく「指針」公表
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
-
2024年04月02日
News Release
【トランプ政権が舵を取る米国経済-議会との協調体制が、成功のカギか】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
トランプ政権が舵を取る米国経済-議会との協調体制が、成功のカギかのレポート Topへ