2017年03月08日

トランプ政権が発足-選挙公約から政策の軌道修正は不可避

基礎研REPORT(冊子版) 2017年3月号

経済研究部 主任研究員   窪谷 浩

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1――トランプ大統領の選挙公約

(政策公約)玉石混交の経済政策
トランプ大統領が選挙期間中に掲げてきた経済政策は、大きくは個人・法人に対する減税などの税制改革、インフラ投資拡大などの財政政策、金融・エネルギー関連の規制緩和策、中国、メキシコからの輸入品に高関税をかけるなどの保護主義的な通商政策、不法移民の強制退去や国境の壁建設といった移民政策などが挙げられる。

これらの経済政策のうち、税制改革、財政政策、規制緩和策は景気にプラスの効果が期待される一方、通商政策や不法移民政策は景気にマイナスとなることが見込まれる[図表1]。

昨年11月の大統領選挙でトランプ氏が勝利すると、減税やインフラ投資、規制緩和などの経済政策に対する期待から、株式市場が大幅に上昇したほか、消費者センチメントも11月以降の回復が顕著となった[図表2]。

トランプ氏の政策公約は、景気に対してプラスとマイナスが混在しているが、選挙期間中に物議を醸した通商政策や不法移民政策については、議会共和党と政策協調する過程で軌道修正されるとの期待が強く、株価押上げの要因の一つであったとみられる。
トランプ政権の主要な経済政策、消費者センチメントおよび米株価指数

2――トランプ政権が始動

(政権運営)早くも政治手腕に疑問符
トランプ大統領は、選挙期間中から差別的な発言を行うなど、米国民の分断を煽ってきた。選挙終了後もこれらの分断は解消されておらず、政権発足時の支持率は過去の大統領に比べて低い水準からのスタートとなった[図表3]。

また、トランプ氏は、政治経験に乏しいものの、ビジネスマンとしての豊富な経験から、政治家としても十分なリーダーシップを発揮するとの期待があったが、政権発足以降の政権運営は順調とは言いがたい。

米国では政権交代に伴って局長以上の官僚が交代することから、政権スタッフ4,000名以上の人事異動が発生する。これらのうち、閣僚も含めて幹部級の550のポストは議会上院の承認を必要とする。非営利団体パートナーシップ・フォー・パブリックサービスによれば、2月19日時点で承認されたポストは僅か14に留まっており、20名の候補者が議会の承認待ちとなっている。さらに、未だ候補者の指名すらされていないポストが500以上あり、政権発足からおよそ1ヵ月が経過しても政権が実質機能していない異常事態となっている。
政権発足時の大統領支持率
(大統領令)不用意な発令が目立つ
トランプ大統領は、就任初日に医療保険制度改革法、所謂オバマケアを見直すための大統領命令に署名したほか、就任3日目にはTPP離脱を指示する大統領書簡を発表するなど、前オバマ政権からの政策転換や、政策公約実現の手段として大統領令を活用する姿が目立っている。

しかしながら、就任6日目に署名した、国境の壁の建設準備を命じた大統領命令では、財源について報道官の発言が二転三転した。

さらに、7日目に発令したシリア難民の入国禁止や中東、アフリカなど7カ国からの入国を一時的に禁止する大統領命令では、事前に必要とされる法律的な点検が行われていなかったことが指摘されており、政権運営の杜撰さを示した。

実際、入国禁止令では発令後1週間でシアトル連邦裁判所の判事によって大統領令の一時停止が決定されたほか、トランプ政権が一時停止の無効を訴えた連邦下級裁判所であるサンフランシスコ第九巡回控訴裁判所も、同大統領令に対して憲法違反との判断を示し、一時停止を支持したことから、一時停止の状態が続いている。

同大統領令については、政策遂行のために今後協調すべき共和党議員からも反対する声がでており、トランプ大統領は政治資本を無駄に費消していると言わざるを得ない。

(経済政策)公約実現の可能性は低い
トランプ大統領は、政策目標として今後10年間で2,500万人の雇用創出を実現するとしており、雇用重視の姿勢を鮮明にしている。

同大統領の雇用創出目標は年間当り250万人の創出に該当するが、80年代から00年代にかけての10年間の平均雇用増加ペースを上回る目標となっている[図表4]。

さらに、足元の米労働市場は失業率が5%を下回っているほか、失業者数も僅か760万人程度しか残っておらず、2,500百万人の雇用を創出することは困難だ。

一方、トランプ氏が掲げる政策公約は、主要な政策で議会共和党とスタンスの違いが顕在化しているため、軌道修正を余儀なくされそうだ。

税制改革では個人および法人に対する減税を実施することで認識を共有しているものの、歳出面では考え方に乖離が大きい。議会共和党が国防以外の歳出を大幅に削減することで10年以内の均衡財政を目指しているのに対して、トランプ氏は社会保障について、これまでの水準を維持するとしており、均衡財政の実現は困難だ。実際、トランプ氏が公約で掲げた大型減税を実施すると、債務残高(GDP比)は足元の77%から、10年後に105%に増加することが見込まれている[図表5]。

下院共和党は昨年提示した17年度予算案で10年後の債務残高をGDP比で6割弱に抑える方針を示しているため、債務残高の見通しは大きく異なっており、どのように整合させるのか注目される。

さらに、インフラ投資については、議会共和党の選挙公約にすら入っておらず、財源論も含め、今後の動向が非常に不透明となっている。

実際、共和党上院のトップであるミッチ・マコーネル院内総務が10年間で1兆ドルを超える金額に対して否定的な発言を行っているほか、ラインス・プリーバス首席補佐官も政策の優先順位が高くないと言及しており、インフラ投資については明らかにトーンダウンしている。

このようにみると、税制改革、インフラ投資ともに政策がスムーズに実現する可能性は低く、減税やインフラ投資の規模を縮小するなど、政策公約からのは軌道修正は不可避であろう。
非農業部門雇用増減(年間)、債務残高見通し(GDP比)
(成長率見通し)経済政策に伴う景気浮揚効果は限定的
トランプ氏の大幅減税は公約通り実現されれば、GDP比2%超の規模となることから、景気浮揚効果が大きいとみられる。しかしながら、これまでみたように公約通りに実現する可能性は低い。このため、当研究所では減税規模やインフラ投資の縮小により、経済政策に伴う17年の景気浮揚効果がほとんどなく、18年でも0.3ポイント程度と限定的な成長押上げに留まると予想している。この結果、17年の成長率は前年比+2.2%、18年は+2.4%に留まろう[図表6]。

一方、トランプ大統領は保護主義的な通商政策や移民対策の強化などに拘りがみられるため、これらを推し進める場合には成長率が下振れすることには注意が必要だ。
米国実質GDP成長率の推移(暦年)
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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

(2017年03月08日「基礎研REPORT(冊子版)」)

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