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2019年10月09日開催

パネルディスカッション

データエコノミー時代の企業戦略とは「Society 5.0~デジタルトランスフォーメーションを通じた価値創造~」

パネリスト
田中 道昭氏 立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科) 教授
吉村 隆氏 日本経済団体連合会 産業技術本部長
矢嶋 康次 ニッセイ基礎研究所 研究理事 チーフエコノミスト
コーディネーター
櫨(はじ) 浩一 客員研究員

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3――Society 5.0~デジタルトランスフォーメーションを通じた価値創造~

■吉村 こうした場にお招きいただきありがとうございます。竹中先生から非常に情報量の多いお話があり、また田中先生からも最新の個別具体的な事例のご紹介がございました。そういう意味では、私にどういう貢献ができるのか、若干悩んでいるところではございますが、経団連で今考えていること、どのように今の時代を見ているのかというようなお話をさせていただきたいと思います。

タイトルとして、「Society 5.0」と書かせていただきました。今日のお話の中では、まだキーワードとしてはあまり出てきておりませんが、これから来る、あるいは今差し掛かっている新しい第5段階目の社会ということだと、まずはお考えいただきたいと思います。そういったものが、デジタルの力を使ってこれから大きく飛躍するのではないかという話をさせていただきたいと思います。
(以下、スライド併用)
 
私は経団連から来ております。建物はすぐ近くなので歩いて参りましたが、今現在、会長を日立製作所の中西さんがやっておられます。非常にデジタルに関して見識が高い方ということで、未来投資会議をはじめとして、いろいろな政府のトップレベルの会合にも出させていただき、経団連としての考え方、それから中西会長ご自身のパーソナルな見識といったものを日本政府の政策に反映すべく日々努力しているという状況です。
3—1.Society 5.0:創造社会

そういう中で、Society 5.0について少し言及させていただきたいと思います。それを考えるに当たって、少し俯瞰して、世の中は今どのようになっているのだろうかということを考えてみたいと思います。
 
世界に今大きな変化の波が来ていると理解しております。いろいろな分析の仕方はあるのですが、ここでは三つの大きな波が来ていると整理しています。一つ目はテクノロジーの変化です。今日の中心的なテーマだと思います。AIやIoTなど、多分2~3年前には普通の新聞に出てくることはあまりなかったかもしれないと思いますが、今や人工知能の話が、例えばここは日経ホールですので日経新聞と申し上げますが、日経新聞に出ない日はないというような状況であり、皆さん、われわれを含めて、一人一人生活する中で、デジタルの力を感じているという状況だと思います。こういったものが、今日はあまり話題にはならないかもしれませんが、バイオテクノロジーといったものの進化とも相まって、非常にエクスポネンシャルに進んでいるという状況がひとつあるかと思います。

それから、経済・地政学的変化ということで、平たく言えば、世界経済の中心は、基本的にアジアにシフトしているのではないかと思います。中国の台頭という話がすごく出ておりますが、そのとおりだと思います。中国は象徴的ですが、それ以外にもインドという大国があります。それから、ASEAN諸国も10年前と比べて随分変わったと思います。普通に今、日本で旅行している方の中にも、ASEAN諸国から来ていらっしゃる方がたくさんいるかと思います。本当にアジア地域は、いろいろな国がどんどん経済発展して豊かになって、いろいろなサービスを提供する対象にもなっているかと思います。

それからもう一つ大きいと思っているのはマインドセットの変化です。天災や地震など、この国に生きると特にそうなのですが、地球の環境問題やエネルギーの問題、こういったものの深刻化をすごく感じているかと思います。世界規模でも、いわゆるグローバルイシューといったものが日に日にというか、年々というか、深刻化しているというのを実感していると思います。こういった中で、われわれは恐らく、このまま同じようなライフスタイルを続けていくことは、できないのではないかと、個々人のレベルでも感じているような時代に入ってきているのではないかと思います。そういう意味では、この地球をサステナブルにしていくための技術やサービスといったものを根底から考えなければいけない時代になっているかなと思います。そういう文脈の中で、後ほどSDGsという話が少し出ているのかなと思います。
 
最初の技術的変化のところは、おさらいがてら申し上げますが、最近はデジタルトランスフォーメーションという言葉で呼ばれることが多いかと思います。これは、デジタル化やデジタライゼーションという言葉と非常に近いのですが、私たちは本質的なところは少し違うのではないかと思い、言い分け、書き分けしているところです。

デジタライゼーション自体は、デジタルの技術を使って既存製品の付加価値を高めるとか、業務を効率化したりとか、そういうレベルのもの、性能向上みたいなことが一義的には私たちの頭の中にございます。それに比べると、デジタルトランスフォーメーションという言葉は、デジタル技術を使うということは同じなのですが、既存の製品やサービスの付加価値を高める、業務の効率化をする、そういったレベルを超えたものだと思います。経営や事業の在り方、ビジネスモデル、人々の生活の在り方・働き方、行政の在り方、いろいろなものが根底から変わっていく、デジタルの力でそこまで行くというのがデジタルトランスフォーメーションであると思っていまして、そのデジタルトランスフォーメーションが今まさに来ている。その技術的背景がIoTであり、AIであり、ロボットだったり、ブロックチェーンだったりということではないかと思っています。
 
そういう中で、今日ずっとお話に出ているとおり、こういった分野については、米中のいわゆるデジタル企業がトップを走っています。これは、スマートフォンの利用者に対するインターネットを介したサービスやアプリのようなものが先駆的に始まったこと、それから、そもそも英語や中国語を話す人が多いことなど、いろいろな理由があるかと思いますが、時価総額で見ても米中のデジタル企業が世界で上位を席巻しているような状況ということで、一生懸命真面目に、いわゆる狭い意味での物作りをやっている企業が、なかなかこういったところに出てこない状況になっていると思います。

また、見逃せないのは、先ほど田中先生のお話にもあったとおり、単純にスマホ上のアプリで便利なことをリコメンデーションしてくれる、面白いというレベルの話を超えて、ここではフィジカル空間と書いていますが、リアルなビジネスのところに、データ解析の結果等を返していくといったことがこれからどんどん起こっていく。そこに対しても米中の企業が先手を打ちつつあるというところが、今後見る上でのひとつのポイントかと思います。
 
大きな変化の波の三つ目で、マインドセットの変化ということを申し上げました。これはSDGsとつながるというお話をさせていただきました。SDGs自体、日本の中でもかなり浸透しつつあるかとは思いますが、これは国連で掲げた、2030年までにみんなで達成していこうと言っている17のグローバル目標と169のターゲットです。国連でまとめたものでいうと、ご存じの方は、2000年頃にMDGs(Millennium Development Goals)があったのをご記憶かと思います。当時は貧困にあえいでいる国を国際的に何とか支援しましょうというような目標を立てていたものがありました。今回はそれに代わるものとしてSDGsが掲げられたわけです。

SDGsの特徴は、「サステナブル」という、持続可能という言葉が入っていること。「デベロップメント」自体は、過去の流れからして「開発」という表現になってしまうので、若干途上国寄りですが、あとは「ゴールズ」と、「s」が付いているのは、17の目標などたくさん達成しなければいけないことがあるということの象徴ではあるわけです。こういったものを、本当は17の目標をひとつずつお示しした方がいいのだと思うのですが、いずれにしても個々に読んでいただくと、どう考えても国連に任せておけばいいとか、国に任せておけばいいというようなことだけではなくて、先進国であっても途上国であっても国内にある深刻な課題、それから、先進国や途上国に関係なく、グローバルに解決しなければいけない課題が掲げられていて、どう考えても民の力を活用しなければ乗り越えられないようなものがたくさん入っています。

実はその中に、単純にきれい事で、やったらいいよねという話ではなく、ビジネスのチャンスといったものが眠っているということで、ビジネスの観点からSDGsを見てみることも大事ではないかと思います。いずれにしても、こういった国際的な価値観のようなものが、地球環境・エネルギー問題の文脈の中でも浮上しているというのが現状かと思います。
 
私はSociety 5.0を5段階目の新しい社会と申し上げております。人類の発展段階についてはいろいろな解説の仕方があるのですが、この絵では、狩猟社会から始まって、農耕社会、工業社会、情報社会、そして情報社会の次に来る新しい段階の社会がSociety 5.0であると位置付けております。それを実現するための裏付けの技術として、いわゆる第4次産業革命といったことで言われるようなデジタル関連の技術がそこを支えているということです。
 
Society 5.0という言葉が最初に謳われたのは、若干マニアックですが、政府の「第5期科学技術基本計画」の中です。ただ、日本政府はデジタルの力で世の中が便利になるというところに若干寄り過ぎた解説をしているかなと思っております。政府ではSociety 5.0を超スマート社会と訳しています。便利になるよね、楽になるよね、楽しくなるよねというようなところだけで、なかなか国民理解は進まない部分もあるかなと私たちは思っていて、そうすると、デジタルの力を使って、結局、便利になること以外にいろいろと考えていって、新しい社会をつくっていかなければいけないのではないかなと私たちは考えています。
 
先ほど来、課題の話などをしましたが、いろいろな課題を解決するとか新しい価値を生み出すとか、そういったことについてデジタルの力を使うのですが、それを使ってどういう社会をつくっていくべきかについては、イマジネーションやクリエイティビティといったものを働かせていかなければいけない。それが、これから迎えるであろう第5段階目の社会というように感じており、それを私たちは独自に「創造社会」と名付けています。
 
情報社会とどのぐらい違うのかは、説明をすれば長くなるのですが、いずれにしても、単純に効率や規模の拡大や集中など、そういったことでは実現しない新しい価値を創造する、課題を解決する、それから多様性を重視する、もっと分散した国土・社会にしていくというようなことを含めて、そしてエネルギー問題についても持続可能で自然共生ができる。Society 5.0というのは、このような世界観を持ちながらこれからはつくっていかなければいけないのだろうなと思っています。
 
こういった考え方は、実は、先ほど申し上げたSDGsの考え方と基本的には軌を一にしていて、デジタルの力も使いながら、人々は結局どういう社会が望ましいのか、そこに向かってこういった技術をどううまく使っていくと国内外に横たわる課題を解決し、未来を創造し、新しい価値を作っていき、そこにビジネスのチャンスもあるというようにうまく回せるのかといったことを考えていくことが大事だと思っています。
3—2.デジタルトランスフォーメーション推進

デジタルトランスフォーメーションという話をさせていただきましたが、米中が非常に先行しているという話がございます。確かに、結構負けている状況はあるかと思います。ただ、このまま負け続けるのかというと、勝ち目もあると認識はしております。それが、簡単に言えばフィジカルの方のビジネスだと考えています。先ほど申し上げたとおり、基本的には、米中の企業もスマホやアプリなど、いわゆるサイバー空間上での製品・サービスの提供を核としてここまでは発展してきたという経緯があろうかと思います。

日本企業は、考えてみれば、現場に多様なデータがあるとか、医療や社会保障に目を向けてみても、使われていないけれども、この国には良質なデータがあるということに気付くかと思います。こういったデータを上手に吸い上げて、活用し、分析し、それを現場や製品・サービスに生かしていくことができれば、この国の企業は米中にできないようなところまで含めて、きめの細かい製品・サービスの提供ができるのではないかと信じています。
 
もう一つ申し上げたいのですが、これから、多分ですが、データの奪い合いのような時代に世界的にもなると思うのです。竹中先生からのお話にもありましたが、データの覇権を巡る国家の争いのようなものがすでに出てきていると思います。アメリカは基本的には民間企業が主導している。中国は国家主導でデータを集めていると。EUは個人のデータは個人がマネージできることが権利であると強く強く思っているので、GDPR(一般データ保護規則)などで個人データの囲い込みをしています。このようにデータを巡る考え方やルールというのはだいぶ違ってきている状況です。こういった中で、日本がどういうルールを作って、グローバルに見ても納得性の高いものを作って、それをなるべく広げて、国境をまたいでデータを流通し合える、そして新しい付加価値を生み出す、そういうことをやっていかなければいけないと思っています。
 
そうは言っても日本は特に個人情報の活用については、一般消費者の皆さんを中心に、非常にセンシティブなところがあります。それを考えると、民間企業もなかなか個人データの活用は進んでいない現状があろうかと思います。そういう意味では、ここをどうやって乗り越えていくのかがこの国の結構大きな課題だと思っています。やはりこの国は、民度も高いですし、勝手にやってしまえばいいではないかとなることにはなかなかいかないと思います。新しい付加価値で圧倒的なものが出てくれば、国民世論もついてくるということはもちろんあり得るし、そこを目指していきたいところではありますが、普通に考えると、プライバシーへの配慮とか、サイバーセキュリティをちゃんとしているのかとか、そういったところについて企業の姿勢がやはり問われると思います。そこに配慮を示しながら、個人データを活用した革新的なサービスを考えていくことが、この国には少なくとも求められるのではないかと思っています。
 
ちょっと長くなってしまったので端折りたいのですが、人工知能についてもいろいろ怖いという話がありますが、人工知能の現状の技術については、正確な理解をして、個別企業においても上手に使い合えるようなリテラシーを持たなければいけないということを考えています。
 
あとは、そうは言っても、なかなか日本企業はイノベーションが起こらないという話があります。大企業もなかなかコンサバだということがあると言われています。そういう意味では、今、われわれの方では、大手が個社だけで、クローズドでやっているだけではなかなかイノベーションは起こらないとの認識があります。これに対して、最近、ビジョンがあって、アイデアがあって、熱意もあって、技術もあって、スピード感もあるようなスタートアップがどんどん生まれております。あるいは大学にも面白い技術が眠っています。
 
こういったところといわゆるオープンイノベーションをすることによって、新しいイノベーションをもっと起こせるのではないか。そのポテンシャルは確実にあると信じて、経団連としてオープンイノベーションを促しているところです。ちょうど今月の頭に、大企業の経営者、新規事業担当の役員のみに限って、いけているスタートアップの皆さんと出会うような場も設定したりしているところです。
3—3.おわりに

データを使いながら、あるいは新しい技術を使いながらいろいろなことができるようになります。これからどんどんできることが増えていきます。そうすると、私たちのこの先にある未来はいろいろな可能性があると思います。その中で、私たちにとって本当に望ましい社会、それに向けてどういう技術をどのように使っていったら大丈夫なのか、データをどう使えばみんなが納得するのかについて、やはり自分たちでコミットして、どういう社会をつくっていくのかということをみんなで考えていかないといけない。その上で、新しい社会というのは望ましいものにできるのではないかと思います。そこの議論はどうしてもやらなければいけない、社会と対話しなければいけないと思っていて、そういうことがうまくいけば、私たちの国もまだまだ成長の余地があるのではないかと思っております。このような考えを提言などでもまとめております。もし、私がお話しした中でご興味・ご関心を持たれた方があるとすれば、我々の提言「Society 5.0-ともに創造する未来-」をご覧いただければと思います。私からは以上です。
■櫨 吉村本部長、大変ありがとうございました。それでは次に、矢嶋チーフエコノミストから、背景的なものも含めて、今日本になぜデジタル化が必要なのかというテーマで話をお願いしたいと思います。よろしくお願いします。

4――日本におけるデジタル化の必要性

■矢嶋 矢嶋です。よろしくお願いします。私は、エコノミストですが、なぜデジタル化に興味を持ったかというと、自分は理論にデータを合わせてそれが正しいということをやっていたのですが、今はもう学会などに行くと、ほとんどAI、ビッグデータになって経済を語る。要は、逆算の形になってきているのではないか、と不思議に思っていました。そんな中で企業に質問を多く受けたのが、デジタルトランスフォーメーションは何が起きるのかということです。数年前から企業とディスカッションしていく中で、今はそれが劇的にスピードアップしているということで、そこの理解について企業と対話することが非常に多くなってきました。

最近の対話は、何となく起こっていることは分かった。では、うちの企業で何ができるかということになってきている。特にストックというか、過去の遺産をものすごく持たれている方からすると、うちの会社の中では対応できないかもしれないという質問をたくさん頂いて、このデジタル化の話をここ数年ずっと自分の研究という形でやっています。
(以下、スライド併用)
4—1.デジタル化による変化

企業にお伝えしていることは、デジタル化とは縦と横、それから田中先生の中でお言葉があった最適解という言葉が重要だということです。企業とお話をすると、ご自身の今作っている製品をとことんまで突き詰めて良いものを作るという、ある意味、お叱りを覚悟で言いますが、供給者の議論をされるのですが、デジタル化は、需要者議論で消費者が欲しいと思った最適解を提供でき得る企業が勝つという形でどんどんシェアを取っていくということが、現実起きてきています。

横軸で見ていただくと、例えば一つの技術で、自動運転で、今まで自動車会社が作っていた方々が全然違うものが出てくるというような技術の進歩のような話があります。これを企業にお話しすると、過去このようなことはいくらでもあったという話になるのですが、この左側の全部の要素を使ったもの、例えばプラットフォーマーがいて、もっと一番左に消費者がいたときに、消費者が対面する問題解決をプラットフォーマーがいろいろな分野でやってくれるということが、簡単にできてしまうということです。

今日の会話の中だと、未来都市一つの問題、渋滞の一つの問題をプラットフォーマー一つが解決してしまうということが起きているのです。日本で考えると、幾つかの企業がジョインして問題を解決しようというのが今までのやり方でしたが、それがアリババ一つでできてしまうということが、今までの縦と横の考え方と違うということが起きているデジタル化、デジタルトランスフォーメーション、言い方もいろいろあると思いますが、民間企業の方にここ数年説明するのにものすごく苦労し、自分も話していくうちにだんだん理解が深まって、これはやばいぞというようなことを感じています。
 
マクロ的に、経済のところで簡単にお話しさせていただくと、竹中先生のお話の中で、デジタル化は成長率を引き上げる可能性があるというお話がありましたが、日本はやはり潜在成長率が低いので、特に生産性を上げる必要があります。
 
左側の図表を見ていただくと、人口は江戸時代からものすごく増えて、これから落ちる一方なので、人口はどんなことをやってもマイナスに寄与します。AIは職を奪うとよく言いますが、日本の最大の問題は数がいなくなることなので、他の国に比べて、AIをとことんまで使っても、他の国ほどマイナスの影響が出てこない。
 
それと日本の生活を考えた場合に、私も家族で直面し始めていますが、単身世帯で認知症という問題をどうしても抱えてくると思います。親と話すと、相づちや話があまりうまくないのですぐけんかになります。でも、AIスピーカーとかというのはどんどん機能が上がっているので、うちの親がAIスピーカーに話せば、「そうだよね」と会話がどんどん進むわけです。認知症など会話が非常に大事と言われているのを考えると、いろいろな病気や、家族とのつながりなど、それは距離であったり、個人間の問題もいろいろあると思いますが、テクノロジーで質を上げることはできるわけです。医療・介護などは、人間がやらなければいけないことはたくさんあると思いますが、人間がやらなくていいことをどんどん置き換えることで、日本というのは、供給制約の話もありますし、量・質の両面で成長率を上げる可能性があるので、日本はこれからどんどんやるべきだと思います。
4—2.わが国のデジタル化の状況

日本のデジタル化の状況ですが、結果から言えば、田中先生からお話があったように、米中に比べると断トツ遅いです。経済の世界の自動車販売とデータの量を比べると、片や足し算の世界、片や累乗の世界なので、もう1年たてば、10年たてば、全然違うレベルになっているという状況です。
 
それに伴ってもう私たちの消費行動も変わってきていて、Eコマースがこれだけ拡大している。それから、皆さんの情報端末という意味では、iPhoneがこれだけ急拡大している。ほんの10年前ぐらい、こういう講演をしていると本当にガラケーがガンガン鳴って、やめてくださいと思ったのですが、今はガラケーは全然鳴らないですが、皆さんSNSをされている。講演で話しているときの目線が全然違うのを本当に感じます。
 
日本でもかなり消費者のマインドも変わってきていて、データで見る限りにおいてもサービス支出が財よりも伸び率が変わってきていますし、それから、よく言われるシェアなどサブスクのような話も普通に受け入れられる状況になってきています。トヨタがここ数年の間に、実際に車を販売することもやっていますが、シェアビジネスもやったり、サブスクまで始めているという状況にまでなってきている。冒頭に少しお話ししました、では企業は何をしたらいいのかのような話に、皆さんがなってきているというのは理解できる状況かと思います。
4—3.プラットフォーマーとデータ

結局、日・米・中国で比較すると、日本は圧倒的に遅れているというのはいろいろなデータであるのですが、先ほど田中先生からあった、後発でメリットを取れるというのは私自身あると思っています。
 
5Gの世界になってくると、恐らくBtoBのフィジカル、吉村先生からお話があったところの日本で最高のデータというのはこれから動き始めると思いますので、そこを使って、巻き返し戦略ができると思うのです。その前段階として、トランスフォーメーションが起きたときに、縦と横で今何が起きて、既存の日本企業で何ができるのかという議論をもっと徹底的に詰めておく必要があるのだと思います。

そのときに重要になってくる、現実として考えなければいけないのは、この図は上がGAFA、下が中国系で、どの企業も創業というか会社を立ち上げたのはデジタル空間から始めてきています。それが右に行くと、リアルなところにどんどん進出しているという形です。リアルが何かという問題はあるかと思うのですが、私自身、この話を数年前に話していたときと今は足元で違うと思うのは、東京都内でも自転車でリュックを背負って野菜を運ぶということがもう起きています。あれが、例えばコンビニの中身を全部運んだ瞬間にリアル店舗になっていくということが、現実問題として今起き始めていると思うのです。そういう意味では、日本はリアルが強いということは確かに間違いない事実ですし、日本が誇るべきものだとは思うのですが、スピード感というのが非常に重要なのだと、ここ数年の動きを見ていて思います。
 
それから、これが一番自分自身肝だと思っているところなのですが、プラットフォーマーは消費者に対していつも最適解を出すという意味において、ここ数年、どんどんお客さんが増えてきています。普通の日本企業からすると、最初の悩みは自分で実店舗で売るのか、プラットフォーマーに売ってもらうのかという形を、5年前ぐらいはものすごく悩まれて、何とかプラットフォーマーによらない売り方を考えろというようなことをすごく言われ、それが第一の問題だったと思います。ところが冒頭のチャートでお示ししたように、いろいろな機能、ビッグデータ、それからAI、IoTを使って、いろいろな産業の力を消費者に対して最適解をいつも出すということがどんどん進み、今起きている話は、いろいろな業界のノウハウ、○○業と言われるもの、仕事というものを、プラットフォーマーが奪うという状況にまでなってきています。

よく百貨店の話が出てくるかと思いますが、例えば、今日、竹中先生が銀行のお話をされたので銀行の話をすると、プラットフォーマーで顧客はポイントで物を買うことができるようになってきています。そうなってくると、ポイントで決済ができますので、決済という従来銀行がやっていた機能をプラットフォーマーが完全に吸収することが起きてきています。それと、情報で、例えば毎日毎日きちんとしたものを食べていて、こいつはしっかり働いているということが分かれば、与信行動という意味では、先ほど竹中先生から財務諸表を見るという話がありましたが、個人に本当にお金を貸していいのかというデータは、プラットフォーマーの方がたくさん持っているということがもう起きています。そうなってくると、与信業務も技術的には簡単に可能になる。銀行が保有する決済業務であったり、与信行動のような話をプラットフォーマー自体ができるということも起きてきているわけです。

そうなってくると、プラットフォーマーの後ろに縦に並んでいる業種からすると、今まで、言葉を悪く言えば、小作化や下請け化のようなことが言われていましたが、それだけではなくて、根こそぎ持っていかれるということ自体もテクノロジーの力で起きているという、この現象をどうするのかというのがもう差し迫った問題になってきているのだと思います。

非常に厄介なのは、後発側で僕たちは頑張るのだと思うのですが、この市場で独禁法が今動き始めたのはなぜかというと、消費者が便利だと思うとさらに使うという意味で、寡占化・独占化が起きやすいということです。そこに対して、日本の戦略を考えたときに、今日これからパネルディスカッションの中でいろいろ出てくるかと思いますが、私たちの情報に対する考え方などをどうするかということも考える必要があるのではないかと思います。
 
お話をしていて、数年間非常に不思議に感じるのは、マイナンバーのお話をすると、マイナンバーが普及しない原因の2番目3番目ぐらいに情報の漏洩が嫌だという話が出てきます。でも、その一方で、プラットフォーマーに対して驚くぐらい僕たちは個人情報を出している。ある意味、日本政府が信用できなくて民間企業は許せるなどちょっと不思議な感覚を持っているのですが、結局その裏側にあるのは、プラットフォーマーが提示してくる最適解・サービス・商品に対して、私たちは情報を出してもいいものを得られるということが現実問題起きているのだと思います。

そういう意味で、私たち日本は、例えば医療のデータなどはものすごくいいと思いますが、何か個人情報を出したときに、医療などいろいろなもので、プラスのメリットを出せるような社会的なシステムをどうやって作っていくのかを考えることが急務だと思います。
 
プラットフォーマー規制の話では、今、独禁法、それから個人情報保護法、デジタル課税の大きく3本柱でプラットフォーマー規制が動いていますが、ここで考えなければいけないのは、先ほど吉村様からご指摘があったと思いますが、中国は国家でデータを抱えにいっています。そういう意味では、安全保障の問題に直結する問題から、もう避けられなくなってきています。海外で活躍される企業からすると、機微技術の話もありますが、データが安全保障上ネックになってくるというところをどう捉えるのかという、かなり大きな議論をしなければいけないというのも現実的な問題だと思います。
 
最後のパワポです。繰り返しの部分もありますが、やはりデータ活用が肝だと思います。基礎技術、IoT、それから一部ではAIが遅れているというような話もありますが、そこは何とかなったとしても、日本が抱えるデータをどうやってみんなで安全性と利便性の両方を確保しながら巻き返していくか。特にBtoBでフィジカルなところから日本は巻き返すことになると思いますので、そこの戦略をどうするのかを考えるのが、実は今日頂いたテーマの「日本企業の巻き返し」という意味で非常に重要なポイントです。残念ながらここ数年の議論を見ていると米中は本当にすごいです、研究すればするほどすごいですが、すごいというところで話は終わっているので、日本として、日本企業として、御社としてどうされるのかというところを、考える時期、しかもスピードを上げて考える時期というのが非常に差し迫った課題であると思います。以上です。
■櫨 どうもありがとうございました。
 

【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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