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2019年10月09日開催

パネルディスカッション

データエコノミー時代の企業戦略とは「データエコノミー時代の企業戦略」

パネリスト
田中 道昭氏 立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科) 教授
吉村 隆氏 日本経済団体連合会 産業技術本部長
矢嶋 康次 ニッセイ基礎研究所 研究理事 チーフエコノミスト
コーディネーター
櫨(はじ) 浩一 客員研究員

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2019年10月9日「新たな局面を迎えた世界経済と日本の未来」をテーマにニッセイ基礎研シンポジウムを開催しました。

基調講演では慶應義塾大学 名誉教授|東洋大学 教授 竹中 平蔵氏をお招きして「第4次産業革命下の世界と日本」をテーマに講演頂きました。
 
パネルディスカッションでは「データエコノミー時代の企業戦略とは」をテーマに活発な議論を行っていただきました。

1——はじめに

■櫨 それではパネルディスカッションを始めたいと思います。本日のパネルディスカッションは「データエコノミー時代の企業戦略とは」というテーマで行いたいと思っています。

最初に、本日のパネリストの皆さまを簡単にご紹介させていただきます。皆さんのお手元の資料にも詳しい略歴が載っておりますので、簡単にご説明させていただきます。皆さまからご覧になって私の右にいらっしゃいますのが、立教大学ビジネススクール教授、田中道昭先生です。田中先生は民間企業の要職も歴任されていらっしゃいますが、データエコノミー時代に関連して、『GAFA×BATH』、『アマゾン銀行が誕生する日』など、多数の著書を上梓されていらっしゃいまして、プラットフォーマーの企業戦略に関する研究の第一人者でいらっしゃいます。

次に、田中先生の右隣にいらっしゃいますのが、日本経済団体連合会産業技術本部長の吉村隆様です。吉村本部長は、経団連にてSociety 5.0の推進や知的財産問題、それから科学技術イノベーション政策をご担当されていらっしゃいます。政府の各種審議会、研究会の委員等、多数歴任されていらっしゃいまして、東京大学や政策研究大学院大学で客員研究員を務めるなど多方面でご活躍をされていらっしゃいます。

吉村本部長の右隣が当ニッセイ基礎研究所の矢嶋康次チーフエコノミストです。矢嶋チーフエコノミストは、日本経済や金融政策を専門としており、『非伝統的金融政策の経済分析』という本でエコノミスト賞を受賞しております。テレビの「Newsモーニングサテライト」のレギュラーコメンテーターとして皆さまにもおなじみかと思います。

以上3名のパネリストの皆さまをお招きし、当研究所の専務理事、私、櫨の進行でこのパネルディスカッションを進めさせていただきたいと思います。皆さん、どうぞよろしくお願いいたします。まず、パネリストの皆さまから、それぞれ10分程度でお話をしていただき、その後、3名のパネリストの方のディスカッションに移りたいと思っております。

最初に田中先生から、米中のプラットフォーマーのお話をしていただこうと思います。田中先生、どうぞよろしくお願いいたします。

2――データエコノミー時代の企業戦略

■田中 ただ今ご紹介いただきました立教大学ビジネススクールの田中でございます。竹中先生の基調講演を受けて3名のパネルということですが、実は、今年の新春、楽天の新春講演会で、やはり竹中先生の基調講演の後で私が基調講演をさせていただくという機会を頂きまして、今回と同様にかなりハードルを上げていただき非常にありがたいと思っております。最初に10分強お話しさせていただきますが、竹中先生の総論を受けて、できる限り、10分ではありますけれども具体的なお話をしたいと思います。
(以下、スライド併用)
 
私のこの2~3年間の著書の一部をまとめさせていただきましたが、いろいろな産業・企業に関して論考・分析させていただいております。私はビジネススクールで教べんを執っているだけではなく、実際の上場企業の取締役ですとか、上場企業の経営コンサルティングをさせていただいております。現在は様々な産業がフュージョンし合い、金融の未来を占うのに、自動車の未来が、小売り・ECの未来を占うのにテクノロジーの未来がどうなるのかが分からないと読み解けないはずなのです。そのような視点で今日は、演題である「データエコノミー時代の企業戦略」というお話をさせていただきたいと思います。
2—1.米中プラットフォーマーの戦略の特徴

竹中先生のお話を受けて、われわれは休憩時間に3名で、どのような話をしようかというお話をしていたのですが、私としては、まず米中のプラットフォーム企業が、何がどうすごいのかを理解しないと、日本企業がどうすればいいか、活路も見いだせないかと思っているので、今日の限られた時間の中ではこの3点を中核にお話ししたいと思います。
2—2.「大胆なビジョン×高速のPDCA」へのこだわり

1点目に、米中のメガテック企業が優れているのはビジネスのやり方です。4月にはGAFA、BATH、8社の分析をした本を日経新聞社から出しましたが、8社のビジネスの共通点、あるいは日本の大企業との決定的な違いになっているのは、彼らのビジネスのやり方は最初に大胆なビジョンを立てるところから始まるというところです。大胆なビジョンというのは、言い換えると、自分たちの事業を通じてどういう社会的課題と対峙するのか、自分たちが新たに、まだ世の中にはない価値を、自分たちの事業を通じてどのように提供するのかを最初に定義するということ。

例えばグーグルであれば、昨年の12月に自動運転タクシーを既に社会実装していますが、相当前から自動運転を実現すると大胆なビジョンを立てていた。しかし、彼らにとっては自動運転自体も手段に過ぎない。何が目的・ビジョンかというと、自動運転が実現したら、現在のような自動車中心の社会デザインから、人間中心の社会デザインに変えることが目標なのです。まずは大胆なビジョンを立てて、それができれば、日本の大企業のように詳細な計画を立てないと動けない・動かないのではなく、リーンスタートアップ的に始めて、高速回転でPDCAを回して実現してしまうと。

それから、このチャートで後で重要になってくるのは、エキスポネンシャル(指数関数的)に成長するというところです。スケーラビリティー、スケールするかどうか、天井にぶつからないかどうかにテクノロジー企業は非常に腐心している。それはデジタル化したものは破壊されるということが体感的に分かっているからで、スケーラビリティーにもこだわっているところが彼らのビジネスのやり方の大きな点だと思います。
2—3.カスタマーエクスペリエンスの重視

それから、2点目の共通点は、カスタマーエクスペリエンスを重視していることです。ここで声を大にして申し上げたいのは、現状、私もいろいろなお手伝いを日本企業とさせていただいていますが、中核となる論理がカスタマーエクスペリエンスや顧客第一主義でなくて、まず自分たちの企業論理が先にあって、企業の生産性を高めるためにAIを使うとか、企業の生産性を高めるためにいろいろなことをやっているという立て付けだと思いますが、GAFAとか中国のメガテック企業との決定的な違いは、まずはカスタマーエクスペリエンスを向上させるところでデジタル化やいろいろなものを使っているのではないかというふうに観察しております。

本当はこのページだけで30分ぐらいご説明したいところなのですが、私は長年、アマゾンのジェフ・ベゾスをウオッチしていまして、周りからはベゾスウオッチャーと言われているぐらいなのですが、最近、ベゾスの頭の中をのぞき込むと、恐らくジェフ・ベゾスの頭の中でいうカスタマーエクスペリエンスがどこまで先鋭化してきているかというと、この最後にあるように、顧客に「○○取引をしている」ことを感じさせないことというところまで先鋭化してきているのではないかと思っています。この「○○」の所には、あなたがやっている仕事が入ります。例えば、銀行であれば、顧客に銀行取引していることを感じさせないというところが本当は目指すべきところですし、世界一のデジタル銀行であるシンガポールのDBS銀行はそういう取引を提供していますが、日本はまだそこまで行っていないのです。
 
そういう意味では、アマゾンにおいては、「顧客に買い物していることを感じさせない。顧客に支払いしていることを感じさせない」ぐらいカスタマーエクスペリエンスを先鋭化してきているのが無人レジコンビニのアマゾン・ゴーではないかと観察しています。
2—4.DXによる事業の本質の進化

それから三つ目のポイントは、事業の本質をデジタルトランスフォーメーションによってアップデート(進化)させているというのが、米中のメガテック企業の共通点だと考えています。
 
具体的に言うと例えばコンビニです。恐らくコンビニの事業の中核は、昔も今もこの先も、消費者から見ると便利でおいしいものを食べたいというところが恐らく事業の本質だと思いますが、この「便利」というところと、「おいしい」というところを、アマゾンはデジタルトランスフォーメーション、AI化、ロボット化でアップデート(進化)させてきていると。
 
まず「便利」というところは、今ご覧いただいたように、顧客に買い物していることを感じさせない、ただ立ち去るだけ。Just Walkoutの便利さを高めてきているということが言えると思いますし、その一方で「おいしさ」というところです。
 
「おいしさ」というところは非常に見逃せないのは、実際に行ってみると、日本では無人レジコンビニとして有名なアマゾン・ゴーですが、実際に通りの右側を見ると、人が5~6人くらい、見える所のオープンキッチンでサラダやサンドイッチを作っているのです。私は実際に行ってみて何を思ったかというと、アマゾン・ゴーというのは、無人レジコンビニどころか超有人店舗だということです。アマゾンというのは、言うまでもなくAI化やロボット化の急先鋒の会社だと思いますが、実はアマゾンのジェフ・ベゾスがアマゾン・ゴーで何を定義したかというと、人が人に最後の最後まで求めるものは何か、最後の最後まで人に残る仕事は何かなのではないかと思います。先ほど竹中先生のお話でもAI化というお話がありましたが、私は実際にアマゾン・ゴーに行ってみて何を思ったかというと、恐らく人が最後の最後まで人に求めるものは、自分が見えない所でロボットが作っているサンドイッチを食べたいのでもない。自分が見えない所で人が作っているサンドイッチを食べたいのでもない。恐らく、自分が見える所で人が作っているサンドイッチを食べたいみたいなところにあるのだと思います。アマゾンのジェフ・ベゾスが、人間が人間に最後の最後まで、AI化時代が進んでも求めるものは何なのかということを再定義したのがアマゾン・ゴーだと分析させていただきました。
 
それから、アリババに今年の7月の末にも行ってきまして、先ほどちょうど竹中先生のアリババのお話が出ましたが、お話しになったことの半分ぐらいは実は映像でたまたま用意したので視覚的にご覧いただきたいと思います。。
 
実は、アリババは2年前に中国で百貨店を買収しているのです。アリババが百貨店を買収して、2年後にどうなったのか想像しながら聞いていただきたいと思いますが、これが外からの映像で、行ってみると普通に日本の三越伊勢丹と変わらないような百貨店です。
 
百貨店というのはテナント企業に対してはBtoBのビジネスという性格を持っているし、われわれ一人一人の消費者に対してはBtoCというビジネスの性格を持っていると思いますが、本来、三越伊勢丹がテナント企業に対してやるべきことは何なのか、あるいは一人一人の消費者に対してやるべきことは何なのかということで考えていただきたいと思います。このチャートは、BtoC、われわれ一人一人の消費者に対して、本来、三越伊勢丹のような企業が消費者に対してやるべきことは何かというと、恐らく自分が求める品ぞろえが非常に豊富で、行ったら非常に満足できるカスタマーサポートを得たいというのが、われわれが恐らく百貨店に望むところだと思うのですが、それがなかなかできていないのが日本の百貨店だと思います。
 
それに対してアリババがこの2年間で何をやっているかというと、この写真は実際にアリババがニューマニュファクチャリングという方法で製造・開発・販売しているシャツです。物理的に言うと、実際にはテナント企業が発売しているものですが、アリババという企業はありとあらゆる生活サービス、例えばEC・小売り・アリペイ・ライドシェア等、いろいろなサービスを通じてビッグデータを集積して、そのビッグデータから、例えばこのテナント企業、このアパレル企業であればどういうシャツを作ったら売れるのかということを逆算して、ニューマニュファクチャリング、つまりは、開発・製造・販売まで行っています。

驚いたのは、元々こういったやり方をするまでの、アリババが買収するまでの百貨店では、アパレルの定価の消化率というのは4割ぐらいだったそうなのですが、今このニューマニュファクチャリングでやるようになって、定価の消化率が8割まで来ているということです。具体的にシャツの色や素材、シルエット、デザイン、ボタンの位置、ありとあらゆるところをビッグデータ×AIで解析し、最適化して販売しているということで、まさに自分が求める品ぞろえがそこに行くとあるという世界を、アリババはデジタルトランスフォーメーションで実現している。
 
それからもう一つ、カスタマーサポートですが、今回行って驚いたのは、既にアリババの本拠地にあるアリババの百貨店ではどういう販売員でないと生き残っていないかお分かりいただけるでしょうか。これは現在進行形で日本でも2~3年単位で、百貨店あるいは小売りの現場でどういう販売員しか残らなくなるのかを物語っていると思いますが、実際に顧客がいるときはその場で説明をしているのですが、顧客がいないときには百貨店のその売り場の隣の所でライブストリーミング配信をしているのです。ライブストリーミング配信というのは、お分かりいただけると思いますが、アリババの動画配信のプラットフォームを使って実際に商品の説明をしている。商品の説明をしているだけではなくて、例えば口紅であれば口紅の塗り方や使い方など、ありとあらゆる知識が豊富でなければいけない。中国ではKOL(キー・オピニオン・リーダー)という概念が非常に定着していて、百貨店の販売員さん一人一人がキー・オピニオン・リーダーとなって、商品知識に長けて、いろいろな使い方をライブストリーミング配信で配信できるようなキー・オピニオン・リーダーにならないともはや生き残れないような時代が、アリババの百貨店においては訪れている。こういう販売員が非常に優れたカスタマーサポートをするように進化しているということです。
 
それからもう一つ、百貨店の方はBtoB、テナント企業に対しては本来、集客をしてあげて、販売支援をしてあげるという使命をもっている。本来、日本でもテナント企業に対して三越伊勢丹などが行使しなければいけない義務だと思いますが、それがなかなかできていないという中で、2年たって何をしているかというと、こういう集客・販売支援をリアルな店舗である百貨店でやっているだけではなくて、2年前にはテナント企業では全くなかったオンラインの売り上げを創造しているのです。
 
今回行って驚いたのは集客です。集客はアプリを駆使してリアルの店舗にも貢献している。
 
それから、オンライン売り上げを創造するようにアプリを一緒にやられていて、例えば私が行ったときは、オンラインで口紅の注文が入ったのですが、口紅の注文がオンラインで入ったときにどこから商品在庫として出荷しているかご想像いただけるでしょうか。これはロボットの写真なのですが、当然、倉庫から商品在庫として出荷することもあり得るのでしょうが、今回目の当たりにして非常に驚いたのは、注文が入るとバックヤードからロボットが1階の店頭まで来て、店員がこのロボットの中に商品を入れるという形で、オンライン売り上げの出荷在庫を1階にある商品の在庫を使っているというようなところまで既に先鋭化しているというところです。
 
これは、私の『GAFA×BATH』本の中にも書かせていただきましたが、今の映像をご覧いただいて、日本がいつぐらいにこれが実現できるのかと思いますか。ロボットを走らせること自体は簡単かもしれませんが、実際にはさまざまなレイヤー構造がプラットフォームとして重層的にできているわけです。一番底辺には、アマゾンでいうAWSのような、アリクラウドがあって、底辺にクラウドコンピューティングがあるからこそ全てが実現している。ちょっと字が小さいですが、この上にはロジスティックスやペイメント、マーケティングなどいろいろなプラットフォームがあるわけで、そういう意味では、仮に中国の時間が今止まっていてくれたとしても、日本が追いつくには2~3年、あるいはそれ以上かかるかなというのが正直な感想です。
 
ちょうど竹中先生のお話で、アリババの本社に行ったときに杭州の町全体の話が出ていましたが、これが実際の映像です。これは上と下で、デジタルとリアルタイムでいろいろな表示がされているのですが、ちょっと驚いたのは、上に表示されているものは何かというと、その地域でどういう商品の注文が入ったのかがリアルタイムで表示されるようになっているのです。下にある印は何かというと、アリババが既にOMO(Online Merges with Offiline)で、リアル店舗とオンラインを完全統合させた店舗を表示しているのです。

非常に見逃せないのは、アリババでは、パパママショップをデジタル化しているのです。そういったことから非常に数が多くなっているのですが、アメリカではアマゾンがパパママショップを駆逐してしまい、多くのパパママショップはつぶれてしまった。それに対して中国が幸いだったのは、パパママショップがまだ生き残っている段階でアリババが中国の社会問題を解決しようという大きなビジョンを実現し、パパママショップをつぶすのではなくて、お互いにWin-Winの関係でパパママショップをデジタル化しているということなのです。
 
それから、竹中先生のお話の中でもシティブレインというお話がございましたが、前々回の四半期決算でソフトバンクグループの孫さんは、初めてAI化の定義をかなり具体的におっしゃって、AIの定義は何かというと、AIでビッグデータを解析して推論すると。具体的に推論するというのは、元々アメリカに行ってタクシーを呼ぶと15分ぐらいかかっていました。ところが今、ウーバーで呼ぶと3分で来ますと。どうして3分で来るかというと、ビッグデータをAIで解析することで、15分後に人がどこに集積するのかを推論して分かるので、そこに最初から配車しておくことで3分で来るようにしたということです。具体的にマネタイズする方法を「推論」という言葉で表しましたが、アリババに行くとAIはどう説明されるかというと、一言で言うと、「最適化」という言葉を使っています。何に対して最適化を使っているかというと、先ほどの竹中先生のお話だと交通渋滞です。交通渋滞を、いろいろなセンサーを信号などいろいろなところに、あらゆるところに付けることでビッグデータをAIで解析して、最適化をして交通渋滞を緩和させている。

私が今回行って具体的に説明を受けたのは、それ以外では本当にありとあらゆることを最適化している。幾つか事例をお話しさせていただくとごみの収集。ごみ箱やごみの収集車などいろいろなところにセンサーを付けていくことで、どのようにごみ収集車が回収すると効率的にごみを収集できるのかということで既に最適化で使われているとか。あるいは駐車場です。ありとあらゆる駐車場にセンサーが付いているので、われわれ一人一人の消費者は、スマホで空いている駐車場を探せばいいみたいなことが可能なわけです。そういう意味では、最適化ということを様々な都市機能に応用して、既にアリババの方はスマートシティを実現してしまっている。このような世界が2019年時点の中国の世界です。
 
最後に2枚ほどお話ししたいのは、「株式会社中国」の競争優位性です。私は、米中のメガテック企業を両方ベンチマークしている中で思うのは、今や、本当に中国はただ単に後発者利益、物まねをしているだけではなくて、新たな価値を提供するとか、まだ他の国では解決されていないような社会的問題を解決するようになっている。是々非々でいうと、われわれ日本が中国のような管理社会になるべきでは絶対にないと思っていますが、是々非々はともかくとして、社会実装やテクノロジーの進化は恐らくアメリカよりも凌駕している。だからこそ米中新冷戦が勃発しているということだと思うのです。

では、「株式会社中国」の競争優位は何かというと、私はいつも三つのエコノミー、「規模の経済」「範囲の経済」「速度の経済」が優れているという説明をさせていただいているのですが、一番見逃せないのは一つ目の「規模の経済」です。先ほどスケーラビリティーというお話をしましたが、スケール、スケーラビリティーということでいうと、中国は14億人のスケールを持っているわけです。ですから14億人のスケール、スケーラビリティーを背景に、あっという間にいろいろなテクノロジーを社会実装させ、進化させてしまうというところが、今やデジタルトランスフォーメーションの時代においては非常に大きな脅威になっています。

それ以外にも、「範囲の経済」「速度の経済」が指摘できると思います。

それから、最も見逃せないのは、一番底辺に書かせていただいたカスタマーエクスペリエンスだと思うのです。中国は決して政府が無理やりアリババやテンセントのサービスを浸透させようと強制しているわけではないのです。実際に、アリババやテンセントが2強で、何にしのぎを削っているかというと、カスタマーエクスペリエンス上優れているかどうかというところで非常に大きな戦いを行っている。

その結果、今、中国に行くと、2強のプラットフォーマーだけではなくて、中国の経営者がこだわっているコンセプトの一つにツータッチという概念があります。どういう概念かというと、いろいろなサービスを開発したときに、2回の操作で消費者が操作を完結できるのかに非常にこだわっているのです。それに対して、残念ながら、今、日本のスーパーの無人レジに行くと、ペットボトル1本買うのに、体験された方はご存じかもしれませんが、5回か6回ぐらいタッチしないと決済が終わらない。それに対して中国企業はツータッチ、2回で終わるかどうかで非常に大きな競争をしている。実際には、優れたカスタマーエクスペリエンスを中国の国民に提供しているから、それを背景に14億人のスケール、スケーラビリティーを活用しているところが最大の競争優位の源泉かと思っています。
 
それから、最後の1枚も竹中先生のお話にも若干ありましたが、「株式会社中国」としての重要な政策としては、「中国製造2025」「インターネットプラス政策」「次世代AI発展計画」が有名なところとしてあります。「インターネットプラス政策」というのは、実はこのデジタルトランスフォーメーション、インターネットの時代においてスケール経済、スケーラビリティーがフルに生かせる11の分野を自ら選んでいるというのが見逃せないところだと思います。

それから、「次世代AI発展計画」、これも先ほど竹中先生のお話の中にありましたが、私は3月の末に北京でアイフライテックという音声認識AIに関しては中国政府から委託を受けている会社の副総裁とミーティングをしました。ミーティングをする前に視察をさせていただいたのですが、1カ所だけ写真を撮らないでくれと言われたところがありまして、それは何が表示されていたかというと、アイフライテックが1日に集積している音声認識のビッグデータの数がリアルタイムで表示されたのです。何度も間違いかと思って数え直したのですが、1日にその会社が音声認識のデータをどれぐらい集積していると思われるでしょうか。何度も数え直してびっくりしたのは47億件、1日に47億件の音声データを集積しているわけです。そういう意味では、どれぐらいのビッグデータを集めて、どういうことをやっているのかでは中国は相当進んでいるのです。

日本は本当に出遅れていますが、しかしここからは後発者利益を獲得して、その後発者利益を実現していくようなやり方でないと、われわれ日本、日本企業はもう太刀打ちできないと思っていますので、そういう意味では、竹中先生が提唱されているスーパーシティというのは、後発者利益を獲得して、それをてこに日本もここから挽回していくということでは非常に大きな手段になるのではないかと思っています。そのようなことで、ちょっと長くなりましたがお話しさせていただきました。
■櫨 どうもありがとうございました。それでは次に吉村本部長から、経団連が推進していらっしゃるSociety 5.0についてお話を伺いたいと思います。よろしくお願いします。
 

【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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