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2025年11月18日

2025~2027年度経済見通し(25年11月)

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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2.実質成長率は2025年度1.0%、2026年度1.0%、2027年度1.3%を予想

(内需主導の成長が続く)
2025年7-9月期のマイナス成長の主因となった輸出、住宅投資のうち、輸出は米国の関税引き上げの影響が残ることから10-12月期も減少することが予想される。一方、住宅投資の先行指標の住宅着工戸数は2025年5月を底に持ち直している。GDP統計の住宅投資は工事の進捗ベースで計上され、着工戸数の動きが遅れて反映されるため、10-12月期には増加に転じることが見込まれる。

10-12月期は、輸出の減少が続くものの、民間消費、住宅投資、設備投資が増加することから、実質GDPは前期比年率0.3%と小幅なプラス成長になると予想している。ただし、輸出を中心に下振れリスクは高い。

2026年入り後は関税引き上げの影響が徐々に減衰し、輸出が持ち直す中、民間消費、設備投資を中心に国内需要が増加し、潜在成長率を上回る年率1%台の成長が続くことが予想される。

実質GDP成長率は2025年度が1.0%、2026年度が1.0%、2027年度が1.3%と予想する。需要項目別には、国内需要は2024年度に2年ぶりに増加に転じた後、2025年度以降も増加を維持するが、外需は2024年度に前年比・寄与度▲0.5%と2年ぶりのマイナスとなった後、2025年度以降も小幅なマイナスが続くことが見込まれる。トランプ関税の影響は徐々に減衰するものの、海外経済の減速が続く中、円高の進展もあり、輸出は予測期間を通じて低めの伸びにとどまり、引き続き景気の牽引役となることは期待できないだろう。
実質GDP成長率の推移(四半期)/実質GDP成長率の推移(年度)
なお、今回の見通しでは、2025年度の実質GDP成長率の予測値を前回(9月時点)から0.3%ポイント上方修正した。2025年7-9月期の実績値(前期比年率▲1.8%)は9月時点の見通し(前期比年率▲2.0%)と大きく変わらなかったが、過去の成長率が改定されたことが2025年度見通しの上方修正につながった。

11/17に内閣府から公表された2025年7-9月期の1次速報では、2024年度の実質GDP成長率が0.7%から0.6%へ下方改定される一方、2024年度下期以降の成長率が上方改定された(2024年10-12月期:前期比年率2.1%→同2.9%、2025年1-3月期:前期比年率0.3%→同0.9%、4-6月期:前期比年率2.2%→同2.3%)。この結果、2024年度から2025年度への発射台は9月時点の+0.45%から+0.64%へ0.2ポイント程度上方修正された。2025年度の成長率見通しは上方修正したが、2025年10-12月期以降の成長率のパスは9月時点と変わっていない。
(財産所得が家計の可処分所得を押し上げ)
足もとの実質可処分所得(季節調整値)はコロナ禍前(2019年平均)とほぼ同水準となっている。雇用者報酬は名目の高い伸びを物価高が打ち消す形で、実質では減少が続いていたが、2024年4-6月期に11四半期ぶりに前年比で増加に転じた後、6四半期連続で増加している。ここにきて目立つのは財産所得の増加である。家計の財産所得は超低金利の長期化に伴い低迷が続いてきたが、好調な企業業績を背景とした配当の増加を主因として大幅に増加し、可処分所得の押し上げ要因となっている。先行きについては、「金利のある世界」が復活したことにより、利子所得の増加も期待できる。
実質可処分所得の増減要因 実質可処分所得は、名目賃金の高い伸びや物価上昇率の鈍化に伴う実質雇用者報酬の増加、利子、配当などの財産所得の増加などから底堅く推移するだろう。

民間消費は実質可処分所得の増加を背景に、2024年度の前年比0.7%の後、2025年度が同1.0%、2026年度が同1.1%、2027年度が同1.0%と増加が続くと予想する。
(企業の投資行動は慎重化する可能性)
2025年7-9月期の設備投資は前期比1.0%と4四半期連続の増加となった。日銀短観2025年9月調査では、2025年度の設備投資計画(全規模・全産業、含むソフトウェア・研究開発投資額、除く土地投資額)が6月調査から0.8%上方修正され、前年度比9.5%となった。
設備投資計画(全規模・全産業)/経常利益計画(製造業、非製造業)
2024年度の経常利益は前年度比5.6%(全規模・全産業)の増加となったが、2023年度までに比べると増益率は大きく鈍化した。また、日銀短観2025年9月調査では、2025年度の経常利益計画が前年度比▲4.8%の減益計画となった。9月時点の経常利益計画は2023、2024年度も減益計画となっており、必ずしも悲観的に見る必要はない。ただし、自動車が前年度比▲20%台の大幅減益計画となるなど、トランプ関税の悪影響を受けやすい製造業では例年に比べて収益計画が下振れている。

設備投資は高水準の企業収益を背景に、人手不足対応の省力化投資、デジタル化に向けた情報関連投資、Eコマース拡大に伴う建設投資などを中心に、回復が続いている。ただし、先行きについては、収益環境が悪化している製造業を中心に投資行動が慎重化する可能性がある。

設備投資は2024年度の前年比1.9%から2025年度に同2.9%と伸びを高めた後、企業収益の伸び率鈍化を受けて2026年度に同2.6%とやや減速するが、トランプ関税の影響一巡に伴う企業収益の回復を背景に、2027年度は同3.0%と伸びが高まると予想する。
(物価の見通し)
消費者物価(生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)は2024年12月以降、前年比3%台で推移していたが、電気・都市ガス代の支援策が再開されたこと、食料の上昇率が鈍化したことなどから、2025年8月(2.7%)、9月(2.9%)と3%を割り込んでいる。

ガソリン税の暫定税率は2025年12月末で廃止されることとなった。これに先立ち1リットル10円の補助金は段階的に積み増され、11/13~が15円、11/27~が20円、12/11に現在の暫定率の上乗せ分の25.1円となる。暫定税率が廃止されると、ガソリン価格は27.61円(25.1円+消費税分)低下する。補助金が10円だった11/10時点で1リットル173.5円だったガソリン店頭価格(レギュラー)は、原油価格、為替等が現状水準で推移した場合、暫定税率の廃止によって150円台後半まで低下し、コアCPIは▲0.2%ポイント程度押し下げられる。
コアCPIに対するエネルギーの寄与度 電気・都市ガス代の支援策は2023年1月以降、断続的(2023年1月~2024年5月使用分、2024年8~10月使用分、2025年1~3月使用分、7~9月使用分)に実施されてきたが、政府は物価高対策として、2026年1~3月使用分について、前年よりも補助金額を上げて支援策を行う方針を示している。

消費者物価指数のエネルギー価格は2025年9月時点で前年比2.3%の上昇となっているが、2025年12月に下落に転じた後、2025年度末にかけてコアCPI上昇率に対する寄与度は▲1%近くまでマイナス幅が拡大することが見込まれる。
食料品(生鮮食品を除く)は、輸入物価の再上昇に米価格の高騰が加わったことから上昇率が高まり、2025年7月には同8.3%となった後、2ヵ月連続で伸びが鈍化し、9月には同7.6%となった。

川上段階(輸入物価)の食料品価格の上昇率は2023年夏頃に比べれば低水準にとどまっているが、川下段階(消費者物価)の価格転嫁率は高まっている。飲食料品の輸入物価は2020年秋頃から2022年末にかけて約60%の急上昇となった。この間、消費者物価の食料品(除く生鮮食品)の上昇率は10%弱にとどまっていた。これに対し、2023年初以降の飲食料品の輸入物価上昇率はピーク時でも15%程度と前回の上昇局面の4分の1程度にとどまり、足もとでは鈍化傾向となっているが、消費者物価の食料品は輸入物価を上回る上昇率となっている。人件費や物流費の価格転嫁に加え、物価高が継続したことで企業の値上げに対する抵抗感が薄れていることがこの背景にあると考えられる。

一方、帝国データバンクの「食品主要195社価格動向調査」によれば、2025年の飲食料品の値上げ品目数は2024年を上回るペースで増加しているが、先行き3ヵ月の値上げ品目数の増加ペースは頭打ちとなっている。先行きについても食料の値上げ自体は継続するが、消費者物価指数の前年比上昇率は鈍化傾向が続くことが見込まれる。
高まる食料(除く生鮮食品)の価格転嫁率/飲食料品の値上げ品目数と消費者物価
サービス価格の推移 サービス価格は2023年後半以降、2%台前半の伸びが続いていたが、2024年度入り後は1%台半ばまで伸びが鈍化している。サービス価格の内訳をみると、サービス価格を下押ししているのは家賃で、家賃を除くサービスは2023年末頃の前年比3%台後半をピークに伸びは鈍化しているが、2%程度の伸びを維持している。

サービス価格の動向を大きく左右する人件費は、高水準の賃上げを背景に増加が続くことが見込まれる。人件費や物流費を価格転嫁する動きが続くことから、サービス価格の上昇ペースは再び加速する可能性が高い。
コアCPIは、足もとの3%程度から2025年末にかけて2%台前半まで伸びが鈍化した後、ガソリンの暫定税率廃止と電気・都市ガス代の支援策が重なる2026年入り後には2%割れとなることが見込まれる。2026年中は1%台後半で推移するが、円高に伴う財価格の上昇率鈍化を、高水準の賃上げが続くことに伴うサービス価格の上昇ペースが上回る形で、2027年入り後には再び2%台となるだろう。

コアCPIは、2024年度の前年比2.7%の後、2025年度が同2.7%、2026年度が同1.8%、2027年度が同2.1%、コアコアCPI(生鮮食品及びエネルギーを除く総合)は2024年度の前年比2.3%の後、2025年度が同3.0%、2026年度が同2.1%、2027年度が同2.2%と予想する。
消費者物価(生鮮食品を除く総合)の予測

 
日本経済の見通し(2025年7-9月期1次QE(11/17発表)反映後)
米国経済の見通し
欧州(ユーロ圏)経済の見通し

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(2025年11月18日「Weekly エコノミスト・レター」)

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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