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2025年09月30日

米国における生保加入率の状況-新契約販売実績は4年連続で過去最高となるも、生保加入率は低下傾向-日本は、加入率は高いものの一人あたり加入金額が小さく、死亡保障不足に陥っている-

保険研究部 上席研究員 兼 気候変動リサーチセンター 気候変動調査部長 有村 寛

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1――4年連続で過去最高を更新した米国個人生命保険の新契約販売業績

(図表1)は、米国における生保・年金のマーケティングに関する代表的な調査・教育機関であるLIMRAの調査による、個人生命保険販売業績の状況である。これによれば、2024年の個人生命保険販売(新契約年換算保険料ベース)は、対前年3%増となり、4年連続で過去最高を更新している2
【図表1】 米国 個人生命保険販売業績 
なお、(図表2)は、アリアンツが2025年5月に公表したデータに基づく、世界における2024年の収入保険料ランキングである。米国は2位以下を大きく引き離し、世界最大の生保市場となっている。
【図表2】2024年各国生保収入保険料(上位10か国)
 
2 (図表1)は、新契約年換算保険料(=販売された新契約の保険料を、一時払保険料は1/10して年換算した数値)、新契約高(=販売された新契約の死亡保険金額の合計額)、新契約件数(=販売された契約の件数)、という3つの指標で見た個人生命保険販売業績である。

2――米国生保加入率の推移・状況

2――米国生保加入率の推移・状況

これまでみてきたとおり、米国は世界最大の生保市場を抱え、個人生命保険の新契約販売業績も、4年連続で過去最高を更新するなど、堅調な状況が続いているが、加入率はどうなっているのだろうか。

(図表3)は、LIMRA調査による米国生保加入率3の推移を示したものである。2011年、2013年には6割を超えていたが、その後、右肩下がりで推移し、直近の状況では51%と、かろうじて半数を上回る水準にとどまっている。
【図表3】 米国における生保加入率推移
【図表4】生保加入率日米比較 (図表4)は、生保加入率について、日本と比較したものである4

日本の数値には、個人年金も含んでいるため、単純比較はできないが、日本の加入率はかなり高い状況となっている。

また、日米ともに、低減傾向にあるが、日本はこの12年で1%減少している一方で、米国は8%と、減少幅が大きい。
 
3 ここでの生保加入率をはじめ、LIMRA「2025 Insurance Barometer Study 」に掲載されている調査結果は、家庭内で財産決定権を持つ米国成人消費者5,283名からの回答結果に基づいている。
4 日本における生保加入率は、生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査」によるが、同センターでは、3年に1度行った調査結果を公表しており、比較にあたっては、日本の調査年と同じ年の米国での調査結果を抜粋した。

3――年齢層別にみた生保加入率の状況

3――年齢層別にみた生保加入率の状況

(図表5)は、LIMRA調査による年齢層別にみた生保加入率である。若年層が最も低く、年齢が上がる程、加入率も増加している。保障中核層と考えられる「29—44歳」、「45—60歳」よりも、61歳以上の方が加入率は高く、高齢層では貯蓄性の高い商品が選好されていると考えられる。
【図表5】米国における生保加入率(年齢層別)
【図表6】生保加入率(年齢層別)日米比較 (図表6)は、年齢層別の生保加入率について日米を比較したものである。

全体的に右肩上がりになっている点は共通している一方で、日本は全体的に高く、保障中核層の中心世代と考えられる「45-59歳」で、93.4%とピークを迎えている。
なお、日本の年齢別の生保加入率は、(図表7)のとおり、5歳ごとの幅にて、調査・公表している。(図表6)での日米対比にあたっては、わかりやすさの観点から、年齢のキザミを米国になるべく近い形になるよう筆者にて抜粋した5
【図表7】日本における生保加入率(年齢層別、個人年金含む)
また、(図表7)では、日本の年齢層別生保加入率について、より詳細に状況が確認できるが、「5歳幅の年齢層」でみた日本の生保加入率は、保障中核層より若干高齢と思われる「65~69歳」が95.2%と最も高くなっている。日本の数値は個人年金を含んでいる点が影響していると考えられる。また、35歳以降、79歳までの加入率は、9割近いか、それ以上となっており、かなり高い数値となっている。

上記のとおり、日本の生保加入率は米国に比べるとかなり高い水準にあることから、日本の消費者は一見、十分生保に加入しているようにもみえるが、果たしてそうだろうか。
【図表8】日米人口一人あたり保険金額(18歳以上) (図表8)は、日米それぞれの2023年保有契約高と、18歳以上人口とで算出した「日米における18歳以上人口一人あたりの保険金額」である6。一般的に死亡保障ニーズが小さくなる高齢者も含むため、低めの数値になると推測されるが、日米を比較するにあたり、大きな傾向は把握できるものと考えられる。

これによれば、日本は、米国よりも加入率が高いにもかかわらず、18以上人口一人あたりの保険金額は、米国の71.9%と、約7割の水準に過ぎず、加入金額が低いことを示している。

実際、日本では2024年における世帯主の死亡保険金額(平均額)は1,258万円、同年の「世帯主に万一のことがあった場合に(消費者が)必要と考える生活資金」6,283万円の20%にしか満たず、多くの世帯が死亡保障不足に陥っていると考えられる。スイス再保険も、2020年7月に、「日本の死亡保障ギャップはアジア先進市場の中で最も深刻」と指摘している7(後述の<参考>を参照されたい)。

以上、米国の加入率について、日本との比較も踏まえつつ、推移ならびに年齢別の状況をみてきた。加入率は低下傾向にあるものの、新契約の収入保険料は4年連続で過去最高を更新しており、高額契約が増加しているものと考えられる。

リムラでは、商品別の新契約販売実績や、米国消費者が加入している生保についての、個人保険か団体保険かという内訳、現在の生保加入状況では不足していると考えている人の割合等についても調査しており、これらについても、以降、順次、紹介することとしたい。

上記を含め、世界最大のマーケットを抱える米国の状況については、今後も引き続き、注視して参りたい。
 
5 (図表6)における日本の年齢層別生保加入率は、上記のとおり、米国の年齢のキザミになるべく近い数値となるよう、筆者にて調整している。例えば、「30-44歳」の数値(85.1%)は、「30~34歳」(80.3%)、「35~39歳」(88.3%)、「40~44歳」(86.8%)の平均値としている(「45-59歳」、「60-79歳」の数値も同様)。
6 保有契約高は、米国の最新データは2023年になるため、日本も2023年度の業績とし、米国は「Individual、Groupの合計」、日本は「個人保険、団体定期保険の合計」とした。換算レートは140.62円(2023年平均、日本銀行金融市場局)を使用した。
7 日本の死亡保障不足については、小著「日本の死亡保障不足は深刻なのか」『保険・年金フォーカス』(2024年9月24日)日本の死亡保障不足は深刻なのか-日本の死亡保障不足はアジア先進国中、最も深刻との指摘も-日本の生保市場の開拓余地は大きいのではないか-、「ますます拡大する日本の死亡保障不足」『保険・年金』(2025年3月25日)ますます拡大する日本の死亡保障不足-「2024(令和6)年度 生命保険に関する全国実態調査<速報版>」より-にて報告している。
 

<参考> 日本の多くの世帯では死亡保障不足が発生している
先述のとおり、日本における生保加入率は、米国と比較すると高い水準にあるものの、18歳以上人口一人あたりの保険金額でみると、日本は米国の約7割の水準に過ぎず、加入金額が少ないことを示している。

実際、「世帯主の死亡保険金額(平均額)」は、1997年と比べると半分以下の水準となっている(図表9)。

【図表9】世帯主の普通死亡保険金額

加えて、「世帯主に万一のことがあった場合に消費者が必要と考える生活資金」に対する「世帯主の死亡保険金額(平均額)」の割合(=充足率)も、1997年の38.4%から、2024年には20%に著しく減少しており、多くの世帯において死亡保障は不足しているものと考えられる(図表10)。

【図表10】「世帯主が万一の場合に消費者が必要と考える生活資金」に対する「世帯主の普通死亡保険金額」の割合(充足率)

また、スイス再保険も2020年9月に公表したリリースにおいて、日本の死亡保障不足は、アジア先進国の中でも最も深刻な水準にあることを指摘している。

日本の死亡保障不足についてのスイス再保険の指摘(要旨)

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年09月30日「保険・年金フォーカス」)

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保険研究部   上席研究員 兼 気候変動リサーチセンター 気候変動調査部長

有村 寛 (ありむら ひろし)

研究・専門分野
保険商品・制度

経歴
  • 【職歴】
    1989年 日本生命入社
    1990年 ニッセイ基礎研究所 総合研究部
    1995年以降、日本生命にて商品開発部、法人営業企画部(商品開発担当)、米国日本生命(出向)、企業保険数理室、ジャパン・アフィニティ・マーケティング(出向)、企業年金G等を経て、2021年 ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月より現職

    2023年~ 大阪経済大学経済学部非常勤講師

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