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ふるさと納税「お得競争」の終焉-ポイント還元の廃止で問われる「地域貢献」と「持続可能な制度」のこれから

生活研究部 准主任研究員 小口 裕
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5――利用者側から見た実態~社会課題への感度と「お得感」の接点
ふるさと納税利用者にとっては、単なる節税や返礼品にとどまらず、「社会的成果の可視化」が行動動機として働く可能性がある。これは、制度の持続可能性を考えるうえで重要な示唆といえる。
6――なぜ利用者から不満の声が上がったのか~やや唐突に映った「ポイント廃止」
総務省は以前から「過剰なポイント競争」を問題視しており、返礼割合を3割以下とする通知や地場産品活用の徹底を地方自治体に繰り返し要請してきた。今回の対策はその延長線上に位置づけられるものであるが、消費者の立場からみれば、法改正ではなく告示によって一律施行日を定め、急に導入された印象が強いと感じる向きもあり、やや唐突な廃止と映った可能性は否定できない。
また、本稿の分析結果から明らかになった制度の主な利用者、すなわち家計支出も大きい働き盛り世代にとって、「税控除+返礼+ポイント」という三本立ての仕組みは、高所得層ならではの税控除メリットも重なり、魅力を持っていたと考えられる。そのため、今回の改正は従来のメリットを削ぐものとして受け止められ、不満の声につながりやすかったとも考えられる。
さらに、ふるさと納税利用者は「教育」「エネルギー」「働きがい」「気候変動」といった社会課題への関心が高く、寄附を通じてこれらのテーマに貢献できることを意識している。そうした層にとって、「持続可能な制度変更」の主意が十分に伝わらず、一定の反発につながった可能性もある。
7――持続可能な制度に向けて~「お得競争」から「社会的リターン(インパクト)」重視への転換
たしかに、利用者は教育・エネルギー・気候変動などの社会課題への関心が高く、寄附金の使途先の傾向とも整合しており、地域の持続可能性に資する公的制度としての意義を裏付ける。
しかし同時に、寄附の高額化や、寄附総額の約46%が経費支出となっているという構造的な課題も存在しており、「地域応援」という理念との一定の乖離は否めない。また、当初は、幅広い層の利用が想定された制度だが、実際の利用者は高所得・管理職層などに偏る実態も確認された。
今後の焦点は、ポイント還元廃止の代わりに、利用者に「社会的成果」をいかに実感してもらうか、すなわち、金銭的還元から社会的リターンへと移行できるか、が問われてくると思われる。
たとえば教育分野であれば、実際にふるさと納税を通じて教育支援を受けた人数など、その具体的なインパクトを示すことは、利用者にとって寄附が「意味を持つ」体験となり得る。そのためには、若年層や中所得層が「応援したいから寄附する」と動機づけられるような情報や、自治体による魅力の発信力強化といったマーケティング・コミュニケーションの視点がより重要となると思われる。
ふるさと納税は、地域の持続可能性と消費者の持続可能性意識をつなぐ制度として依然として大きな意義を持つ。その進化の方向性は、消費者の「お得感」を超えて、「地方社会への社会的インパクトを共有できる仕組み」へと転換できるかにかかっていると言えるのではないだろうか。
(2025年09月17日「基礎研レポート」)

03-3512-1813
- 【経歴】
1997年~ 商社・電機・コンサルティング会社において電力・エネルギー事業、地方自治体の中心市街地活性化・商業まちづくり・観光振興事業に従事
2008年 株式会社日本リサーチセンター
2019年 株式会社プラグ
2024年7月~現在 ニッセイ基礎研究所
2022年~現在 多摩美術大学 非常勤講師(消費者行動論)
2021年~2024年 日経クロストレンド/日経デザイン アドバイザリーボード
2007年~2008年(一社)中小企業診断協会 東京支部三多摩支会理事
2007年~2008年 経済産業省 中心市街地活性化委員会 専門委員
【加入団体等】
・日本行動計量学会 会員
・日本マーケティング学会 会員
・生活経済学会 准会員
【学術研究実績】
「新しい社会サービスシステムの社会受容性評価手法の提案」(2024年 日本行動計量学会*)
「何がAIの社会受容性を決めるのか」(2023年 人工知能学会*)
「日本・米・欧州・中国のデータ市場ビジネスの動向」(2018年 電子情報通信学会*)
「企業間でのマーケティングデータによる共創的価値創出に向けた課題分析」(2018年 人工知能学会*)
「Webコミュニケーションによる消費者⾏動の理解」(2017年 日本マーケティング・サイエンス学会*)
「企業の社会貢献に対する消費者の認知構造に関する研究 」(2006年 日本消費者行動研究学会*)
*共同研究者・共同研究機関との共著
小口 裕のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
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