NEW
2025年09月17日

ふるさと納税「お得競争」の終焉-ポイント還元の廃止で問われる「地域貢献」と「持続可能な制度」のこれから

生活研究部 准主任研究員 小口 裕

文字サイズ

5――利用者側から見た実態~社会課題への感度と「お得感」の接点

1|制度化された仕組みだからこその利用率?
ふるさと納税の利用者を地域との関わりやSDGs意識の面からみるとその特徴がより鮮明になる。

まず地域との関わりでは、「地域の商品・サービスを通販などで購入している」点で、ふるさと納税利用者は19.7%と非利用者10.9%を大きく上回るのは自然な結果といえる。一方で、「地域企業を支援する企業の商品購入」は利用率に差がなく(利用者3.5%、非利用者3.6%)、同じ地域応援・支援のコンテクストにもかかわらず上乗せ効果は確認されていない。これは、制度化された仕組みである「ふるさと納税」だからこそ高い利用率につながっていることを示唆する結果である(数表9)。
数表9:ふるさと納税利用・非利用と他の地域貢献行動との関係
2|利用者層にみる「持続可能性に対する意識」の高さ
また、社会課題への関心をみると、ふるさと納税利用者は非利用者を明確に上回る。

「質の高い教育をみんなに」「エネルギーをみんなに(持続可能なエネルギー利用)」「働きがいも経済成長も」「気候変動に具体的な対策を」といったSDGs目標に対する興味・関心や日常行動率において利用者は非利用者を5~9ポイント上回り、有意差が確認されている(数表10)。
数表10:ふるさと納税利用・非利用と意識・行動しているSDGs目標(有意差の見られた項目)
すなわち利用者は、教育・エネルギー・気候変動といった社会基盤型課題への関心が高く、一部は行動にも結び付いている層であると言える。この関心と「ふるさと納税」の利用や使途が接続している点は注目すべきであろう。実際、ふるさと納税の使途別受入額でも「子ども・子育て」「教育・人づくり」といった社会基盤テーマが大きな割合を占めている。

ふるさと納税利用者にとっては、単なる節税や返礼品にとどまらず、「社会的成果の可視化」が行動動機として働く可能性がある。これは、制度の持続可能性を考えるうえで重要な示唆といえる。

6――なぜ利用者から不満の声が上がったのか

6――なぜ利用者から不満の声が上がったのか~やや唐突に映った「ポイント廃止」

前述のとおり、「ふるさと納税制度におけるポイント還元の廃止」に対する事業者や利用者の受け止めは分かれている。事業者からは「ポイント禁止は消費者の選択肢を奪い、経済効果を縮小させる」との批判があり、利用者からも「お得感の喪失」に対する素朴な不満の声もある。

総務省は以前から「過剰なポイント競争」を問題視しており、返礼割合を3割以下とする通知や地場産品活用の徹底を地方自治体に繰り返し要請してきた。今回の対策はその延長線上に位置づけられるものであるが、消費者の立場からみれば、法改正ではなく告示によって一律施行日を定め、急に導入された印象が強いと感じる向きもあり、やや唐突な廃止と映った可能性は否定できない。

また、本稿の分析結果から明らかになった制度の主な利用者、すなわち家計支出も大きい働き盛り世代にとって、「税控除+返礼+ポイント」という三本立ての仕組みは、高所得層ならではの税控除メリットも重なり、魅力を持っていたと考えられる。そのため、今回の改正は従来のメリットを削ぐものとして受け止められ、不満の声につながりやすかったとも考えられる。

さらに、ふるさと納税利用者は「教育」「エネルギー」「働きがい」「気候変動」といった社会課題への関心が高く、寄附を通じてこれらのテーマに貢献できることを意識している。そうした層にとって、「持続可能な制度変更」の主意が十分に伝わらず、一定の反発につながった可能性もある。

7――持続可能な制度に向けて

7――持続可能な制度に向けて~「お得競争」から「社会的リターン(インパクト)」重視への転換

今回のふるさと納税制度の見直しは、自治体の実収確保と制度趣旨である「地域支援」への回帰を目的とした持続可能性を確保するための基盤整備、すなわち、制度を「消費者インセンティブ競争」から本来の「地域価値の訴求」へと転換させる試みとも言えるだろう。

たしかに、利用者は教育・エネルギー・気候変動などの社会課題への関心が高く、寄附金の使途先の傾向とも整合しており、地域の持続可能性に資する公的制度としての意義を裏付ける。

しかし同時に、寄附の高額化や、寄附総額の約46%が経費支出となっているという構造的な課題も存在しており、「地域応援」という理念との一定の乖離は否めない。また、当初は、幅広い層の利用が想定された制度だが、実際の利用者は高所得・管理職層などに偏る実態も確認された。

今後の焦点は、ポイント還元廃止の代わりに、利用者に「社会的成果」をいかに実感してもらうか、すなわち、金銭的還元から社会的リターンへと移行できるか、が問われてくると思われる。  

たとえば教育分野であれば、実際にふるさと納税を通じて教育支援を受けた人数など、その具体的なインパクトを示すことは、利用者にとって寄附が「意味を持つ」体験となり得る。そのためには、若年層や中所得層が「応援したいから寄附する」と動機づけられるような情報や、自治体による魅力の発信力強化といったマーケティング・コミュニケーションの視点がより重要となると思われる。

ふるさと納税は、地域の持続可能性と消費者の持続可能性意識をつなぐ制度として依然として大きな意義を持つ。その進化の方向性は、消費者の「お得感」を超えて、「地方社会への社会的インパクトを共有できる仕組み」へと転換できるかにかかっていると言えるのではないだろうか。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年09月17日「基礎研レポート」)

Xでシェアする Facebookでシェアする

生活研究部   准主任研究員

小口 裕 (おぐち ゆたか)

研究・専門分野
消費者行動(特に、エシカル消費、サステナブル・マーケティング)、地方創生(地方創生SDGsと持続可能な地域づくり)

経歴
  • 【経歴】
    1997年~ 商社・電機・コンサルティング会社において電力・エネルギー事業、地方自治体の中心市街地活性化・商業まちづくり・観光振興事業に従事

    2008年 株式会社日本リサーチセンター
    2019年 株式会社プラグ
    2024年7月~現在 ニッセイ基礎研究所

    2022年~現在 多摩美術大学 非常勤講師(消費者行動論)
    2021年~2024年 日経クロストレンド/日経デザイン アドバイザリーボード
    2007年~2008年(一社)中小企業診断協会 東京支部三多摩支会理事
    2007年~2008年 経済産業省 中心市街地活性化委員会 専門委員

    【加入団体等】
     ・日本行動計量学会 会員
     ・日本マーケティング学会 会員
     ・生活経済学会 准会員

    【学術研究実績】
    「新しい社会サービスシステムの社会受容性評価手法の提案」(2024年 日本行動計量学会*)
    「何がAIの社会受容性を決めるのか」(2023年 人工知能学会*)
    「日本・米・欧州・中国のデータ市場ビジネスの動向」(2018年 電子情報通信学会*)
    「企業間でのマーケティングデータによる共創的価値創出に向けた課題分析」(2018年 人工知能学会*)
    「Webコミュニケーションによる消費者⾏動の理解」(2017年 日本マーケティング・サイエンス学会*)
    「企業の社会貢献に対する消費者の認知構造に関する研究 」(2006年 日本消費者行動研究学会*)

    *共同研究者・共同研究機関との共著

週間アクセスランキング

ピックアップ

レポート紹介

お知らせ

お知らせ一覧

【ふるさと納税「お得競争」の終焉-ポイント還元の廃止で問われる「地域貢献」と「持続可能な制度」のこれから】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

ふるさと納税「お得競争」の終焉-ポイント還元の廃止で問われる「地域貢献」と「持続可能な制度」のこれからのレポート Topへ