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2025年09月17日

ふるさと納税「お得競争」の終焉-ポイント還元の廃止で問われる「地域貢献」と「持続可能な制度」のこれから

生活研究部 准主任研究員 小口 裕

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2|受入額の傾向~「子ども・子育て」「教育・人づくり」といった社会基盤分野に集まる傾向
次に、税の使途別にみると、「子ども・子育て」「教育・人づくり」といった社会基盤型の分野に受入額が集まる傾向が見られる。これは本稿後半の調査分析で示す「利用者が教育・エネルギー・気候変動への関心を強く持つ」という結果とも整合している。寄付が政策的テーマに集まる傾向は、制度の公益性を裏付ける一方で、利用者構成やニーズの偏りを示唆しているともいえる(数表2)。
数表2:ふるさと納税/使途別受入額(上位5領域)(2024年度)
また、地域別にみると、北海道・宮崎・福岡などで受入額が多く、地域間の偏在もみられる。これは自治体間の競争が制度拡大を後押しした結果とも言える(数表3)。
数表3:ふるさと納税/都道府県別受入額(上位5道・県)(2024年度)
さらに、控除額と適用者数の推移をみると、2012年の制度改正以降に急拡大し、2024年には控除額8,710億円、適用者数1,080万人に達している。特に近年では、2022年から2024年にかけて適用者数が+187万人だったのに対し、控除額は+約1,900億円と伸びが大きい。この傾向は1人あたり寄付額が上昇し、高額寄付層の存在感が強まっていることが伺える結果である(数表4)。
数表4:ふるさと納税に係る住民税控除額・控除適用者数(過去10年間2015年~2024年)
3|事業経費の内訳~経費は寄付額46.4%、自治体実収は53.6%にとどまる
一方で、募集経費の内訳をみると、返礼品費用25.2%、事務費13.2%、ポータル費用13.0%など、寄付額の46.4%が経費となり、自治体の実収は53.6%にとどまっている。つまり、利用者の支出のほぼ半分が「地域財源」以外に流れている構造となっている(数表5)。
数表5:ふるさと納税/募集に要した費用(経費)(全国合計)(2024年度)
このように、ふるさと納税制度は順調に拡大してきたものの、近年は新規層の裾野拡大よりも高所得層による手厚い寄付が目立ち、地域や費用構造の偏りを生じさせていた側面は否めない。

4――ふるさと納税の実態

4――ふるさと納税の実態~利用者側の視点

次に、ふるさと納税制度を利用者の視点から、社会調査データを通して確認してみたい。

なお、本稿のテーマは制度に関する「ポイント還元」に関わるため、アンケート回答によるポイント獲得がインセンティブとなる「インターネット調査パネルモニター対象の調査」では回答にバイアスが生じる可能性がある。そのため本稿の分析では、総合調査機関である日本リサーチセンターが2025年7月に実施した社会調査(訪問留め置き法による全国調査)を用いている。
1|利用者側の視点から見た実態~支えるのは「高所得×働き盛り世代」
調査結果を見ると、「幅広い国民が地域応援に参加する仕組み」という制度の理念に対し、実際には所得水準や職業属性による偏りが存在することが明らかとなる。

まず年齢別の利用率では、30代23.1%、40代26.1%、50代31.2%と働き盛り世代で高く、20代12.8%や70代6.3%といった若年層・高齢層では低調である(数表6)。
数表6:年代層別のふるさと納税利用率
職業別にみると、管理職が56.9%と突出し、自由業33.3%、事務・技術職26.4%が続く。一方、自営商工業12.7%、学生11.6%、無職6.7%と低水準にとどまる(数表7)。
数表7:職業・就業状況層別のふるさと納税利用率
世帯年収別でも差が明確で、年収1,200万円以上では54.0%が利用しているのに対し、年収300万円未満では5.3%に過ぎない(数表8)。
数表8:世帯年収層別のふるさと納税利用率
この結果から浮かび上がるのは「高所得×管理職・専門職×働き盛り世代」という利用者像である。制度改正の狙いである「高所得層への利用偏在の是正」は、この調査結果とも整合する。   

背景には、税控除による便益の大きさに加え、「社会貢献と自己便益の両立」「透明性や対価の可視化への安心感」といった制度特性が、この層の価値観と親和していたことがあるとも考えられる。

ニッセイ基礎研究所の2024年調査3でも、高所得層ほど持続可能性全般への意識や行動率が高いことが示されており、この傾向を裏付けている。

また、数表には挙げていないが、地域別では中部・北陸(26.9%)、近畿(21.9%)、関東(21.1%)と、大都市圏を抱える地域の利用率が全国平均を上回っている。すなわち「大都市圏やその周辺に居住する高所得層・管理職」という利用者像がより鮮明になる。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年09月17日「基礎研レポート」)

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生活研究部   准主任研究員

小口 裕 (おぐち ゆたか)

研究・専門分野
消費者行動(特に、エシカル消費、サステナブル・マーケティング)、地方創生(地方創生SDGsと持続可能な地域づくり)

経歴
  • 【経歴】
    1997年~ 商社・電機・コンサルティング会社において電力・エネルギー事業、地方自治体の中心市街地活性化・商業まちづくり・観光振興事業に従事

    2008年 株式会社日本リサーチセンター
    2019年 株式会社プラグ
    2024年7月~現在 ニッセイ基礎研究所

    2022年~現在 多摩美術大学 非常勤講師(消費者行動論)
    2021年~2024年 日経クロストレンド/日経デザイン アドバイザリーボード
    2007年~2008年(一社)中小企業診断協会 東京支部三多摩支会理事
    2007年~2008年 経済産業省 中心市街地活性化委員会 専門委員

    【加入団体等】
     ・日本行動計量学会 会員
     ・日本マーケティング学会 会員
     ・生活経済学会 准会員

    【学術研究実績】
    「新しい社会サービスシステムの社会受容性評価手法の提案」(2024年 日本行動計量学会*)
    「何がAIの社会受容性を決めるのか」(2023年 人工知能学会*)
    「日本・米・欧州・中国のデータ市場ビジネスの動向」(2018年 電子情報通信学会*)
    「企業間でのマーケティングデータによる共創的価値創出に向けた課題分析」(2018年 人工知能学会*)
    「Webコミュニケーションによる消費者⾏動の理解」(2017年 日本マーケティング・サイエンス学会*)
    「企業の社会貢献に対する消費者の認知構造に関する研究 」(2006年 日本消費者行動研究学会*)

    *共同研究者・共同研究機関との共著

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