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1.結果の概要:政策金利の据え置きを決定
【金融政策決定内容】
・政策金利の据え置きを決定
【記者会見での発言(趣旨)】
・見通しは成長率を25年1.2%、26年1.0%、27年1.3%と予想(25年上方・26年下方修正)
(前回6月は25年0.9%、26年1.1%、27年1.3%)
・インフレ率を25年2.1%、26年1.7%、27年1.9%と予想(25・26年上方・27年下方修正)
(前回6月は25年2.0%、26年1.6%、27年2.0%)
・コアインフレ率を25年2.4%、26年1.9%、27年1.8%と予想(27年を下方修正)
(前回6月は25年2.4%、26年1.9%、27年1.9%)
・ディスインフレ過程は終了した
・今回の決定は全会一致だった
・成長率に対するリスクはより均衡している
・ユーロ圏の国債市場は秩序だっており、
2.金融政策の評価:7月会合に続き全会一致での据え置き決定
今回は会合にあわせてスタッフによる見通しも公表された。上方修正された年と下方修正された年が混在しているが、インフレ率見通しついては声明文で6月の見通しとほぼ変わっていないと評価している。なお、成長率については米国との貿易合意などを受けて、声明文のリスク評価が「下方に傾いている」から「より均衡している」に修正された。一方で、リスクは消滅しておらず、政策決定は引き続きデータ依存で、会合毎のアプローチで実施することなどが強調された。
質疑応答では、追加利下げの有無・条件やフランスの不安的な政局を受けて、長期金利に関する質問が目立った。追加利下げに関しては、ディスインフレ過程は終了し、現状が「良い位置にある」との評価を維持した上で、会合毎のデータ依存アプローチを行うことを強調した。また、長期金利については、ユーロ圏の国債市場は秩序だっており、流動性も良好で円滑に機能していると評価し、今回の会合では分断化防止策であるTPIについての議論はしていないと回答している
不確実性は引き続き存在するものの、現状の政策金利は概ね目標に沿った適切な金利水準だと評価していると見られることから、ECBの見通しに沿った推移が続く場合は、金利を変更する動機に乏しく、引き続き様子見姿勢が継続する可能性が高いと考えられる。
3.声明の概要(金融政策の方針)
- 理事会は、本日、3つの主要政策金利を維持することを決定した
- インフレ率は現在、2%の中期目標付近にあり、理事会のインフレ見通しの評価は概ね不変である
- 新しいEUBスタッフ見通しは、6月の見通しと類似したインフレの様相を示している
- 総合インフレ率は年平均で25年2.1%、26年1.7%、27年1.9%と見ている
- エネルギーと食料を除くインフレ率は年平均で25年2.4%、26年1.9%、27年1.8%と予想する
- 経済成長率見通しは25年1.2%と6月の0.9%予想から上方修正した
- 26年の見通しは若干引き下げて1.0%とする一方、27年の見通しは1.3%で不変である
- 理事会は、確実にインフレ率を中期的に2%目標で安定させるよう決意している
- 理事会は適切な金融政策姿勢を決定するために引き続きデータ依存で、会合毎のアプローチを行う
- 特に金利の決定は経済・金融データに照らしたインフレ見通しとそれを取り巻くリスク、基調的インフレ率の動向、金融政策の伝達の強さへの評価に基づいて行う
- 理事会は、特定の金利経路を事前に確約しない
(政策金利、フォワードガイダンス)
- 理事会は3つの主要政策金利を維持することを決定した(金利の据え置きを決定)
- 預金ファシリティ金利:2.00%
- 主要リファイナンスオペ(MRO)金利:2.15%
- 限界貸出ファシリティ金利:2.40%
(資産購入プログラム:APP、パンデミック緊急資産購入プログラム:PEPP)
- APPの元本償還分の再投資(変更なし)
- APPおよびPEPP残高は償還分を再投資しておらず、秩序だった予測可能なペース(measured and predictable pace)で削減している
(その他)
- 金融政策のスタンスとTPIについて(変更なし)
- インフレが2%の中期目標で安定し、金融政策の円滑な伝達機能が維持されるよう、すべての手段を調整する準備がある
- 加えて、伝達保護措置(TPI)は、ユーロ圏加盟国に対する金融政策伝達への深刻な脅威となる不当で(unwarranted)、無秩序な(disorderly)市場変動に対抗するために利用可能であり、理事会の物価安定責務の達成をより効果的にするだろう
4.冒頭説明の概要
(冒頭説明)
- (声明文冒頭に記載の政策姿勢への言及)
- 経済とインフレ率の状況をどう見ているかの詳細と金融・通貨環境への評価について述べたい
(経済活動)
- 経済は域内需要の強靭さのため、上半期に累積で0.7%成長した
- 四半期のパターンでは1-3月期に強い成長、4-6月期に弱い成長となり、部分的には関税引き上げ観測を受けた貿易の前倒しとその効果の逆転を反映している
- サーベイ指標は製造業とサービス業双方で成長が続いており、経済の基調的な勢いが良好だという兆しとなっている
- 労働需要は軟化しているが、労働市場は引き続き強さの源であり、6月の失業率は6.2%となった
- 時間の経過とともにこれは消費者支出を押し上げ、特にスタッフ見通しで予想されているように、人々は所得の貯蓄割合を減らすだろう
- 消費者支出と投資は我々の過去の利下げが金融調達環境に波及することからも恩恵を受けるだろう
- インフラと防衛への大規模な政府支出も投資の下支えとなるだろう
- 高い関税、ユーロ高、世界的な競争激化は今年の残りの成長を抑制すると見られる
- しかし、成長に対するこれらの向かい風の効果は来年には解消されるだろう
- 最近の貿易合意は不確実性をいくぶん軽減する一方で、世界的な政策環境の変化による全般的な影響は時間をかけて明らかにされるだろう
- 理事会は、現在の地政学的環境において、ユーロ圏とその経済を早急に強化することが重要だと考えている
- 財政・構造政策は、経済をより生産的に、競争力を持ち、強靭化する必要がある
- マリオ・ドラギ氏の欧州の競争力の将来に関する報告書の公表から1年が経過し、欧州委員会のロードマップに沿って、さらに具体的な行動とともにその提言を追求し、実行を加速させることが引き続き不可欠である
- 政府は、公的資金調達の持続可能性を確保し、成長強化のための構造改革と戦略投資を優先する必要がある
- 野心的な予定表の貯蓄・投資同盟、銀行同盟の完成、潜在的なデジタルユーロ導入の法律枠組みの迅速な作成も重要である
(インフレ)
- インフレ率は引き続き我々の目標に近く、7月の2.0%から8月には2.1%に微増した
- エネルギーインフレは7月の▲2.4%から▲1.9%となり、食料インフレは3.3%から3.2%に低下した
- エネルギーと食料を除くインフレ率は2.3%で変わらなかった
- サービスインフレは7月の3.2%から3.1%に微減し、財インフレは0.8%で変わらなかった
- 基調的なインフレ指標は我々の2%の中期目標と整合的である
- 1人当たりの雇用者報酬は前年比で昨年4-6月期の4.8%および1-3月期の4.0%から4-6月期には3.9%まで低下した
- フォワードルッキングな指標であるECBの賃金トラッカーや賃金期待の調査は、賃金上昇率がさらに鈍化することを示唆している
- これは、生産性上昇と相まって、利益が低水準から回復するなかでも、域内の価格上昇圧力が生じないよう防ぐ助けとなるだろう
- 将来については、スタッフ見通しは食料インフレが25年には2.9%、26年・27年には2.3%に低下すると見ている
- エネルギーインフレは引き続き変動が大きいが、見通し期間においては、EUETS(EU排出権取引制度)2が27年に開始することも部分的に反映して、上昇すると予想される
- エネルギーと食料を除くインフレ率は、ユーロ高と労働コスト圧力の低下を受けて、25年2.4%、26年1.9%、27年1.8%と低下すると予想する
- 多くの長期のインフレ期待は引き続き2%近くにあり、インフレ率を我々の目標付近で安定化させる助けになる
(リスク評価)
- 成長率に対するリスクはより均衡している
- 最近の貿易合意は不確実性を軽減したが、貿易関係の悪化が再燃すれば、輸出は鈍化し、投資・消費は抑制されるだろう
- 金融市場の景況感悪化は資金調達環境の厳格化をもたらす可能性があり、リスク回避姿勢を強め、成長率を弱めるだろう
- ロシアの正当化されないウクライナとの戦争や、中東での悲劇的な紛争のような地政学的な緊張は引き続き主要な不確実性となっている
- 対照的に予想以上の防衛やインフラへの支出増加は、生産性向上改革とともに、成長を押し上げる可能性がある
- 企業景況感の改善が民間投資を刺激する可能性もある
- 地政学的な緊張の解消、あるいは残存する貿易紛争の解決が予想以上に迅速となれば、景況感が上向き経済活動か活発化する可能性がある
- インフレ率を取り巻く見通しは、依然として世界的な貿易政策の変化が激しい環境のため、通常よりも不確実性が大きい
- ユーロ高によりインフレ率が予想以上に低下する可能性がある
- 加えて、仮に関税引き上げによる、ユーロ圏の輸出需要の低下や、生産過剰となった国々が輸出先をユーロ圏に変更することで、インフレ率が低下する可能性がある
- 貿易の緊張は金融市場の変動やリスク回避姿勢を強めるため、内需の重しとなり、低インフレをもたらす可能性がある
- 対照的に、世界的な供給網の分断化は輸入物価の押し上げや、域内経済の供給制約を助長させ、インフレ率を上昇させる可能性がある
- 防衛とインフラ支出の増加もまた中期的なインフレ率を上昇させる可能性がある
- 異常気象や気候変動危機がより広がることで、食料品価格が予想以上に上昇する可能性もある
(金融・通貨環境)
- 前回の我々の会合以降、短期金利は上昇する一方で、長期金利は総じて変わらなかった。
- しかしながら、我々の利下げは引き続き7月の企業の借入コストを低下させている
- 企業向け新規の貸出金利は6月の3.6%から7月には3.5%に低下した
- 市場ベースでの負債発行コストは3.5%で変更がなかった
- 企業向け貸出は2.8%成長し、6月よりもやや強く、社債発行残高は3.4%から4.1%に上昇した
- 平均の新規住宅ローン貸出金利は7月に3.3%で変わらず、住宅ローン残高は2.2%から2.4%に上昇した
(結論)
- (声明文冒頭に記載の決定に再言及)
(2025年09月12日「経済・金融フラッシュ」)
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03-3512-1818
- 【職歴】
2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
2009年 日本経済研究センターへ派遣
2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
2014年 同、米国経済担当
2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
2020年 ニッセイ基礎研究所
2023年より現職
・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
アドバイザー(2024年4月~)
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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