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2025年09月09日

年金制度は専業主婦向けに設計!?分布推計で改正の詳細な影響把握を~年金改革ウォッチ 2025年9月号

保険研究部 主席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査部長 兼任 中嶋 邦夫

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1 ―― 先月までの動き

先月は、年金改革に関係する審議会等が開催されなかった。

2 ―― ポイント解説

2 ―― ポイント解説:年金額の分布推計が登場した経緯・内容・課題

7月31日の年金数理部会では、2024年に公表された将来見通しの推計方法が報告された。本稿では、2024年の将来見通しで初めて公表された年金額の分布推計について、登場した経緯と公表された内容を確認し、今後の課題を考察する。
図表1 1985年改正前後の目安となる年金額 1|経緯:平均的な専業主婦世帯に加え、2004年から所得別なども公表。しかしボリューム感が不明
「年金制度は専業主婦世帯を念頭に設計されている」や「専業主婦世帯は減っており、年金制度は時代に合わなくなっている」という意見を目にする機会がある。確かに、1985年の改正以前は会社員の妻は夫の年金で暮らすことが想定された仕組みになっており、その制度の下で平均的な給与水準の人が高齢期に受け取る年金額が制度改正の目安とされていた。1985年の改正では、夫の年金の一部が妻名義の年金として分割され、制度改正の目安となる年金額は改正前の目安に相当する「夫婦2人分の基礎年金と平均的な給与水準の夫の厚生年金の合計」となった(図表1)。2004年の制度改正では、それまで目安とされていた年金額や給付水準(所得代替率)の計算方法が法定された。
図表2 世帯1人当たり所得別の年金額の公表例 その一方で、2001年に開催された厚生労働省の検討会では標準的な年金の考え方が議論され*1、2004年の改正に向けた審議会では女性が就労するようになっている実態を踏まえて複数の世帯類型で給付水準を示すことが妥当とされた*2。これを受けて、2004年以降の将来見通しでは世帯1人当たり所得や世帯類型の例に対応した年金額が示されている(図表2)。

しかし、これらは仮定された所得や加入期間に基づく年金額であるため、低年金者の割合などのボリューム感が分からないという問題があった。そこで、年金数理部会は2016年に年金額の分布推計について必要性を指摘し*3、2020年の改正に向けた国会審議では同指摘の実現について政府に検討を求める附帯決議が採択された*4
 
*1 女性のライフスタイルの変化等に対応した年金の在り方に関する検討会(2001)「報告書~女性自身の貢献がみのる年金制度」p.25-29,78
*2 社会保障審議会年金部会(2003)「年金制度改正に関する意見」p.26
*3 社会保障審議会年金数理部会「平成26年財政検証・財政再計算に基づく公的年金制度の財政検証(ピアレビュー)」、p.218。
*4 社会保障審議会年金部会(2024.7.3) 資料4-2 表紙。
図表3 厚生年金加入期間の分布 2|内容:就業進展で女性の年金額が充実
2024年に初めて公表された分布推計では、(1)現役時代の加入類型、(2)厚生年金の加入期間、(3)65歳時点の年金額について、性・世代別の比率や平均値が示された。また、当時(改正前)の制度に基づく推計に加えて制度改正の素案(オプション試算)を反映した推計も示され、今年5月には国会へ提出された改正法案を反映した推計も示された。
図表4 65歳時点の年金額の分布 その結果、(1)改正前の制度でも若い世代(特に女性)ほど厚生年金の加入期間が長期化する(図表3)、(2)厚生年金の大幅な適用拡大を行うと女性を中心に低年金者の比率が下がる(図表4)、(3)成立した制度改正によって将来の女性の平均年金額の伸びが経済全体の実質賃金の伸びを大きく上回る(図表5)、などの傾向が明らかになった。
図表5 65歳時点の平均年金額の伸び 3|課題:詳細結果や研究用データの公開
従来も専業主婦世帯以外が考慮されていたが、分布推計では様々なパターンの年金額をボリューム感とともに把握できるため意義が大きい。ただし、これまでに公開された分布推計の結果は、全体的な傾向の情報にとどまっている。制度改正(案)の対象者に絞った詳細な結果などが示されると、今後の制度改正の議論により有用だろう。

また、今回の推計は、将来の個人の就労や給与の状況を推計する枠組みとして、年金以外での活用も期待される。現在はプログラムの実行に必要なデータの一部が個人情報への配慮から公開されていないが、公的統計の個票と同様の制約の下、学術研究などで活用可能になることを期待したい。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年09月09日「保険・年金フォーカス」)

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保険研究部   主席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査部長 兼任

中嶋 邦夫 (なかしま くにお)

研究・専門分野
公的年金財政、年金制度全般、家計貯蓄行動

経歴
  • 【職歴】
     1995年 日本生命保険相互会社入社
     2001年 日本経済研究センター(委託研究生)
     2002年 ニッセイ基礎研究所(現在に至る)
    (2007年 東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了)

    【社外委員等】
     ・厚生労働省 年金局 年金調査員 (2010~2011年度)
     ・参議院 厚生労働委員会調査室 客員調査員 (2011~2012年度)
     ・厚生労働省 ねんきん定期便・ねんきんネット・年金通帳等に関する検討会 委員 (2011年度)
     ・生命保険経営学会 編集委員 (2014年~)
     ・国家公務員共済組合連合会 資産運用委員会 委員 (2023年度~)

    【加入団体等】
     ・生活経済学会、日本財政学会、ほか
     ・博士(経済学)

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