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2025年07月01日

日銀短観(6月調査)~トランプ関税の悪影響は今のところ限定的だが、早期の利上げには直結せず

経済研究部 主席エコノミスト 上野 剛志

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5.設備・雇用:設備投資計画は今のところ堅調維持、人手不足感は若干緩和

生産・営業用設備判断DI(「過剰」-「不足」)は、全規模全産業で前回から横ばいの▲2となった。設備の需給は若干不足気味ながら、概ね均衡圏での推移が続いている。

一方、雇用人員判断DI(「過剰」-「不足」)は、全規模全産業で前回から2ポイント上昇の▲35となった。大企業で横ばいとなる一方、中小企業で2ポイント上昇した。同DIのマイナス幅は依然として大幅で、人手不足感の極めて強い状況が続いているものの、不足感が若干緩和した。
 
先行きの見通し(全規模全産業)は、設備判断DIが▲4、雇用人員判断DIが▲39とそれぞれ、2ポイント、4ポイントの低下が見込まれている。とりわけ中小企業では、雇用人員判断DIの低下幅が5ポイントと大きい。中小企業では人材確保に対する懸念が強いことが、先行きの人手不足感の高まりという形で表れているものとみられる。
(図表11)生産・営業用設備判断と雇用人員判断DI(全規模・全産業)
2024年度の設備投資(実績・全規模)は、前年比7.5%増と前回3月調査(8.1%増)からやや下方修正された。

例年、6月調査(実績)では、大企業において下方修正が入ることで、全体として下方修正される傾向がある4

一方、2025年度の設備投資計画(全規模全産業)は、2024年度実績比で6.7%増と前回調査の0.1%増から大きく上方修正された。例年、設備投資計画は計画の策定進捗と前年度実績の下方修正に伴って6月調査で大きく上方修正される傾向があるため、上方修正自体に大きな意味合いはないものの、今回の上方修正幅は6.6%ポイントと例年5をやや上回っており、堅調と言える。

深刻化している建設領域での人手不足やコスト高に加え、トランプ関税による収益圧迫懸念と不確実性の高まりは設備投資計画にとって抑制に働いている可能性がある。ただし、人手不足を背景とする省力化や脱炭素、DXの推進など構造的な課題への対処に向けた投資需要が追い風となったと考えられる。トランプ関税についても情勢が極めて流動的であるだけに様子見地合いになっているとみられ、投資計画の取り下げの動きが広がるまでにはまだ至っていないようだ。
 
2024年度設備投資計画(全規模全産業で前年比7.5%増)は市場予想(QUICK 集計6.8%増、当社予想は7.0%増)を上回る結果だった。また、2025年度設備投資計画(全規模全産業で前年比6.7%増)も市場予想(QUICK 集計4.5%増、当社予想は4.0%増)を上回る結果だった。
 
2024年度のソフトウェア投資(実績・全規模全産業)は前年比4.2%増(前回は7.4%増)へと下方修正された。例年、6月調査(実績)では下方修正される傾向が強く、今回も同様となった。

一方、2025年度のソフトウェア投資計画(全規模全産業)は前年比12.4%増と前回時点の4.3%増から大きく上方修正された。近年と比べると伸び率の水準はやや低めながら、省力化等に向けてソフトウェア投資を積極的に行う姿勢は維持されている。
(図表12)設備投資計画とソフトウェア投資計画
(図表13)設備投資計画(全規模・全産業)/(図表14)設備投資計画(大企業・全産業)
(図表15)ソフトウェア投資計画(全規模・全産業)
 
4 直近10年間(2014~23年度)における6月調査(実績)での修正幅は平均で▲2.1%ポイント。
5 直近10年間(2015~24年度)における6月調査での修正幅は平均で+6.4%ポイント

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年07月01日「Weekly エコノミスト・レター」)

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経済研究部   主席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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