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2025年05月19日

マレーシア経済:25年1-3月期の成長率は前年同期比+4.4%~鉱業輸出が減少、3四半期連続の景気減速に

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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2025年1-3月期の実質GDP成長率は前年同期比4.4%増1(前期:同4.9%増)と低下し、市場予想2(同4.5%増)を下回り、4月にマレーシア統計局が発表した暫定値(同4.4%)と一致した(図表1)。

1-3月期の実質GDPを需要項目別に見ると、主に輸出の鈍化が成長率低下に繋がった。

民間消費は前年同期比5.0%増となり、前期の同5.3%増から小幅に低下した。他方、政府消費は前年同期比4.3%増(前期:同4.0%増)と上昇した。

総固定資本形成は同9.7%増(前期:同11.8%増)と低下した。建設投資が同13.4%増(前期:同19.5%増)と増勢が鈍化した一方、設備投資が同5.4%増(前期:同4.1%増)と改善した。なお、投資を公共部門と民間部門に分けてみると、全体の4分の3を占める民間部門が同9.2%増(前期:同12.7%増)が低下したが、公共部門が同11.6%増(前期:同10.0%増)と上昇した。

純輸出は実質GDP成長率への寄与度が+0.8%ポイント(前期:+2.0%ポイント)と縮小した。まず財・サービス輸出は同4.1%増(前期:同8.7%増)と低下した。輸出の内訳を見ると、財貨輸出(同1.6%増)と失速し、サービス輸出(同16.9%増)は二桁成長だった。また財・サービス輸入も同3.1%増(前期:同5.9%増)と低下して輸出を下回る伸びとなった。
(図表1)マレーシアの実質GDP成長率(需要側)/(図表2)マレーシアの実質GDP成長率(供給側)
まずGDPの6割弱を占める第三次産は前年同期比5.0%増(前期:同5.5%増)と低下した。宿泊業(同14.2%増)をはじめとして運輸・倉庫(同9.5%増)や不動産・ビジネスサービス(同12.4%増)、食料・飲料(同6.9%増)、政府サービス(同5.9%増)が堅調に推移した。一方、金融・保険(同2.8%増)、情報・通信(同3.6%増)、卸売・小売(同4.3%増)は相対的に低い伸びとなった。

第二次産業は前年同期比3.5%増(前期:同4.1%増)と低下した。まず製造業は同4.1%増(前期:同4.2%増)と小幅に低下した。内訳を見ると、輸送用機器(同10.3%減)や石油製品(同0.3%増)が低迷した。一方で動植物性油脂(同12.6%増)が好調だったほか、主力の電子機器(同8.3%増)や食品加工(同7.7%増)、金属製品(同5.0%増)、化学製品(同4.3%増)は相対的に高めの成長だった。また建設業は同14.2%増(前期:同20.7%増)と高成長を維持した。鉱業は同2.7%減(前期:同0.7%減)と低迷した。天然ガス(同2.2%減)と原油(同4.6%減)がそれぞれ減少した。

第一次産業は同0.6%増(前期:同0.7%減)となり小幅に増加した。漁業・養殖業(同7.9%増)、その他農作物(同2.2%増)、畜産(同1.9%増)が順調に増加したが、パーム油(同3.1%減)が低迷した。
 
1 2025年5月16日、マレーシア中央銀行が2025年1-3月期の国内総生産(GDP)を公表した。
2 Bloomberg調査

1-3月期GDPの評価と先行きのポイント

マレーシア経済は昨年、内外需の改善により通年の成長率が前年同期比+5.1%(2023年:同3.6%)と回復したが、今回発表された2025年1-3月期の成長率は前年同期比+4.4%となり、3四半期連続で減速した。

1-3月期は輸出鈍化が成長率低下に繋がった。まず財・サービス輸出は同+4.1%となり、10-12月期の同+8.7%増から鈍化した。電気・電子機器の出荷は依然好調で、またインバウンド需要の回復によりサービス輸出の大幅な増加(同+16.9%)も続いているが、鉱業製品の出荷が減少して輸出の増勢が鈍化した(図表3)。一方、財・サービス輸入(同+3.1%)の伸びは緩やかだが、活発な投資活動を反映して資本財を中心に増加した結果、純輸出の成長率寄与度(+0.8%ポイント)が縮小した。

内需については、総固定資本形成(同+9.7%)が高い伸びを維持した。新規および既存プロジェクトの実行により建設投資(同+13.4%)が高成長を維持、設備投資(同+5.4%)が改善した。またGDPの6割を占める民間消費(同+5.0%)は堅調に推移した。2月の失業率が約10年ぶりの最低水準(3.1%)まで低下するなど労働市場が改善しているほか、最低賃金や公務員給与の引上げなどの所得関連政策も追い風となり家計の購買力が向上している。

このようにマレーシア経済は堅調な消費と投資に支えられる形で1-3月期も4%台半ばの成長を維持したが、成長率低下は3四半期連続であり、トランプ米政権による貿易政策の影響が本格的に現れる前に景気の減速傾向がみられる。米国が提示したマレーシアに対する相互関税は24%であり、ベトナム(46%)やタイ(36%)などと比べると低く、主力の輸出品である半導体関連製品が対象外とされていることから関税による直接的な影響は限定的とみられるが、貿易相手国を通じた間接的な影響を含めると景気が減速する可能性がある。現在、関税は90日間(全世界向けの)10%に引き下げられており、マレーシア政府は貿易交渉により上乗せ部分の縮小・撤廃を目指している。今後は米国との協議の行方が焦点となるが、交渉の行方は不透明だ。マレーシア中銀は、2025年の成長率が従来予測である+4.5~5.5%を若干下回るという見方を示しており、+5.0%成長に達する可能性は低くなった。マレーシア経済は国内需要が堅調なため底堅さを保つとみられるが、貿易交渉の結果によって財輸出の減少のみならず投資や消費にも悪影響が及ぶ恐れがある。マレーシア中銀は5月の会合で金融市場の不安定化に備えて預金準備率を2%から1%に引き下げると発表し、資金流動性の確保に動いた。政策金利は3%に据え置いているが(図表4)、年内には利下げの実施が予想される。
(図表3)マレーシア輸出の伸び率(品目別)/(図表4)マレーシアのインフレ率・政策金利

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年05月19日「経済・金融フラッシュ」)

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

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