2025年04月30日

米国個人年金販売額は2024年も過去最高を更新-トランプ関税政策で今後の動向は不透明に-

保険研究部 主任研究員・気候変動リサーチセンター兼任 磯部 広貴

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1――はじめに

米国における個人年金の販売額は2021年以降2023年まで前年比増加を続けてきた。2023年の販売額3,854億ドルはそれまでの過去最高記録を更新したものである。

個人年金は主に退職前後の資産の運用商品として活用されてきた。老後の生活資金を一生涯にわたって年金の形で受け取りたいという希望に応え、また、元本確保など安定的な運用を志向するニーズに沿った商品であるためだ。変額年金を除けば、実際にも個人年金加入は退職年齢となることが多い65歳前後に集中する傾向1にある。

米国の人口動態において65歳以上者は増加を続けている。個人年金の市場規模が日々拡大していると言ってよいだろう。

この保険・年金フォーカスでは、米国における生保・年金のマーケティングに関する代表的な調査・教育機関であるLIMRAが本年3月に公表した2024年の販売実績と昨年12月に公表した中期見通しに基づき、米国個人年金市場の現状をお伝えしたい。
 
1 LIMRA: Summary of Annuity Buyer Metrics – 2019 Dateの7頁”Annuity buyers by age and investment objectives”より。

2――2024年の販売実績

2――2024年の販売実績

2023年11月時点で、2024年の個人年金販売額は前年比減少すると予想されていた。金利の低下により、これまで販売実績を牽引してきた定額年金の減速が見込まれたことによる。

しかし実際には全四半期で1,000億ドル超えを果たし、通年では4,341億ドルと前年比13%増で過去最高記録を更新するに至った。

商品別・四半期別の確定実績はまだ開示されていないことから、詳細は暫定値(通年では4,324億ドルで確定値と大きく変わらず)に基づく図表1を参照いただきたい。
図表1:2023-2024年の商品別個人年金販売額暫定値(単位:10億ドル)
上述の通り前年の時点では金利低下が予測されていたものの、連邦公開市場委員会(FОMC)が利下げを開始したのは9月であったことから上半期に減速はみられず、下半期の減速を受けても定額年金全体の販売額は通年で前年比7%の増加を確保した。

定額年金の中で特に実績が大きかった確定利付き据置定額年金は、第4四半期こそ前年同期比で約半額に落ち込み過去10四半期の中で最低水準となったが、通年では前年比7%減に止まった。これに次ぐ実績であった定額指数連動年金は、金利低下の影響を受けながらも証券関連指数に連動するという商品特性から堅調な株式市場に支えられ、通年で前年比31%の増加となった。

一方、2023年は通年で前年比マイナスであった変額年金は全体で28%増に転じた。特に伝統的変額年金は過去3年で初めて増加し、第4四半期では前年同期比38%と高い伸びを示した。加えて、伝統的変額年金の通年実績を初めて登録指数連動年金(RILA)2が上回った。2015年では37億ドルに過ぎなかった通年実績が2024年には652億ドルまで成長した。継続的な商品開発を受けて、結果としては上昇基調であったものの不安定さを拭えなかった株式市場の中、伝統的変額年金と定額指数連動年金の中間という絶妙の位置付けにあったことが要因である。

なお、図表1に記された個別商品の概要については当レポート末尾の別表を参照いただきたい。
 
2 登録指数連動年金(RILA)については拙稿「2024 年の米国個人年金販売額は2四半期連続で1000億ドル超え -じわりと存在感を増すRILA」(2024.11.5)第3章を参照いただきたい。

3――中期見通し(参考、2024年12月時点)

3――中期見通し(参考、2024年12月時点)

2024年12月時点のものであるため同年も実績ではなく見通しとなるが、米国の個人年金市場に関するLIMRAの2027年までの見通しを紹介したい。骨子は以下4点となる。

(1) 2023年と2024年に経験した勢いがピークを迎えた後、予想される一連の利下げを受けて販売実績は減少するだろう。

(2) 経済環境は安定的と見込まれる一方、金利低下が激しい逆風となる。

(3) 元本確保機能を持つ商品へは引き続き強い需要がある。

(4) 保証された収入(年金給付)への需要が増大する。
【図表2:2024年-2027年の商品別個人年金年間販売額見通し(単位:10億ドル)】
具体的な見通しは図表2が示す通りである。前提として、米国の65歳以上人口は2023年末の5,980万人から2027年末に6,730万人と750万人増加すると想定している。個人年金の市場規模が引き続き拡大していくことを意味する。

株式市場を堅調と見通す中、変額年金は、登録指数連動年金(RILA)が牽引しながら全体では増加傾向を維持する。一方、株式市場の堅調さから定額指数連動年金の減速は相対的に緩やかになろうが、金利低下を受けて定額年金の販売額は2027年まで大きく減少を続けると見込まれている。

全体として個人年金の販売額は2024年をピークとして減少傾向に入るだろう。

4――おわりに

4――おわりに

前章で述べたLIMRAによる中期見通しは堅調な株式市場と金利の低下を前提としている。

しかしながらトランプ政権による関税政策によって、株式市場は不安定な状況となり、金利も一時上昇する局面が見られた。

朝令暮改的な対応も多く今後の情勢を予測することは困難であるが、LIMRAの前提とは真逆の条件、すなわち不安定な株式市場と高金利が現実化することも否定できない。その場合は変額年金の販売額が減少する一方、定額年金が伸長する可能性がある。他方、経済環境がどの方向に動こうとも、人口動態から個人年金の市場規模が拡大を続けているという基礎条件に変わりはない。

今後の動向は不透明であるが、引き続き保険・年金フォーカスで取り上げていきたい。
【別表:個人年金各商品の概要】

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年04月30日「保険・年金フォーカス」)

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保険研究部   主任研究員・気候変動リサーチセンター兼任

磯部 広貴 (いそべ ひろたか)

研究・専門分野
内外生命保険会社経営・制度(販売チャネルなど)

経歴
  • 【職歴】
    1990年 日本生命保険相互会社に入社。
    通算して10年間、米国3都市(ニューヨーク、アトランタ、ロサンゼルス)に駐在し、現地の民間医療保険に従事。
    日本生命では法人営業が長く、官公庁、IT企業、リース会社、電力会社、総合型年金基金など幅広く担当。
    2015年から2年間、公益財団法人国際金融情報センターにて欧州部長兼アフリカ部長。
    資産運用会社における機関投資家向け商品提案、生命保険の銀行窓版推進の経験も持つ。

    【加入団体等】
    日本FP協会(CFP)
    生命保険経営学会
    一般社団法人 アフリカ協会
    一般社団法人 ジャパン・リスク・フォーラム
    2006年 保険毎日新聞社より「アメリカの民間医療保険」を出版

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