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令和の米騒動が起きた背景と農業の現状~米の価格高騰はなぜ起きた?~
総合政策研究部 准主任研究員 小前田 大介
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1――はじめに
供給面では、長年に渡る減反政策、気候変動や自然災害の頻発、そして農業従事者の高齢化による労働力不足が、生産に大きな影響を及ぼしている。一方で需要面においては、消費者の食生活の多様化や人口減少に加え、インバウンド需要の急増が需給バランスを一層複雑化させている。
さらに在庫管理も重要な課題である。急激な需給変動に対応するためには十分な在庫を確保する必要がある。万が一、在庫管理を誤ると短期的な供給不足や価格の急騰を引き起こし、消費者や流通業者に大きな影響を与えるリスクがある。
こうした複合的な要因を踏まえ、需給バランスを安定させるためには、生産面に限らず、消費側の意識変容や物流インフラの整備、さらには柔軟な政策が求められている。在庫管理の強化に加え、迅速かつ的確な需給調整体制の構築が不可欠である。本レポートでは、米不足の背景を多角的に分析し、需給・供給・在庫の視点から課題整理を実施する。
2――供給力の低下
3――需要の変化
4――在庫管理の重要性
日本では米の安定供給と価格の安定を図るために、民間在庫3と政府備蓄米という二つの仕組みがある。民間在庫は農家や流通業者が市場での販売を目的に保有しているものである。政府備蓄米は、災害や不作など非常時に備えて国が計画的に保有し、主に価格の急騰や供給不安が生じた際に市場に放出される。
米は長期保存が可能な食品であり、適切な在庫管理を行うことで需給の急変に対応することが可能な食品である。しかし、2022年以降は民間在庫の在庫量は減少傾向にあり、安定供給への懸念が高まっている。民間在庫量の減少が市場の価格急騰や供給不足を招いたのである。
3 玄米の取扱数量が年間500トン以上の届出事業者の在庫量に10a以上の作付生産者の在庫量推計値を加えたもの
備蓄米放出が後手に回った背景には、複数の要因が重なっていた。まず急激な需給変動に対し、情報収集と予測が追いつかず適切なタイミングを逸した点だ。加えて、市場価格の下落を避ける目的から、備蓄米放出に慎重な姿勢が取られた結果、需給安定よりも価格維持を優先する構図となったのである。最後に、制度上の制約や関係機関との調整に時間を要するため、緊急時であっても機動的な放出が困難な構造も課題である。今回の事象を機に備蓄米制度の運用見直し、需給変動に即応できる運営の構築の必要性が喚起されている。
5――最後に
今後、米の安定供給を維持するためには、生産調整や政策誘導に依存しすぎない持続可能な農業構造の再構築が不可欠である。需要の変動を捉えた的確な在庫戦略、そしてリスクに即応できる迅速な政策判断が求められている。農業を支える現場の声を政策に反映させつつ、消費者と生産者双方の信頼をつなぐ調整機能の強化こそが、これからの米政策の鍵となるだろう。
次回のレポートでは、これらの課題に対する具体的な対策と政策の方向性について、提言を行う予定である。
(2025年04月17日「研究員の眼」)
03-3512-1834
- 【職歴】
2009年 日本生命保険相互会社入社
2025年 ニッセイ基礎研究所
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