2023年06月02日

米住宅市場に回復の兆し-住宅ローン金利の低下もあって、住宅指標の一部に改善の兆し。ただし、本格的な回復には程遠い

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.はじめに

米国の住宅市場は住宅価格の高騰に加え、住宅ローン金利の上昇を背景に実質GDPにおける住宅投資が21年4-6月期から8期連続のマイナス成長となるなど、悪化が続いている。もっとも、住宅投資は23年1-3月期のマイナス幅が前期から大幅に縮小したほか、23年4月の住宅着工件数(3ヵ月移動平均、3ヵ月前比年率)が1年ぶりに増加に転じた。

また、住宅販売件数も新築・中古住宅ともに最悪期を脱したとみられるなど、一部の住宅関連指標は住宅市場が底入れした可能性を示唆している。

本稿では住宅市場の動向について、主要な住宅関連指標を確認した後、今後の見通しについて論じている。住宅市場の見通しについて、結論から言えば住宅ローン金利の低下や住宅価格の落ち着きは住宅需要を回復させる可能性がある一方、住宅ローン貸出基準の厳格化や、景気後退に伴う雇用不安が住宅需要を低下させる可能性があるため、足元で住宅市場の回復の兆しがみられるものの、住宅市場の本格的な回復には程遠いというものだ。

2.住宅市場の動向

2.住宅市場の動向

(住宅投資、住宅着工・許可件数)足元で戸建て中心に回復の兆し
実質GDPにおける住宅投資は23年1-3月期が前期比年率▲5.4%(前期:▲25.1%)と8期連続のマイナス成長となり悪化が続いているものの、マイナス幅は前期から大幅に縮小した(前掲図表1)。

一方、住宅着工件数(季節調整済、年率換算)は23年4月が140.1万件と22年4月につけた180.3万件のピークを大幅に下回っているものの、23年1月の134万件を底に小幅ながら反発がみられる(図表2)。住宅着工件数の内訳では、4月の戸建てが84.6万件と22年11月の80.4万件を底に増加に転じたほか、2戸以上の集合住宅も55.5万件と22年12月の47.0万件を底に増加した。

また、住宅着工件数の3ヵ月移動平均、3ヵ月前比年率は4月が+8.4%と22年4月以来1年ぶりにプラスに転じた(前掲図表1)。
(図表2)住宅着工件数/(図表3)住宅着工許可件数
住宅着工件数の先行指標である住宅着工許可件数(季節調整済、年率換算)は23年4月が141.7万件とこちらも21年12月につけた194.8万件を大幅に下回っているものの、23年1月の135.4万件を底に増加がみられる(図表3)。なお、許可件数の内訳では戸建てが4月に85.6万件と1月の74.8万件から増加した一方、集合住宅は56.1万件とこちらは21年7月以来の水準に低下するなど、戸建てと集合住宅で明暗が分かれている。

一方、許可件数の3ヵ月移動平均、3ヵ月前比年率は4月が+17.5%となり、こちらは22年3月以来13ヵ月ぶりにプラスに転じており、許可件数も戸建て中心に回復の兆しがみられる(前掲図表1)。
(新築・中古住宅販売)最悪期は脱したものの、足元で明暗
新築の戸建て販売件数(季節調整済、年率換算)は23年4月が68.3万件と20年8月につけた102.9万件のピークを大幅に下回っているものの、22年7月の54.3万件を底に反発し、22年3月以来の水準に回復した(図表4)。また、新築住宅販売在庫件数を販売件数と比較した販売月数は7.6ヵ月と22年7月の10.1ヵ月から大幅に低下したほか、22年4月以来1年ぶりの低水準となるなど、適正水準と言われる6ヵ月を上回っているものの、新築在庫の減少傾向が続いている。

一方、戸建て新築住宅に対する建設業者のセンチメントを示す住宅市場指数は23年5月が50と22年12月の31を底に5ヵ月連続で上昇するなど、堅調なセンチメントの改善がみられる(図表5)。住宅市場指数の内訳では、住宅販売現況が56と12月の36から、6ヵ月先の販売見込みが57と同31から、客足が33と同20からいずれも5ヵ月連続で上昇した。同統計を集計している全米建設業協会(NAHB)は、足元の住宅ローン金利を大幅に下回る水準のローンを抱えている多くの住宅所有者が住宅の買い替えを敬遠しており、中古住宅の供給が限られていることが新築住宅に対する需要を増加させているとの見方を示している。
(図表4)新築住宅販売および在庫/(図表5)住宅市場指数(項目別)
次に、中古住宅販売件数(季節調整済、年率換算)は23年4月が428万件となり、20年10月につけた656万件を大幅に下回っているものの、23年1月の400万件からは増加に転じた(図表6)。もっとも、足元は2ヵ月連続で減少しており、増加が続く新築住宅販売に比べて回復はもたついている。なお、中古住宅販売在庫件数を販売件数でみた在庫月数は4月が2.9ヵ月と統計開始以来最低となった22年1月の1.6ヵ月を上回っているものの、22年11月の3.3ヵ月から低下したほか、適正水準とされる6ヵ月を大幅に下回っており、前述のように中古住宅販売在庫の不足が中古住宅販売の回復に水を差す状況となっている。

一方、中古住宅を取得する際の住宅ローン返済額と所得を比べた住宅取得能力指数は23年3月が98.6と22年10月の91.3は上回っているものの、依然として100を割れており住宅ローン返済額が所得水準を上回る状況となっているため、販売在庫の不足だけでなく、住宅取得能力からも住宅取得のハードルは高い(図表7)。中古住宅価格(中央値)は22年6月から頭打ちとなっており、今後は住宅ローン金利がどの程度低下するかが、住宅取得能力の改善を通じた中古住宅需要回復の鍵となろう。
(図表6)中古住宅販売および在庫/(図表7)住宅取得能力指数
(住宅価格)住宅価格は前年同月比での低下基調が持続も、足元では価格上昇に転じた可能性
主要20都市の価格動向を示すS&Pコアロジック・ケース・シラー住宅価格指数(前年同月比)は新型コロナ感染拡大後の郊外の戸建て住宅需要の高まりもあって、22年4月に+21.3%と01年の統計開始以来最高となったものの、その後は低下基調が持続しており、23年3月が▲1.1%と12年5月以来のマイナスに転じた(図表8)。もっとも、季節調整済の前月比が+0.4%と2月の+0.3%から2ヵ月連続でプラスに転じたほか、20都市すべてで価格上昇するなど、足元で住宅価格は増加に転じた可能性がある。
(図表8)住宅価格(前年同月比) また、全米規模の住宅価格動向を示す米国連邦住宅金融局(FHFA)の住宅価格指数(前年同月比)も22年2月の+19.2%をピークに低下基調が持続しており、23年3月は+3.7%と12年7月以来の水準に低下した。ただし、FHFA住宅価格指数も季節調整済の前月比では+0.6%とこちらも1月から2ヵ月連続でプラスとなっており、ケース・シラー住宅価格指数と同様に全米規模でも足元で住宅価格が増加に転じて可能性を示唆している。
(住宅ローン)住宅ローン金利の低下は追い風とみられるものの、懸念される貸出厳格化の影響
住宅ローン金利(30年)は20年12月に2.9%割れと史上最低水準に低下した後、FRBによる政策金利の引締めもあって22年以降に上昇が加速し、22年11月には一時7.1%台まで上昇した(図表9)。その後は景気後退懸念に伴う23年内の利下げ観測もあって1月には6.2%まで低下した、もっとも、年内利下げ観測が後退する中、足元は再び6.9%台まで上昇している。

米抵当銀行協会(MBA)が公表している住宅購入目的の住宅ローン申請件数(90年3月を100とする指数)は住宅ローン金利の変動の影響を受けており、住宅ローン金利が上昇した22年10月に一時160近辺まで低下した後、住宅ローン金利の低下に伴い23年1月下旬に210近辺まで反発するなど住宅ローン需要は回復した。もっとも、その後は再び住宅ローン金利が上昇していることもあって、足元では154近辺に低下している。

一方、FRBによる融資担当者調査では、22年後半以降住宅ローンの融資基準が厳格化される動きが続いていたが、3月上旬のシリコンバレー銀行の破綻をきっかけに中堅銀行に対する監督強化と自身のリスク管理強化に伴い、融資基準厳格化の流れが加速されるとの見方が強まっている。実際に、23年4月調査では新型コロナ感染拡大直後に厳格化された水準は下回っているものの、信用力の低い貸手向けを中心に融資基準厳格化の動きが加速していることが確認できる(図表10)。今後、融資基準の厳格化が続く場合に融資実行や住宅ローン金利の拡大を通じて住宅ローン需要に影響することが懸念される。
(図表9)住宅ローン金利および住宅購入ローン申請件数/(図表10)住宅ローン貸出基準
(住宅購入センチメント指数)住宅需要の改善を示唆
連邦住宅抵抗公庫(ファニーメイ)が公表している住宅購入センチメント指数は23年4月が66.8と22年5月以来の水準に回復するなど住宅需要の改善を示唆している(図表11)。
(図表11)住宅購入センチメント指数 同指数の内訳をみると、好調な労働市場や賃金上昇を反映して「失業懸念後退」や「所得上昇」が住宅購入指数を押し上げたほか、今が住宅の「売り時」、今後1年間の住宅「価格上昇」見通しなどの項目も同指数を押し上げた。一方、今が住宅の「買い時」および今後1年間の「金利低下」見通し項目が同指数を押し下げた。

また、4月は前月も比べて+5.5ポイントと19年9月以来の改善幅となったが、項目別では全6項目が改善したほか、「金利低下」項目が前月比+2.2ポイントと最も改善幅が大きくなった。

3.今後の見通し

3.今後の見通し

住宅ローン金利は、FRBによる政策金利の打ち止めから、来年にかけて低下が見込まれることに加え、これまで高騰してきた住宅価格が落ち着いてくることで住宅需要を回復させることが見込まれる。一方、住宅ローン金利の貸出基準の厳格化に加え、米国経済が年後半から来年にかけて景気後退が見込まれる中で雇用不安が住宅需要を低下させる可能性がある。

このため、足元で住宅市場の底入れの兆しを示す住宅関連指標がみられるものの、住宅市場の本格的な回復には程遠いだろう。
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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2023年06月02日「Weekly エコノミスト・レター」)

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