2023年04月27日

少子化進行に対する意識と政策への期待(1)-経済要因は共通認識だが、子育て中の女性で身体・精神的負担が上回る、若者ほど経済面以外の負担も

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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1――はじめに~4月に「こども家庭庁」が発足、少子化進行の原因に対する国民の意識は?

今年4月に子ども・子育て支援政策の中核を担う「こども家庭庁」が発足した。新型コロナ禍の3年余りの間に想定以上に少子化が進行する中で(図表1)、政府は今後3年間を集中取組期間として、男性の育児休業取得率の向上や児童手当の支給対象の拡大、高等教育の奨学金の拡充といった優先度の高い施策を「加速化プラン」として進める方針だ。6月の「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」策定までには、政府の掲げる「次元の異なる(異次元の)少子化対策」の具体的な内容や財源の検討が一層進められる。

このような中、ニッセイ基礎研究所では少子化進行の原因に関わる意識や政府の「次元の異なる少子化対策」への期待についての調査1を実施した。その結果について、本稿(少子化進行の原因に関わる意識)と次稿(政策への期待)の2回に分けて報告する。
図表1 出生数の実績値および予測値
 
1 ニッセイ基礎研究所「第12回新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」の枠組みの一部、調査時期は2023年3月29日~31日、調査対象は20~74歳、インターネット調査、有効回答数2,558、株式会社マクロミルのモニターを利用。

2――少子化進行の原因に関わる意識

2――少子化進行の原因に関わる意識~経済環境に加えて子育て中の女性の身体・精神的負担の強さ

1|全体の状況~経済環境やサービス拡充など政策対応可能な課題と若者の価値観の変容などが混在
調査では、複数の少子化進行の原因と見られる項目をあげて、それぞれどう思うかをたずねたところ、そう思う(「そう思う」+「ややそう思う」)との回答が最も多いのは「若い世代の経済環境が厳しくなっていることが原因だ」(62.0%)であり、僅差で「子育てにお金がかかりすぎることが原因だ」(60.1%)が続く(図表2)。以下、「若い世代の価値観が変容していることが原因だ」(57.0%)、「(保育所や学童保育の待機児童問題に見られるように、)子育て支援環境が整備されていないことが原因だ」(54.0%)、「未(非)婚化が原因だ」(53.8%)、「晩婚化や晩産化が原因だ」(51.8%)、「子育てによる身体的・精神的負担が大きすぎることが原因だ」(50.7%)、「核家族化などで、育児協力者が減ったことが原因だ」(46.5%)、「子育てによって自分の時間が確保しにくくなることが原因だ」(42.3%)までが4割を超える。

一方、「出会いの場や婚活の機会がないことが原因だ」(34.7%)や「男性の育児参加が進んでいないことが原因だ」(33.3%)では、そう思う割合が「どちらともいえない」をやや下回る。

つまり、少子化進行の主な原因には、経済面の厳しさや保育所等の子育て支援サービスの不足など政策的な対応が可能と見られる課題と、若者の価値観の変容など政策的な対応が必ずしもできるわけではない課題とが混在している。
図表2 少子化の原因に対する意識(20~74歳、n=2,558)
2|属性別の状況~経済環境の厳しさは共通認識だが子育て中の女性で身体・精神的負担が上回る
(1) 性年代別~30歳代女性の首位は身体・精神的負担、若者ほど負担感、高齢女性ほど価値観変容
そう思う割合について属性別の違いを見ると、性年代別には、男性より女性で、また、男女とも若者より高年齢ほど多方面に渡って懸念は強い傾向があり、60歳以上の女性では全ての項目で全体を+5%pt以上上回る(図表3(a))。なお、60歳以上の男性でも全体的に懸念は強いものの、唯一「男性の育児参加が進んでいないことが原因だ」については全体を+5%pt以上下回る。

また、性年代別に各要因の順位を見ると、いずれも「経済環境(若い世代の経済環境が厳しくなっていることが原因だ)」や「お金がかかる(子育てにお金がかかりすぎることが原因だ)」が上位にあがり、「出会いがない(出会いの場や婚活の機会がないことが原因だ)」や「男性育児不参加(男性の育児参加が進んでいないことが原因だ)」の順位が比較的低い傾向がある(図表3(b))。
図表3 性年代別に見た少化の原因に対する意識
一方、男女とも若者の方が「環境不整備(子育て支援環境が整備されていないことが原因だ)」や「自由時間がない(子育てによって自分の時間が確保しにくくなることが原因だ)」、「身体・精神的負担(子育てによる身体的・精神的負担が大きすぎることが原因だ)」が上位にあがる傾向がある。特に30歳代の女性では経済的な要因を超えて首位は「身体・精神的負担」(66.0%、全体より+15.3%pt)であり、選択割合は全体を大幅に上回る。また、女性では高年齢層ほど「価値観変容(若い世代の価値観が変容していることが原因だ)」や「未・非婚化」、「晩婚・晩産化」が上位にあがる傾向があり、60歳以上では首位は「価値観変容」であり、7割を超えて全体(57.0%)を大幅に上回る。

つまり、少子化進行の原因について、経済環境に課題があることは性年代によらず共通認識としてありつつ、未就学児などを育児中の女性では身体・精神的な負担が経済面を上回って非常に強く、若者ほど経済面以外の子育てにかかる時間や労力に対する負担も強く感じている様子がうかがえる。

この身体・精神的負担は男女で大きく異なり、前述の通り、そう思う割合は30歳代の男性では41.9%だが、女性では66.0%と男性を大幅に上回る(+24.1%pt)。この背景には、これまでも各所で指摘されてきた通り、日本では夫婦の家事育児負担が妻側に偏っていることがあげられる。

内閣府「令和2年版男女共同参画白書」によると、6歳未満の子を持つ夫婦の家事・育児関連時間は、日本人の夫では1日あたり平均1時間23分、妻は7時間34分であり、実に6時間以上の差がある。一方、スウェーデンやノルウェー、米国の夫では3時間を超えている(妻は5時間半前後)。また、「令和4年版男女共同参画白書」にて、就学前の子のいる正規雇用者の共働き夫婦で見ても、日本人の夫の家事・育児関連時間は平均1時間16分、妻は5時間12分であり、実に4時間ほどの差がある。

女性では高年齢層ほど若い世代の価値観の変容を感じているが、この背景には、年代によって女性の社会進出状況が大きく異なることがあるのだろう。

1986年に「男女雇用機会均等法」が制定されてから35年余りが経過し、いわゆる均等法第一世代は60歳を迎えようとしている。1997年の改正では、募集・採用や配置・昇進から定年・退職に至る雇用管理について、事業主には女性であることを理由とする差別的取扱いが禁止されるようになった(2006年には男女双方に対して差別的取り扱いが禁止に改正)。また、2016年には妊娠・出産等に関する上司や同僚による就業環境を害する行為に対する防止措置を義務付ける規定が設けられた(厚生労働省「働く女性の実情」)。

更に、1991年に「育児休業法」が成立し、2005年に「育児・介護休業法」が創設された後は育児休業要件の改正などが重ねられ、2021年には、女性のみならず男性の育休取得促進へ向けて、「産後パパ育休制度(出生時育児休業制度)」が創設された。

加えて、2013年には政府は成長戦略として「女性の活躍」を掲げるようになり、2015年には「女性の活躍推進法(女性の職業生活における活躍の推進に関する法律)」が成立し、国や地方公共団体、民間企業等に対して、女性の活躍推進に向けた数値目標を盛り込んだ行動計画の策定や情報の公表が義務付けられるようになった。

このように社会環境が大きく変わる中で、家族形成や働き方に対する価値観は、女性では男性と比べて年代によって大きく異なることは容易に想像がつく。
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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