2023年03月28日

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介護予防を勧めるメール配信を2か月続けた結果、会員の運動、栄養、社会参加に関する意識と行動が変わった。

私たちは、インターネットを使って、高齢者の活動を促進しようという取組を行っています。「Web版集いの広場」という取組です。何をするかというと、週1日、毎週月曜の朝10時に、決まって私からメールを送ります。含まれる内容は簡単なあいさつ文、インターネット動画、それに質問への回答です。挨拶文といっても身近な話をしている。今日10時に送った内容は、「最近花粉症で辛い目に遭ってます、皆さんどうですか」と。フレイル対策に関するインターネット動画を送付し、疑問があったら、アンケートフォームに書き込めるように送っています。誰かから質問が届くと、次週、皆さんにも共有する形で回答しています。

この取り組みを3か月間実施して、その効果を検証すると、運動、栄養、社会参加それぞれの面で意識と行動が大きく変わってきたというのが分かった。週1回メールを送るだけでこれだけの行動変容が期待できるなら、多くの人に広げていこうということで、いまは研究室のHPからどなたでも登録できるように準備しています。今日で94回目ぐらい、もうすぐ社会実装としてひろげてから丸2年が経とうとしている。web版集いのひろばには、このURL(https://www.yamada-lab.tokyo/signup/)からどなたでも無料で登録可能です。

これは一例だから、いろいろな方法があると思いますが、やはりキーは体を動かして外に出ること。そういう社会活動を推進するサポートが、コロナ禍でもアフターコロナでも重要になるだろうと思っています。

坊: 他人に行動変容を促すことは大変難しいと思いますが、山田先生の「Web版集いの広場」では、毎週毎週、メールを送り続けていらっしゃる。同じメッセージを発信し続けることによって、1回では変わらないけど、何回も言ううちに行動変容につながっていくということかと思いました。行動変容は、地域で新たな移動手段を導入した時や、マイカーから移動サービスに転換を図る時にもよく課題になりますが、同じように、「継続性」がポイントになるのかもしれません。次は、高齢者に外出手段と外出機会を提供して行動変容を促している、株式会社アイシンのAIオンデマンドの乗合タクシー「チョイソコ」についてです。まずは、チョイソコの事業内容や運用実績について教えてください。

チョイソコ開始から5年

チョイソコ開始から5年で、導入地域は全国51か所に拡大。「面倒見が良い」運営で、全ての地域で運行継続。

加藤氏: 当社、株式会社アイシンはトヨタグループの会社です。2018年から新規事業として、従来培ってきたナビゲーション技術を使って、乗合送迎サービス「チョイソコ」を展開しています。本日3月6日時点では、全国51か所で毎日チョイソコが走っています。会員数は全国で3万人おり、毎日、数千名の高齢者を運んでいます。

我々が目指しているのは「継続性」です。モビリティ関連では、自動運転や空飛ぶクルマなど、補助金を使って、華やかな実証実験が全国で行われていますが、実装につながらないまま8割ぐらいが終わってしまう。それに対して、我々が提供しているのは、本当に困っている高齢者のための移動手段なので、何としても継続したいという思いで続けています。

他にもAIオンデマンドをやっている事業者はいくつもありますが、大きな差としては、我々は「面倒見が良い」とマスコミの方から評されています。運行を始める前から始めた後まで、自治体と一体となって、高齢者に対する周知活動をしたり、他の自治体で成功した運用方法を取り入れたり、実際に利用してもらえるように、地道に活動を続けている。現時点で、我々は実証実験をやった後で運行を止めたところがないということが誇りであり、これからも継続していきたいと思っています。

そうは言っても、路線バスはどんどん衰退し、タクシーなど交通事業者自体の給料もなかなか上がらない、後継ぎもいないために事業規模が縮小し、地域には移動したくても移動できない人たちが増えている。そのような課題に対し、国も自治体も、最低限の移動だけできるようにしましょうということで、よくあるのがタクシー補助。ワンメーター分だけ補助するとか、何回か分のタクシーチケットを配る支援策です。でもこのような方法では、高齢者の移動回数を制限してしまう、最低限の移動しか作り出せない。「人生100年時代」と言われて、寿命が延びているし、元気に動ける高齢者も増えているのに、移動手段が無いために移動できない人がいる。日本で高齢者がフレイルを発症していることと、交通政策というのは関係しているのではないかと思っています。

次に、チョイソコの運営に関してお話します。日本の交通サービスというのは、コミュニティバスを含めて、ものすごく安く設定されているのが特徴じゃないかなと思います。ということは、事業者から見ると、運賃収入だけに頼って交通事業を行おうとすると、極めて採算が厳しい。交通手段としてだけ考えていては、継続が難しいと言えます。

ですから、我々は様々なサービスを実施してきました。地元自治体の交通担当者と交通不便地域への交通手段として用意するだけではなく、スクールバスや観光客向けに使ったり、農作物を直売所や道の駅に輸送したり、独居高齢者向けにチョイソコのコールセンターが見守りサービスの電話をかけたり、災害発生時の救援物資の輸送用としたり――。とにかく、高齢者の移動以外にも、移動する車ができるサービスを全てひっつけていく。「車を使い倒す」と我々は表現していますが、車が空いている時間、空いているスペースを使って、何でも詰め込んでいく。そうすると、チョイソコは単なる交通インフラではなく、社会インフラになっていく。自治体のすべての部署がかかわるような乗り物、運べるものとしてチョイソコを活用していこうとしています。

チョイソコのスキームの特徴としては、地域の地元企業から協賛金を募って停留所を設置し、そこにお客さんが行く仕組みをセットします。協賛会社とアイシンが協同でイベントを実施したり、協賛会社からのクーポンをチョイソコ会員に配ったり、会員向けのニュースレターに広告を入れたり、そういうことを継続的に行うことによって、協賛会社から「お金を出す意味があるんだなあ」と思ってもらえるようにしています。停留所の看板に広告を出す例もあります。こうして、より多くの広告収入を募っています(図6)。
図6 「チョイソコ」のスキーム
我々がチョイソコを導入する前に、地域の状況を調査します。着目するのは3つの「K」。高齢者、観光客、高校生です。3Kに代表される、本当に動けない方がどこにいるかを調べて、自治体に「困っている方はこのエリアの方じゃいないの」と提案します。いろんな本を読むと、「高齢者が歩ける距離は500m」と書かれているが、僕は停留所まで500mだったら行かない。我々が提示している限界は200mです。事前調査で200mより遠いエリアを「このへんにバス停にいけない人が潜んでいるはずだ」と考えます。もし上り坂ならは25mおきに作ってもいいんじゃないか。デマンド交通は停留所が固定されていないので、いくつでも作れるのが特徴です。このようにバス停を設計していく。

チョイソコの予約はスマホでできますが、高齢者対象なので、極力電話で応対しようと、事務所の中にオペレーションセンターを設置しました。そのすぐ後ろには営業担当の席があるので、オペレーターにどんな要望、クレームがきているかをリアルタイムで把握し、すぐに対応できます。
 
(下)に続く

(2023年03月28日「ジェロントロジーレポート」)

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生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子 (ぼう みおこ)

研究・専門分野
中高年女性のライフデザイン、高齢者の交通サービス、ジェロントロジー

経歴
  • 【職歴】
     2002年 読売新聞大阪本社入社
     2017年 ニッセイ基礎研究所入社

    【委員活動】
     2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
     2023年度  日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員

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