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コロナ禍が高齢者の生活に与えた影響と回復に向けた取組(上)
生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子
介護予防を勧めるメール配信を2か月続けた結果、会員の運動、栄養、社会参加に関する意識と行動が変わった。
この取り組みを3か月間実施して、その効果を検証すると、運動、栄養、社会参加それぞれの面で意識と行動が大きく変わってきたというのが分かった。週1回メールを送るだけでこれだけの行動変容が期待できるなら、多くの人に広げていこうということで、いまは研究室のHPからどなたでも登録できるように準備しています。今日で94回目ぐらい、もうすぐ社会実装としてひろげてから丸2年が経とうとしている。web版集いのひろばには、このURL(https://www.yamada-lab.tokyo/signup/)からどなたでも無料で登録可能です。
これは一例だから、いろいろな方法があると思いますが、やはりキーは体を動かして外に出ること。そういう社会活動を推進するサポートが、コロナ禍でもアフターコロナでも重要になるだろうと思っています。
坊: 他人に行動変容を促すことは大変難しいと思いますが、山田先生の「Web版集いの広場」では、毎週毎週、メールを送り続けていらっしゃる。同じメッセージを発信し続けることによって、1回では変わらないけど、何回も言ううちに行動変容につながっていくということかと思いました。行動変容は、地域で新たな移動手段を導入した時や、マイカーから移動サービスに転換を図る時にもよく課題になりますが、同じように、「継続性」がポイントになるのかもしれません。次は、高齢者に外出手段と外出機会を提供して行動変容を促している、株式会社アイシンのAIオンデマンドの乗合タクシー「チョイソコ」についてです。まずは、チョイソコの事業内容や運用実績について教えてください。
チョイソコ開始から5年で、導入地域は全国51か所に拡大。「面倒見が良い」運営で、全ての地域で運行継続。
我々が目指しているのは「継続性」です。モビリティ関連では、自動運転や空飛ぶクルマなど、補助金を使って、華やかな実証実験が全国で行われていますが、実装につながらないまま8割ぐらいが終わってしまう。それに対して、我々が提供しているのは、本当に困っている高齢者のための移動手段なので、何としても継続したいという思いで続けています。
他にもAIオンデマンドをやっている事業者はいくつもありますが、大きな差としては、我々は「面倒見が良い」とマスコミの方から評されています。運行を始める前から始めた後まで、自治体と一体となって、高齢者に対する周知活動をしたり、他の自治体で成功した運用方法を取り入れたり、実際に利用してもらえるように、地道に活動を続けている。現時点で、我々は実証実験をやった後で運行を止めたところがないということが誇りであり、これからも継続していきたいと思っています。
そうは言っても、路線バスはどんどん衰退し、タクシーなど交通事業者自体の給料もなかなか上がらない、後継ぎもいないために事業規模が縮小し、地域には移動したくても移動できない人たちが増えている。そのような課題に対し、国も自治体も、最低限の移動だけできるようにしましょうということで、よくあるのがタクシー補助。ワンメーター分だけ補助するとか、何回か分のタクシーチケットを配る支援策です。でもこのような方法では、高齢者の移動回数を制限してしまう、最低限の移動しか作り出せない。「人生100年時代」と言われて、寿命が延びているし、元気に動ける高齢者も増えているのに、移動手段が無いために移動できない人がいる。日本で高齢者がフレイルを発症していることと、交通政策というのは関係しているのではないかと思っています。
次に、チョイソコの運営に関してお話します。日本の交通サービスというのは、コミュニティバスを含めて、ものすごく安く設定されているのが特徴じゃないかなと思います。ということは、事業者から見ると、運賃収入だけに頼って交通事業を行おうとすると、極めて採算が厳しい。交通手段としてだけ考えていては、継続が難しいと言えます。
ですから、我々は様々なサービスを実施してきました。地元自治体の交通担当者と交通不便地域への交通手段として用意するだけではなく、スクールバスや観光客向けに使ったり、農作物を直売所や道の駅に輸送したり、独居高齢者向けにチョイソコのコールセンターが見守りサービスの電話をかけたり、災害発生時の救援物資の輸送用としたり――。とにかく、高齢者の移動以外にも、移動する車ができるサービスを全てひっつけていく。「車を使い倒す」と我々は表現していますが、車が空いている時間、空いているスペースを使って、何でも詰め込んでいく。そうすると、チョイソコは単なる交通インフラではなく、社会インフラになっていく。自治体のすべての部署がかかわるような乗り物、運べるものとしてチョイソコを活用していこうとしています。
チョイソコのスキームの特徴としては、地域の地元企業から協賛金を募って停留所を設置し、そこにお客さんが行く仕組みをセットします。協賛会社とアイシンが協同でイベントを実施したり、協賛会社からのクーポンをチョイソコ会員に配ったり、会員向けのニュースレターに広告を入れたり、そういうことを継続的に行うことによって、協賛会社から「お金を出す意味があるんだなあ」と思ってもらえるようにしています。停留所の看板に広告を出す例もあります。こうして、より多くの広告収入を募っています(図6)。
チョイソコの予約はスマホでできますが、高齢者対象なので、極力電話で応対しようと、事務所の中にオペレーションセンターを設置しました。そのすぐ後ろには営業担当の席があるので、オペレーターにどんな要望、クレームがきているかをリアルタイムで把握し、すぐに対応できます。
(2023年03月28日「ジェロントロジーレポート」)
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03-3512-1821
- 【職歴】
2002年 読売新聞大阪本社入社
2017年 ニッセイ基礎研究所入社
【委員活動】
2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
2023年度 日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員
坊 美生子のレポート
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