2022年09月29日

保険・年金関係の税制改正要望(2023)の動き-関係する業界・省庁の改正要望事項など

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩

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1――2023年度予算と税制改正の動きが始まる

8月末までに各省庁の概算要求が提出され、2023年度に向けた予算や税制改正の動きが始まったところである。ここではその中のほんの一部分ではあるが、保険・年金あるいはそれに近い金融商品に関する税制改正要望がどんなものかについてみてみる。

2――2023年度税制改正要望

2――2023年度税制改正要望

1各業界団体の要望事項
主に保険、年金とその周辺の要望事項を列挙すると以下のようなものである。
 
<生命保険協会>
〇生命保険料控除の拡充 
現在の制度では、

平成23年12月までの契約は生命保険が所得税5万円、地方税3.5万円、個人年金保険もそれぞれ同額(合計控除額 所得税10万円、地方税7万円)、平成24年以降契約は、介護保険に重点が置かれたため分離して、一般、介護、個人年金それぞれで所得税4万円、地方税2.8万円、(合計控除額 所得税12万円、地方税7万円)となっている。

要望はこれを拡充し、一般、介護、個人年金それぞれ、所得税5万円地方税3.5万円(合計控除額所得税15万円 地方税7万円)とすることを要望している。(このところ例年同じ要望を続けている。)
 
〇企業年金保険関係
特別法人税の廃止・少なくとも課税停止期間の延長、を要望している、また確定拠出年金、確定給付年金ともに、現在よりもさらに要件を緩和1するなどの、税制上柔軟な取り扱いに向けたいくつかの要望となっている。
 
〇相続税関係
死亡保険金の非課税限度額は現在、「法定相続人数×500万円」であるが、さらに「配偶者分500万円+未成年の被扶養法定相続人数×500万円」を加算することを求めている。(これも例年と同様)
 
 
1 要件緩和とは、例えば被災などのケースで、60歳未満でも脱退一時金を受け取れるようにする、など。
<日本損害保険協会>
〇昨年度の改正で、異常危険準備金の無税枠の拡大(積立率や残高上限)の一部引上げなどが実現した。しかし自然災害の激甚化・頻発化の中での、火災保険事業の安定的な運営の観点から、さらに制度そのものの検証や見直しを自ら進め、次年度以降の見直しを要望することを予告している。
 
〇地震保険料控除
従来あった損害保険料控除制度が、2007年より地震保険料のみを対象とするよう改正され、現在の控除限度額は所得税5万円、地方税2.5万円である。近年の地震リスクがより大きなものに見直される中で、地震保険料そのものの水準は、2017、2019,2021と引き上げられてきた。それに対する地震保険料控除制度の方もさらに制度として充実させるよう、検討を要望している(昨年と同じ)。
 
〇企業年金関係
特別法人税の撤廃(生命保険協会と同じ)

<信託協会>
信託協会は信託、年金、金融制度全般、不動産の各分野について要望をまとめている。うち年金については、特別法人税の撤廃を、最も優先順位の高い「主要要望」として取り上げ、その他の「一般要望」として企業年金について、確定拠出年金の利便性をより向上させるような税制優遇範囲の拡大や手続きの簡素化につき、いくつかの要望を出している。また金融制度のなかでは、金融所得課税の一体化2や、時限措置であるNISA(少額投資非課税制度)の恒久化にむけた要望が含まれている。
 
2 金融商品ごとに異なる課税方式の統一や、損益通算範囲の拡大(例えば、株式損失と利子所得の相殺とか)のことを指す。
<全国銀行協会>
確定拠出年金制度に関連して、特別法人税の撤廃、制度のさらなる普及のための利便性の向上や優遇措置などを要望している。

また金融資産への課税の簡素化、中立化の観点から、金融商品課税の一体化を要望している。NISAの恒久化等についても要望している。
 
<経団連>
産業全般あらゆる分野の要望が盛り込まれている中で、金融・保険・年金の周辺では、金融所得課税の一体化、生命保険料控除制度の拡充・特別法人税の撤廃と確定拠出年金制度の拡充など上記各業界の要望もとりいれたものになっている。中でもNISAの拡充は、現政権の掲げる政策に応じて例年より「格上げ」され「「資産所得倍増」に向けた税制措置の緩和」という要望の中核となっている。
2各省庁の要望
そもそも様々な業界がこの時期に税制改正要望をまとめるのは、今後予算・税制の検討が政府、省庁、最終的には国会にむけて検討が進められるのに、時期を合わせているためである。ではその各省庁において、概算要求とともに、税制改正要望事項はどうなっているのか、をみる。

例年に比べて、保険年金関係の要望は少ないように見受けられるが、以下の通りである。
 
<金融庁>
保険・年金関連では、上記経団連の要望と同じく、「資産所得倍増プラン」関連として、NISAの抜本的改革(積立期間、毎年の投資枠、積立限度額、つみたてNASAの対象年齢など)、金融所得課税の一体化などを要望している。また上記の生保業界の要望を受けて生命保険料控除拡充を、また各業界と同様、特別法人税の撤廃または課税停止措置の延長を要望している。
 
<厚生労働省>
健康・医療、福祉・子育て、雇用、年金、生活衛生などの幅広い分野の要望項目が挙げられている。そのうち年金分野については、やはり特別法人税の撤廃の要望を提出している。また、個人型確定拠出年金(iDeCo)の改革が今後議論される予定なため、それに伴う税制上の所要の措置を要望している。

3――今後の動きについて

3――今後の動きについて

各省庁から財務省に要望が出されたあと、その要望に沿って財源と対費用効果について折衝がなされ、政府あるいは与党の税制調査会で議論がなされていくことになる。実質的には12月中旬の与党税制改正大綱の発表の中で、ほぼ細部まで確定し、あとはそれを法律に反映させて国会で予算案全体の中で正式に決まる。なにか大事件が起きなければ、例年通りの動きになると想定される。

4――(参考)特別法人税について少しだけ詳しく

4――(参考)特別法人税について少しだけ詳しく

課税停止措置の期限切れを控え、多くの省庁、業界が撤廃を要望している、特別法人税について、その内容を紹介してみる。

特別法人税は1962年に創設されたものであるが、バブル経済崩壊とその後の低金利状況を受け、1999年4月から課税は凍結されている。その後凍結期限は約3年毎に延長され続けて現在に至る。

課税の趣旨は、一般に企業年金制度においては、わが国では、「拠出時非課税・運用時課税・給付時課税」とされていることであり、さらに運用時の課税は、「従業員の所得として課税すべきところを年金受給時まで繰延べる形の遅延利息に相当するもの」という考え方による。

もし現在復活すれば、年金積立金の1.173%課税される3。これを実際に支払うのは年金積立金の管理会社であるが、年金積立金から控除されるために実質的には加入者が負担することになり、将来の受取年金額はその分減少する。生命保険協会の試算によれば、ある種の平均的な条件のもと、年金額は20%程度低くなるというから、無視できない事態である。

また、年金制度への課税については、諸外国では運用時も非課税としている国が多く、運用時課税は日本だけであるという事情もあり、それを是正すべきという考え方もある。

それにしても昨今、老後資金の必要性が言われる中では、それに逆行するような年金への課税強化はおそらくなく、少なくとも課税凍結期限は延長されるものと思われるが、撤廃とまでなるかどうかは、何とも言えない。
 
3 この考え方では、税率は金利状況に依存するが、現在の税率は過去の相当に高い金利を前提としているものである点も問題とされる。しかしそもそも「撤廃」を要望しているのだから、「低金利状況に合わせて税率を下げるべき」という要望には決してならない。
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保険研究部   主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任

安井 義浩 (やすい よしひろ)

研究・専門分野
保険会計・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1987年 日本生命保険相互会社入社
     ・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
     2012年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2022年09月29日「基礎研レター」)

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