2022年05月17日

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1. はじめに

名古屋のオフィス市場は、テレワークの普及など先行き不透明感が広がるなか、新規供給面積が4年ぶりに1万坪を超え、空室率は上昇基調で推移している。また、成約賃料は需給緩和で横ばいとなっている。本稿では、名古屋のオフィス市況を概観した上で、2026年までの賃料予測を行う。

2. 名古屋オフィス市場の現況

2. 名古屋オフィス市場の現況

2-1. 空室率および賃料の動向
全国主要都市のオフィスの空室率は、2020 年4 月の緊急事態宣言の発令以降、いずれの都市も上昇傾向で推移している。

三幸エステートによると、名古屋市の空室率(2022年4月時点)は4.6%となり、前年比+0.8%上昇した(図表-1)。空室率をビルの規模別1にみると、「大規模4.1%(前年比+2.1%)」と「大型4.2%(同+0.2%)」が上昇した一方で、「中型5.4%(同▲0.4%)」と「小型5.5%(同▲1.1%)」は低下し、規模間の格差が縮小した(図表-2)。景気悪化やテレワーク普及などを受けてオフィス需要が低迷するなか、まとまった面積の募集では、入居テナントの決定に時間を要する事例が増加している。
図表-1 主要都市のオフィス空室率/図表-2 名古屋オフィスの規模別空室率
全国主要都市の成約賃料は、オフィスの解約や事業拠点の一部閉鎖などにより空室面積が増加し、賃料にも頭打ち感がみられる。名古屋市の2021年下期の成約賃料は、前期比+0.4%、前年同期比+1.8%となった(図表-3)。
図表-3 主要都市のオフィス成約賃料(オフィスレント・インデックス)
2021年の空室率と成約賃料の動き(前年比)を主要都市で比較すると、札幌市を除く全ての都市で空室率が上昇した。これに対して、成約賃料は概ね横ばいとなっている。名古屋市についても、空室率が前年から上昇した一方で、賃料は前年とほぼ同水準となった(図表-4)。

賃料と空室率の関係を表した名古屋市の賃料サイクル2は、2012年下期を起点に「空室率低下・賃料上昇」局面が続いていたが、2020年上期から「空室率上昇・賃料上昇」局面へと移行し、「空室率上昇・賃料下落」局面に向かいつつある(図表-5)。
図表-4 2021年の主要都市のオフィス市況変化/図表-5 名古屋オフィス市場の賃料サイクル
 
1 三幸エステートの定義による。大規模ビルは基準階面積200坪以上、大型は同100~200坪未満、中型は同50~100坪未満、小型は同20~50坪未満。
2 賃料サイクルとは、縦軸に賃料、横軸に空室率をプロットした循環図。通常、(1)空室率低下・賃料上昇→(2)空室率上昇・賃料上昇→(3)空室率上昇・賃料下落→(4)空室率低下・賃料下落、と時計周りに動く。
2-2. オフィス市場の需給動向
三鬼商事によると、名古屋ビジネス地区では、総ストックを表す賃貸可能面積は、大規模ビルの新規供給等に伴い、97.1万坪(2020年末)から97.9万坪(2021年末)へと+0.8万坪増加した。また、テナントによる賃貸面積は、オフィス需要が縮小し、93.4万坪(2020年末)から92.4万坪(2021年末)へと▲1.0万坪減少した(図表-6、図表-7)。

この結果、2021年末の名古屋ビジネス地区の空室面積は5.5万坪(前年比+1.8万坪)となり、前年から倍増した(図表-6)。
図表-6 名古屋ビジネス地区の賃貸可能面積・賃貸面積・空室面積
図表-7 名古屋ビジネス地区の賃貸可能面積・賃貸面積・空室面積の増減
2-3. 空室率と募集賃料のエリア別動向
三鬼商事によれば、2021年末時点で最も賃貸可能面積が大きいエリアは、「名駅地区(37.0%)」で、次いで「栄地区(27.0%)」、「伏見地区(26.2%)」、「丸の内地区(9.8%)」の順となっている(図表-8)。エリア別の賃貸可能面積(増減)をみると、「栄地区」(前年比▲1.1万坪)で減少したが、「名駅地区」(前年比+1.2万坪)や「伏見地区」(前年比+0.6万坪)等で増加し、計+0.8万坪の増加となった(図表-9)。
図表-8 名古屋ビジネス地区の地区別オフィス面積構成比(2021年)/図表-9 名古屋ビジネス地区の地区別オフィス需給面積増分(2021年)
賃貸面積は、「名駅地区」を除く、「栄地区」(前年比▲1.2万坪)、「伏見地区」(同▲0.3万坪)、「丸の内地区」(同▲0.2万坪)で減少した結果、空室面積は計+1.8万坪増加した。

名古屋市のエリア別の空室率(2022年3月末)は、「伏見地区6.9%(同+3.4%)」、「名駅地区6.6%(前年比+1.4%)」、「丸の内地区5.6%(同+2.9%)」、「栄地区3.5%(同+0.1%)」となり、全てのエリアで上昇した(図表-10左図)。

一方、募集賃料は、「伏見地区」を除く全てのエリアで前年比プラスを維持した。(図表-10右図)。
図表-10 名古屋ビジネス地区の地区別空室率・募集賃料の推移(月次)

3. 名古屋オフィス市場の見通し

3. 名古屋オフィス市場の見通し

3-1. 新規需要の見通し
(1)オフィスワーカー数の見通し
住民基本台帳人口移動報告によると、2021年の名古屋市の転入超過数は+1,302人となり、転入超過を維持したものの2020 年(+3,075人)の半数以下に留まった(図表-11)。また、愛知県の就業者数は、2020年以降横ばいで、2021年は416.2万人(前年比+1.5万人)となった(図表-12)。
図表-11 主要都市の転入超過数/図表-12 愛知県の就業者数
以下では、名古屋のオフィスワーカー数を見通すうえで重要となる「東海地方」における「企業の経営環境」と「雇用環境」について確認したい。

内閣府・財務省「法人企業景気予測調査」によれば、「企業の景況判断BSI3」(東海地方)は、2020年第2四半期に「▲52.2」と一気に悪化した。その後は、回復と悪化を繰り返しながら2021 年第4 四半期に「+12.0」まで回復したが、2022 年第1 四半期は「▲6.4」と再び悪化した(図表-13)。

また、「従業員数判断BS4」(東海地方)は、不足の「21.1」(2020年第1四半期)からやや過剰の「▲1.3」(第2四半期)へ大幅に低下した後、足もとでは「+17.2」まで回復したが、コロナ禍以前の水準には至っていない(図表-14)。
図表-13 企業の景況判断BSI(全産業)/図表-14 従業員数判断BSI(全産業)
名古屋市では、人口の流入超過が継続しているもののその勢いは鈍化しており、愛知県の就業者数は、2020年以降横ばいで推移している。また、コロナ禍が東海地方の「企業の経営環境」と「雇用環境」に与えたダメージが残り、本格的な回復に至っていない。以上のことを鑑みると、名古屋市のオフィスワーカー数の拡大は力強さに欠けることが予想される。
 
3 企業の景況感が前期と比較して「上昇」と回答した割合から「下降」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど景況感
が悪いことを示す。
4 従業員数が「不足気味」と回答した割合から「過剰気味」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど雇用環境の悪化を示す。

(2022年05月17日「不動産投資レポート」)

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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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