2021年09月07日

新型コロナワクチン接種後の消費行動や働き方の予測-約半数が外出行動を再開、約7割がマスク着用等が習慣化

基礎研REPORT(冊子版)9月号[vol.294]

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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1―ワクチン接種後の予測

政府は10~11月に希望者全員の新型コロナウイルスのワクチン接種完了を目指している。感染力の強い変異種の感染拡大によって先行き不透明な部分はあるが、ワクチン接種が進むことで、コロナ禍の出口もおぼろげに見えてきたのではないか。
 
ニッセイ基礎研究所が20~74歳の約2582名を対象に7月に実施した「第5回新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」によると、ワクチン接種が進んだ後、外食や旅行などの外出型の消費行動がコロナ前と同様になることについて、約半数がそう思う(「そう思う」+「ややそう思う」)と回答している[図表1]。
ワクチン接種後の変化
生活様式や価値観等では、マスク着用や社会的距離を取ることの習慣化について、約7割がそう思うと回答している。ウイルスとの戦いの出口が見えてきたとはいえ、多くの生活者はウイルスとの共存は続くと考えているようだ。
 
また、ワクチン接種済み証明の有無による差別や分断が生じることについては約半数がそう思うと回答しているが、現在はワクチン接種進行の過渡期であり、今後、大多数が接種済みとなった時点では意識が変容している可能性もある。
 
働き方では、出張が減りオンライン会議が増えることについては約半数が、出社が減りテレワークと併用した働き方が主流になることについては約4割が、そう思うと回答している。前者の方がそう思う割合は高いが、これは、出張を要する遠隔地との会議は通常業務よりテレワークの利点を活かしやすいためだろう。一方、通常業務では、医療や介護などテレワークが難しい業種もある上、テレワークが可能な業種であっても、現在のところ、出社とテレワークの最適なバランスを模索中の組織も少なくない。2020年は様々な組織でテレワーク環境の整備が進んだが、足元ではIT企業等でも社員同士の対面コミュニケーションによる協業から得られる価値を再認識することで、オフィス回帰の動きも見られる*1
 
また、コロナ前のように勤め先で飲み会等が実施されることについては、そう思う割合は約3割にとどまる。やはり業種によらず、大なり小なり働き方が変わることで、上司や同僚との付き合い方も変わると考えているのだろう。

2―属性別のワクチン接種後の予測

1|外出型消費行動
外出型の消費行動について性別に見ると、そう思う割合は、いずれも女性が男性を上回る[図表2]。
消費行動の変化
女性の方が外出行動再開への期待感が強いようだが、これは、従来から様々な消費文脈で言われてきたように、女性の方が男性より消費意欲が旺盛であるためだろう。同じ年収階級の男女の消費性向を比べると、年収階級によらず女性が男性を上回るという事実もある*2
 
年代別には、20歳代、あるいは高齢層ほど、そう思う割合が高い傾向がある。これは、感染による重篤化リスクの高い高齢層ほど外出自粛傾向が強いために、外出行動再開への期待感が強い影響が考えられる。
 
また、若者は従来から他年代と比べて外出行動に積極的であるために期待感が強いのだろう。なお、職業別に見ると20歳代の多い学生では、全ての項目で、そう思う割合が全体を大幅に上回り、特に旅行やレジャーでは69.4%を占める(全体+24.3%pt)。
 
なお、各年代で性別に見ても、そう思う割合は、おおむね女性が男性を上回る。
 
ワクチン接種状況・意向別には、接種完了層や完了間近の層、接種に積極的な層で、そう思う割合が高く、外出行動再開への期待感が強い(図略)。一方、接種に消極的な層では、そう思う割合が低い。なお、接種に消極的な層は、感染による重篤化リスクの低い若い年代が多く、「絶対に接種したくない」と回答した層では、20~30歳代が過半数を占める。
 
2|生活様式・価値観等
生活様式・価値観等について性別に見ると、そう思う割合は、いずれも女性が男性を上回り、特にマスク着用や社会的距離の習慣化で高い[図表3]。
生活様式・価値観の変化
これは、感染不安の強さの違いによるものだろう。同調査にて、感染による「健康状態悪化」や「世間からの偏見・中傷」、「人間関係悪化」について不安のある割合は、いずれも女性が男性を大幅に上回る(いずれも+10pt以上)。
 
年代別には、高年齢層ほどマスク着用等を積極的に考えており、そう思う割合は70歳代で8割を超える。
 
3|働き方
働き方について性別に見ると、そう思う割合は、いずれも女性が男性を上回る[図表4]。
働き方の変化
特に、出張が減りオンライン会議が増えることなどで高いが、これは女性の方がテレワークの浸透に対して期待感が強いためだろう。同調査にて、在宅勤務が増え「通勤が減ることで郊外の居住が増えること」や「都合の良い時間に働きやすくなること」、「人間関係のストレスが減ること」について、そう思う割合は、いずれも女性が男性を上回る。
 
また、従来から、仕事と家庭の両立にあたり、女性の家事や育児の負担の大きさは各所で指摘されている。内閣府「令和2年版男女共同参画白書」によると、2016年の共働き世帯の家事・育児・介護時間は、夫は週平均39分だが、妻は258分であり、3時間半以上の差がある。
 
年代別には、20歳代でテレワーク併用が主流になることについて、高齢層ほど出張が減りオンライン会議が増えることについて、そう思う割合が高い傾向がある。また、50歳代を底に若い年代ほど、コロナ前のように勤め先で飲み会等が実施されると考えている。なお、高齢層では無職が多いため、自分自身のことではなく世間一般のことを想定して回答している可能性がある。
 
就業形態別には、正規雇用者の管理職以上で、テレワークを併用した働き方が主流になることや出張が減りオンライン会議が増えることなどについて、そう思う割合が高い[図表5]。
働き方の変化
経営者や管理職は、組織においてテレワークを推進していく立場にあることや、在宅勤務の利用をはじめ日頃の業務における裁量の幅が大きいこと、また、現場業務が比較的少ないために在宅勤務を活用しやすいことなどから、テレワークの浸透に対して肯定的な見方が強いと考えられる。

3―感染状況を見ながら需要喚起策を

ワクチン接種が進む中で、飲食代金の割引やポイントサービスの割り増し、保有者向けのイベントやキャンペーンの実施、医療機関や介護施設の面会制限の緩和などを目的としたワクチンパスポートの国内活用が検討されている。
 
コロナ禍は業種や雇用形態による経済状況の分断を生んでいる*3。くれぐれも感染状況を慎重に見ながらだが、現在停止されているGoToキャンペーンとの組合せなども検討し、消費を牽引する可能性の高い層などへ向けて需要喚起策が講じられることで、コロナ禍で苦境に立つ飲食業や旅行業などの救済が進むことを期待したい。
 
*1 「オフィス再開で社員と綱引き米IT大手、感染収束にらみ」日本経済新聞(2021/06/11)など。
*2 久我尚子「平成における消費者の変容(2)」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2019/3/12)
*3 久我尚子「コロナ禍1年の仕事の変化」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2021/4/20)
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

(2021年09月07日「基礎研マンスリー」)

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