2020年05月01日

米個人所得・消費支出(20年3月)-新型コロナで個人所得は前月比▲2.0%、消費支出は同▲7.5%の大幅減少、市場予想も下回る

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:個人所得、消費支出ともに市場予想を大幅に上回る落ち込み

4月30日、米商務省の経済分析局(BEA)は3月の個人所得・消費支出統計を公表した。個人所得(名目値)は前月比▲2.0%(前月:+0.6%)と前月から減少し、市場予想(Bloomberg集計の中央値、以下同様)の▲1.7%を下回った(図表1)。個人消費支出は前月比▲7.5%(前月:+0.2%)と、こちらは統計開始以来最大の落ち込みとなり、市場予想(▲5.1%)も下回った。また、価格変動の影響を除いた実質個人消費支出(前月比)は▲7.3%(前月:+0.1%)と、こちらも最大の落ち込みとなったほか、市場予想(▲6.2%)を下回った(図表5)。貯蓄率1は13.1%(前月:8.0%)と、前月から+5.1%ポイントの急上昇となった。

価格指数は、総合指数が前月比▲0.3%(前月:+0.1%)と前月からマイナスに転じ、市場予想(▲0.3%)に一致した。また、変動の大きい食料品・エネルギーを除いたコア指数も▲0.1%(前月:+0.2%)とマイナスに転じ、市場予想(▲0.1%)に一致した(図表6)。前年同月比では、総合指数が+1.3%(前月:+1.8%)と前月を下回った一方、市場予想(+1.3%)に一致した。コア指数は+1.7%(前月:+1.8%)と前月を下回ったものの、市場予想(+1.6%)は上回った(図表7)。
 
1 可処分所得に対する貯蓄(可処分所得-個人支出)の比率。

2.結果の評価:新型コロナの自宅待機命令で消費は激減、4月はさらに落ち込む見込み

(図表1)個人所得・消費支出、貯蓄率 3月に入り、米国内の新型コロナの感染者数、死亡者数が急増する中で感染が深刻な多くの州で感染対策として、自宅待機命名が発動された。また、3月中旬にトランプ政権も新型コロナのガイドラインを発表し、不要不急の旅行や外食の自粛を打ち出したことから、多くの企業や学校が休業、休校となったほか、外食や宿泊に対する消費が落ち込んだ結果、3月の個人消費支出は前月比▲7.5%と60年の統計開始以来最大の落ち込みとなった。

もっとも、これらの感染対策は4月末まで継続されているため、4月の個人消費支出は当月を上回る落ち込みとなることが確実だ。

一方、FRBが物価指標としているPCE価格指数(前年同月比)は、総合指数、コア指数ともに前月から低下した。総合指数は原油価格が大幅に落ち込んでいることもあって今後も大幅な低下が見込まれるほか、コア指数も労働需給の大幅な緩和を背景に暫くは低下基調が持続しよう。

3.所得動向:賃金・給与、自営業者所得が大幅な落ち込み

個人所得の内訳をみると、政府による社会保障関連の補助金などの移転所得が前月比+1.6%(前月:+0.2%)と前月から伸びが加速したほか、利息・配当収入が▲0.1%(前月:▲0.4%)と前月からマイナス幅が縮小した(図表2)。一方、賃金・給与が▲3.1%(前月:+0.5%)となったほか、自営業者所得も▲8.2%(前月:+3.3%)と前月からマイナスに転じた。とくに、自営業者所得は、前月に高い伸びとなった反動もあって、大幅なマイナスとなった。

個人所得から税負担などを除いた可処分所得(前月比)は、3月が▲2.0%(前月:+0.5%)と前月からマイナスに転じた(図表3)。また、価格変動の影響を除いた実質ベースも▲1.7%(前月:+0.4%)といずれも13年1月以来の落ち込みとなった。
(図表2)名目個人所得(前月比寄与度)/(図表3)可処分所得(名目、実質)

4.消費動向:自動車・自動車部品、サービス消費が大幅な落ち込み

3月の名目個人消費(前月比)は、財消費が▲3.1%(前月:▲0.6%)と前月からマイナス幅が拡大したほか、サービス消費が▲9.5%(前月:+0.5%)と、前月から大幅に落ち込んだ(図表4)。

財消費では、耐久財が▲15.1%(前月:▲0.9%)と2桁の落ち込みとなった一方、非耐久財は+3.1%(前月:▲0.4%)となり、前月からプラスに転じた。

耐久財では、娯楽財・スポーツカーが▲6.9%(前月:+0.1%)、家具・家電が▲8.7%(前月:+0.1%)、自動車・自動車部品が▲26.5%(前月:▲2.2%)と、軒並み大幅な落ち込みとなった。とくに、自動車・自動車部品では90年の統計開始以来最大の落ち込み幅となった。

非耐久財では、衣料・靴が▲29.8%(前月:▲0.5%)、ガソリン・エネルギーが▲15.2%(前月:▲3.3%)と2桁の落ち込みとなったものの、食料・飲料が+19.8%(前月:▲0.0%)と2桁のプラスとなり、全体を押し上げた。

サービス消費は、娯楽が▲29.5%(前月:▲0.7%)、外食・宿泊が▲26.4%(前月:▲0.3%)、輸送サービスが▲25.5%(前月:▲0.1%)、医療サービスが▲16.1%(前月:+0.2%)と軒並み2桁の大幅な落ち込みとなった。
(図表4)名目個人消費(前月比寄与度)/(図表5)個人消費支出(名目、実質)

5.価格指数:エネルギー価格は前年同月比で4ヵ月ぶりに物価を押し下げ

価格指数(前月比)の内訳をみると、エネルギー価格指数が▲6.1%(前月:▲2.1%)と3ヵ月連続で物価押し下げとなったほか、押し下げ幅が拡大した(図表6)。一方、食料品価格指数は+0.6%(前月:+0.5%)とこちらは3ヵ月連続で物価を押し上げたほか、前月から伸びが小幅ながら加速した。

前年同月比では、エネルギー価格指数が▲6.7%(前月:+2.9%)とこちらは4ヵ月ぶりにマイナスに転じた(図表7)。4月も原油価格の低迷が続いたため、4月も物価を押し下げる可能性が高い。一方、食料品価格指数は+1.1%(前月:+0.8%)とこちらは17年7月以来33ヵ月連続のプラスとなった。
(図表6)PCE価格指数(前月比)/(図表7)PCE価格指数(前年同月比)
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2020年05月01日「経済・金融フラッシュ」)

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