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噴火による降灰の影響-中央防災会議作業部会における報告~災害・防災、ときどき保険(10)

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩
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1―はじめに~万一の時への備え
それらを踏まえ、対応方針の策定や必要な法律の整備などが各レベルで進んでいくのであるが、今回はそのうちで「火山の噴火」というテーマで、わが国の検討状況のひとつをお伝えしたい。
2―火山噴火への備え
誰が日頃からのそうした備えを検討しているかについては、もちろんいろいろあるが、わが国において大きな自然災害については、内閣府に「中央防災会議」が設けられていて、それらを網羅して対応を検討している。具体的には風水害、火山、地震・津波に関して、各種の専門調査会、ワーキンググループ、検討会といった名称の会議が設置されている。
今回紹介するのは、2020.3.31に行われた作業部会「防災対策実行会議 大規模噴火時の広域降灰対策検討ワーキンググループ」の報告についてである。
噴火による災害といえば、まずはその火口付近や山麓における火砕流、噴石、溶岩流、火山ガスなどがあるが、このうち火山灰については、噴火の規模によっては相当遠方の地域にまで降り積もり、ライフラインなどになんらかの被害をもたらすことが予想される。それがどのようなものと予想され、どんな対策が考えられるかを検討しようというのがこの部会である。
噴火による降灰という意味では、日本は「国土・都市に対する、火山の位置と風向き」という意味で、そもそも被害が拡大しやすい状況におかれている。例えば後に述べるように、富士山が大規模な噴火をした場合、その火山灰は偏西風にのって東側すなわち首都圏方向に流され、降り積もる可能性が高い。日本の国土全体でみた場合でも、阿蘇山や鬼界カルデラなど大規模火山は九州にも多くあり、その降灰は偏西風に乗って日本列島を覆うように降り積もる。過去数万年スケールでみれば、そういった事例が実際に何度もある。さらに範囲を広げてみれば、例えば朝鮮半島に白頭山という火山があるが、ここで大規模な噴火が起きた場合は、過去の事例からすれば、その火山灰が偏西風に乗って日本の東北地方や北海道に降灰することになりそうである。
火山としての富士山について少し触れておく。少し前まで、例えば昭和の時代には、日本国内における火山の分類は活火山、休火山、死火山の3種とされ、富士山は休火山であるとされていた。しかし1979年の御嶽山の噴火(「死火山」とされた火山の噴火)をきっかけとして、この定義は見直され、現在は「概ね一万年以内に噴火した火山及び現在活発な噴気活動のある火山」を活火山と定義し直しており、日本では富士山をはじめとして111の活火山が指定されている。(一方、休火山、死火山という用語は現在では用いられない。)
文書で確認できる富士山の噴火は過去10回あるという。最後に大規模な噴火をしたのは1707年宝永噴火1で、その時には東京都心(もちろん当時は江戸)にも相当の降灰被害があったというが、それ以来約300年噴火していない。溶岩流の規模としては864年の貞観噴火が最大で、この時に流れ出た溶岩の原野の上にやがて森林ができたのが青木ヶ原樹海である。また当時あった「せのうみ」というひとつの大きな湖に溶岩が流れ込んで、現在の精進湖と西湖に分かれて残ったとされる。
1 その時の火口を宝永火口と呼び、新幹線からでも見える。富士山右側のくぼみらしきところである。
さて「大規模噴火時の広域降灰対策検討ワーキンググループ」は過去3回開催され、以下のような検討を行ってきた。
第1回(2018.9.11)
富士山の大規模噴火時の降灰分布の推計手法について
降灰が与える影響の被害想定項目について
第2回(2018.12.7)
火山灰の特徴について、富士山の宝永噴火における降灰、
降灰による影響の想定の考え方(交通分野)
第3回(2019.3.22)
降灰による影響の想定の考え方、降灰による影響の想定に用いる降灰分布
さて、それを受けて今回が第4回で、以下のような項目からなる。
「大規模噴火時の広域降灰対策について
-首都圏における降灰の影響と対策-~富士山をモデルケースに~(報告)」2
対策の検討の前提となる降灰の影響等
(1) 想定ケース 富士山で宝永噴火(1707)レベルの噴火が起こり、その時の風向きは3ケース(西、西南西、風向きの変化が大きい時)とする。
(2) 降灰による影響(後述)
(3) 対策の検討の前提とする輸送手段の利用可能性(主要道路の復旧)
(4) 火山灰の処理(東日本大震災の災害廃棄物量の10倍とも見込まれる火山灰の処理)
これらを踏まえた
住民等の行動の基本的考え方(家屋の倒壊の可能性がある範囲、社会的混乱、避難など)
対策の検討にあたっての留意事項
・防災計画の必要性、関係者による検討体制
・平時、火山活動活発時、噴火発生後、それぞれの際の対応の検討
最も興味ある事項として、(2) 降灰による影響、を抜粋して挙げてみよう。
鉄道:微量の降灰でも地上路線の運航は停止
道路:視界低下による安全通行が困難、乾燥時㎝降雨時㎝以上の降灰でバイクなどは通行不能
航空:滑走路の使用不可、火山灰が存在する空域の迂回、それによる運航可能便数制限
物資・人の移動:買占め、売り切れ、交通支障による配送困難、店舗の営業困難による入手困難
電力:電線などへの降灰による停電などの不具合、火力発電所設備のフィルター交換などの必要性などから発電量低下
通信:利用者増による回線のパンク、通信アンテナへの火山灰付着による障害
上水道:原水の水質悪化またはその処理能力超過による引用不適・断水
下水道:降雨時の下水管の閉塞 発電設備の不具合から停止しよう制限
建物:降雨時30㎝以上の堆積で木造家屋の倒壊可能性が高まる
定量的な影響はそれぞれの事業者などに任せるとしても、心配な項目を挙げるだけならば、我々にもまだいろいろと思いつきそうである。
例えば、この冬はなかったものの、首都圏では時に大雪で混乱が起こる。雪ならば積もってもいつかは溶ける、あるいは蒸発するが、あれが全部火山灰だとしたら、何もしなければいつまでも残るだろう。その時どんな大変なことになるか、ということでもある。
3――おわりに
火山の多い日本で今まで検討がされていなかったというのも不思議ではあるが、江戸時代ならともかく現在のようなライフラインや通信が当たり前の世の中になってから、大きな不都合は一度もなかったのだから無理もない。
東日本大震災、原発事故、昨年の台風や豪雨の際に指摘された様々な不具合、そして今般の新型コロナウィルスへの対応も含め、有事の際の苦い経験も踏まえた検討が今後進むことを期待したい。
(2020年04月07日「基礎研レター」)

03-3512-1833
- 【職歴】
1987年 日本生命保険相互会社入社
・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
2012年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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