2020年02月10日

オフィス・物流市場は一段と改善、住宅市場は弱含みで推移-不動産クォータリー・レビュー2019年第4四半期

金融研究部 准主任研究員 渡邊 布味子

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1. 経済動向と住宅市場

19年7-9月期実質GDP成長率(2次速報)は前期比+0.4%(年率+1.8%)に上方修正された。主に設備投資(前期比+0.9%→+1.8%)が成長率の上振れ要因となった。一方、経済産業省によると、10-12月期の鉱工業生産指数は前期比▲4.0%と2四半期連続で低下し、悪化幅は前回の消費増税後の落ち込み(前期比▲2.9%)を上回った。先行きについては消費増税前の駆け込み需要の反動減が和らぎ、国内需要は徐々に回復するが、新型肺炎の感染拡大による中国工場の停止などが長期化すれば、持ち直しつつあった中国向け輸出が再び落ち込むことも考えられる1(図表-1)。
図表-1 鉱工業生産(前期比)
ニッセイ基礎研究所は、昨年12月に経済見通しの改定を行った。実質GDP成長率は2019年度0.8%、2020年度0.6%、2021年度0.8%を予想する(図表-2)2。政府は12月に事業規模26.0兆円、財政支出13.2兆円の経済対策を閣議決定したが景気の押し上げ効果は限定的とみる。
図表-2 実質GDP成長率の推移(年度)
住宅市場は価格が高値圏で推移するなか、減速傾向が強まっている。2019年12月の新設住宅着工戸数は72,174戸(前年比▲7.9%)となり6カ月連続で減少した。また、2019年全体でも前年比▲4.0%の約90.5万戸となり3年連続で減少した。持ち家(+1.9%)や分譲住宅(+4.9%)は増加したが、全体の約4割を占める貸家が前年比▲13.7%と2年連続で減少し全体の着工戸数を押し下げている(図表-3)。
図表-3 新設住宅着工戸数(全国、年間)
2019年の首都圏のマンション新規発売戸数は31,238戸(前年比▲15.9%)となり3年ぶりに減少した(図表-4)。主に東京都下(▲30.8%)や千葉県(▲36.0%)の販売が減少した。1戸当たりの平均価格は5,980万円(前年比+1.9%)、m2地価は7年連続上昇の87.9万円(前年比+1.2%)、初月契約率は62.6%(前年比+0.5%)となった。不動産経済研究所は、2020年の供給戸数について3.2万戸(前年比+2.4%)を予想している。
図表-4 首都圏のマンション新規発売戸数(年間)
一方で、東日本不動産流通機構(レインズ)によると、2019年の首都圏中古マンションの成約件数は38,109件(前年比+2.4%)となり過去最高を更新した(図表-5)。ただし、10月以降は3カ月連続で前年比マイナスとなり頭打ち感もみられる。成約価格は前年比+3.3%の3,442万円となり7年連続で上昇した。
図表-5 首都圏の中古マンション成約件数(年間)
日本不動産研究所によると、2019年11月の住宅価格指数(首都圏の中古マンション)は前年比+0.3%上昇し高値圏での横ばいの動きとなっている(図表-6)。

住宅市場は価格が高止まりするなか消費増税や個人の貸家業向け貸し出しの低迷が尾を引いており、総じて弱含みで推移している。
図表-6 不動研住宅価格指数(首都圏の中古マンション)

2. 地価動向

地価は引き続き上昇している。国土交通省の「地価LOOKレポート(令和元年第3四半期)」によると、全国100地区のうち上昇が「97」、横ばいが「3」、下落が「0」となり、7期連続で上昇が9割以上となった(図表-7)。金融緩和による良好な資金調達環境、好調なオフィス市況、利便性の高いエリアでのマンション需要、訪日外国人の増加によるホテルの建設需要などを背景に不動産投資が活発で、地価を押し上げている。
図表-7 全国の地価上昇・下落地区の推移
一方、野村不動産アーバンネットによると、首都圏住宅地価格の変動率(2020年1月)は前期比+0.1%となった(年間0.3%上昇)。首都圏では「横ばい」を示した地点の割合は87.5%となり、横ばいの傾向が続いている(図表-8)。
図表-8 首都圏の住宅地価(変動率、前期比)

3.不動産サブセクターの動向

3. 不動産サブセクターの動向

(1) オフィス
三鬼商事によると12月の東京都心5区空室率は前月比▲0.01%低下の1.55%、平均募集賃料は前月比+0.6%上昇し72カ月連続でプラスとなった。空室率が過去最低で推移するなか、募集賃料は足もと年率6~7%のペースで上昇し前回ピーク(2008年8月)に対して97%の水準まで回復した。また、他の主要都市でも引き続き需要が強くオフィスの新規供給が限定的であるため空室率が低下し(図表-9)、募集賃料も上昇している。

三幸エステート公表の「オフィスレント・インデックス」によると、2019年第4四半期の東京都心部Aクラスビル賃料(月坪)は42,242円(前期比+6.6%)となった。空室率が1%を下回り需給が逼迫するなか、Aクラスビル賃料は4万円をはさんで緩やかな上昇傾向を示している(図表-10)。
(図表-9)図表-9 主要都市のオフィス空室率/(図表-10)図表-10 東京都心部Aクラスビルの空室率と成約賃料
今年、東京都心5区では20万坪を超える大規模ビルの大量供給が予定されているが、その9割以上のスペースでテナント誘致の目処が立っている(三幸エステート調べ)。また、森ビルの「2019年東京23区オフィスニーズに関する調査」によると、新規賃貸する理由として「業容・人員拡大(44%)」が過去10年で最大の回答割合となり、「立地の良いビル(28%)」や「フロア面積が大きなビル(27%)」など前向きな移転ニーズが上位を占める。 (図表-11)。

このように、オフィス拡張や環境改善ニーズは引き続き強いものの、今後予想される既存ビルからの移転に伴う2次空室の影響に留意したい。
図表-11 新規賃貸する理由(オフィスビルニーズ調査)
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金融研究部   准主任研究員

渡邊 布味子 (わたなべ ふみこ)

研究・専門分野
不動産市場、不動産投資

経歴
  • 【職歴】
     2000年 東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行
     2006年 総合不動産会社に入社
     2018年5月より現職
    ・不動産鑑定士
    ・宅地建物取引士
    ・不動産証券化協会認定マスター
    ・日本証券アナリスト協会検定会員

    ・2022年、2023年 兵庫県都市計画審議会専門委員

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