2019年04月08日

【3月米雇用統計】雇用者数は前月比+19.6万人と2月(同+3.3万人)の伸び鈍化が一時的であったことを示す結果

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:失業率は前月から横這いも、雇用者数は前月、市場予想を上回る

4月5日、米国労働省(BLS)は3月の雇用統計を公表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+19.6万人の増加1(前月改定値:+3.3万人)と、+2.0万人から上方修正された前月を大幅に上回ったほか、市場予想の+17.7万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)も上回った(後掲図表2参照)。

失業率は3.8%(前月:3.8%、市場予想:3.8%)と、こちらは前月、市場予想に一致した(後掲図表6参照)。労働参加率2は63.0%(前月:63.2%、市場予想:63.2%)と、前月から▲0.2%ポイント低下し、市場予想も下回った(後掲図表5参照)。
 
1 季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
2 労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。

2.結果の評価:雇用の伸びが大幅に加速、2月の鈍化が一時的であったことを示す結果

3月の雇用増加数が20万人近い伸びに加速したほか、過去2ヵ月分が上方修正された結果、1-3月期の月間平均増加数は18.0万人増と、18年の同+22.3万人増からの低下幅が限定的となった。雇用者数は1月と2月の振れが大きかったため、労働市場の評価が難しくなっていたが、ADP統計など他の指標を考慮すると、2月の大幅な伸び鈍化が一時的であった可能性が高いと判断できる。労働市場の回復が長期化しているほか、労働力不足が深刻化してきていることから、雇用の伸びは18年から鈍化が予想されるものの、当面は10万人台後半の高い伸びを維持しよう。

失業率は、労働参加率が低下したものの、およそ19年ぶりの低水準を維持しており、労働需給が引き続き逼迫していることを示している。
(図表1)時間当たり賃金の伸び率 一方、時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比+0.1%(前月:+0.4%、市場予想:+0.3%)、前年同月比が+3.2%(前月:+3.4%、市場予想:+3.4%)と、いずれも前月、市場予想を下回り、回復が足踏みする結果となった(図表1)。

このようにみると、3月の結果は時間当り賃金の伸び鈍化や労働参加率の低下があったものの、雇用増加数の伸びが大幅に加速するなど、全般的には良好な内容と評価できる。このため、米労働市場は引き続き堅調な回復が持続しているとみられる。

3.事業所調査の詳細:民間サービス、財生産、政府部門ともに雇用の伸びが加速

事業所調査のうち、民間サービス部門は前月比+17.0万人(前月:+5.6万人)と前月から大幅に伸びが加速した(図表2)。
(図表2)非農業部門雇用者数の増減(業種別) 民間サービス部門の中では、小売業が前月比▲1.2万人(前月:▲2.0万人)と2ヵ月連続で減少したほか、人材派遣業が▲0.5万人(前月:+0.3万人)となったことから専門・ビジネスサービスが+3.7万人(前月:+5.4万人)と前月から伸びが鈍化した。一方、娯楽・宿泊が+3.3万人(前月:▲0.1万人)と増加に転じたほか、医療サービスが+4.9万人(前月:+2.9万人)と前月から伸びが加速した。

財生産部門は前月比+1.2万人(前月:▲2.8万人)と前月から増加に転じた。製造業は▲0.6万人(前月:+0.1万人)と前月から減少に転じたものの、建設業が+1.6万人(前月:▲2.5万人)と増加に転じ、全体を押上げた。

政府部門は、前月比+1.4万人(前月:+0.5万人)と前月から伸びが加速した。内訳をみると、連邦政府は▲0.2万人(前月:+0.1万人)と前月から減少したものの、州・地方政府が+1.6万人(前月:+0.4万人)と前月から伸びが加速した。
前月(2月)と前々月(1月)の雇用増(改定値)は、前月が+3.3万人(改定前:+2.0万人)と+1.3万人上方修正されたほか、前々月が+31.2万人(改定前:+31.1万人)と、こちらも+0.1万人上方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は+1.4万人の上方修正となった(図表3)。
 
なお、BLSの公表に先立って4月3日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増加数が前月比+12.9万人(前月改定値:+19.7万人、市場予想:+17.5万人)と、+18.3万人から上方修正された前月改定値を下回ったほか、市場予想も下回った。一方、1-3月期の月間平均増加数ではADP統計が19.6人増と、雇用統計の18.0万人増に近い水準となっている。このため、19年入り後の雇用統計は振れが大きくなっているものの、雇用増加ペースの実力は10万人台後半と判断できる。
 
3月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が27.70ドル(前月:27.66ドル)となり、前月から+4セント増加した。一方、週当たり労働時間は34.5時間(前月:34.4時間)と、こちらは前月から+0.1時間増加した。その結果、週当たり賃金は955.65ドル(前月:951.50ドル)と前月から増加した(図表4)。
(図表3)前月分・前々月分の改定幅/(図表4)民間非農業部門の週当たり賃金伸び率(年率換算、寄与度)

4.家計調査の詳細:全体の労働参加率は低下も、プライムエイジでは横這い

家計調査のうち、3月の労働力人口は前月対比で▲22.4万人(前月:▲4.5万人)と2ヵ月連続で減少したほか、減少幅が拡大した。内訳を見ると、就業者数が▲20.1万人(前月:+25.5万人)と減少したほか、失業者数も▲2.4万人(前月:▲30.0万人)と減少幅は縮小したものの、2ヵ月連続の減少となり、労働力人口を押下げた。一方、非労働力人口は+36.9万人(前月:+19.8万人)と2ヵ月連続で増加した。

この結果、労働参加率は小数第1位でみると8ヵ月ぶりの低下となったが、小数第2位以下までとると2月から2ヵ月連続の低下となった(図表5)。もっとも、プライムエイジと呼ばれる働き盛り(25~54歳)のみの労働参加率では3月が82.5%(前月:82.5%)とこちらは前月から横這いとなっており低下はみられない。女性が75.7%(前月:75.9%)と前月から▲0.2%ポイントの低下となったものの、男性が89.5%(前月:89.4%)と前月から+0.1%ポイント上昇しており、プライムエイジの労働参加率からは労働需給が引き続きタイトであることがうかがわれる。

一方、失業率は1月に4.0%となったものの、2ヵ月連続で3.8%の水準を維持しており、1月の上昇が連邦政府機関の閉鎖に伴う一時的な要因による可能性が高くなった。
(図表5)労働参加率の変化(要因分解)/(図表6)失業率の変化(要因分解)
3月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は130.5万人(前月:127.1万人)と前月から+3.4万人増加した。平均失業期間は22.2週(前月:21.7週)となった。また、長期失業者の失業者全体に占めるシェアは21.1%(前月:20.4%)と、前月から+0.7%ポイント増加した(図表7)。
 
最後に、周辺労働力人口(135.7万人)3や、経済的理由によるパートタイマー(449.9万人)も考慮した広義の失業率(U-6)4をみると、3月は7.3%(前月:7.3%)と前月から横這いとなった(図表8)。この結果、通常の失業率(U-3)と広義の失業率(U-6)の差は3.5%ポイント(前月:3.5%ポイント)と、こちらも前月から横這いとなった。
(図表7)失業期間の分布と平均失業期間/(図表8)広義失業率の推移
 
3 周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
4 U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2019年04月08日「経済・金融フラッシュ」)

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